気温が徐々に暖かくなり、桜の季節が近づいてくると、おそらく少なくない人が「今年もやっぱりやってきたか…」と、気が滅入るようなシーズンに突入します。そう、花粉症です。

最近はマスクを常に装着するのが当たり前になったため、以前より花粉症の症状が軽くなった気もしますがもちろん花粉自体がなくなったわけではありません。あくまで花粉の影響を受けにくくなっているだけ。やっぱり花粉症にとってこの季節はつらいのです。

そんな花粉、花粉症の人間にとってだけでなく実はクルマにとってもとてもやっかいなものなのです。それはなぜか、大切なクルマの塗装にシミをつけてしまうからです。

そんな花粉によるシミ、何が問題で、どう除去すればいいのか? また放っておいても暖かくなれば勝手に落ちていくので大丈夫、という話もあるけれどそれは本当なのか? 調べてみました。

ボンネットに付着した花粉を
放っておいたらいつの間にかシミが!

ボンネットに付着した花粉

たかが花粉が、なんでクルマに対してやっかい存在となるのか? それは花粉が原因でクルマの塗装やウインドーにやっかいなシミができてしまうからです。

花粉が付着したまま屋外に放置しているとそこに雨が降ります。そして天気が回復して花粉が乾燥する。さらにまた雨が降って花粉が水分を含む、というサイクルと繰り返すと、もはや簡単にはとれないとてもやっかいなシミになってしまうのです。

シミなんて見た目が悪いだけで洗い流せばいい。そう思いますよね。でも花粉が原因のシミはクルマに対して見過ごすことのできない大きなダメージを与えてしまうこともあるのです。「おおげさな…」と思うかもしれませんが本当です。

例えば、あなたの住んでいる場所の近所に洗車をあまりしていない黒やダークブルーなど濃色のクルマは停まっていませんか。もし身近にあればそれらのクルマのウインドーやボンネットをチェックしてみてください。一面にシミができていないでしょうか。それはイオンデポジットの可能性もありますが、この時期ならそれは花粉によるダメージの可能性が高いでしょう。

さらに、黄色っぽいホコリのようなものが降り積もっていませんか。それが花粉もしくは黄砂なのです。花粉だけでなく、この黄砂も花粉との相乗効果でさらにガラスやボディにダメージを与えてしまうもので、この時期はダブルで厄介なのです。

ただ、こういった花粉も黄砂も付着した直後であればすぐ水で洗い流せば簡単に取り除くことができます。単にボディやガラスの上に乗っかっているだけですから。

しかし、前述のとおり、これらを除去しないまま雨が降り、そのあと乾燥してしまうとしつこくこびりついてもはや簡単には落とせなくなってしまいます。

これは花粉の構造が原因です。花粉は球状の膜でていてその中にペクチンというタンパク質を含んでいます。そして、一旦乾燥した状態の花粉に雨が降ると、水分を含んで花粉が膨らみこの膜が破れてしまうのです。そしてこのペクチンが流れ出してウインドーやボディべっとりとこびりついてしまうというわけです。

このペクチンは粘り気を帯びているので水で流した程度では中々取れません。さらに、しっかりとシャンプーを使って洗車をし、ウエスなどで拭き取ろうと思ってもホコリのように簡単には取れないのです。

塗装に浸透した花粉は
洗車だけでは落とせない

塗装に浸透した花粉は洗車だけでは落とせない

塗装面にこびりついた花粉は放置しているとなんと塗装の内部にまで深く浸透してしまうこともあります。

収縮してしまうのですが、その際ペクチン自身だけでなく、浸透し吸着している塗装も一緒に巻き込むように収縮させてしまいます。つまり塗装そのものをいわば変形させてしまう。そして塗装面にみにくいクレーター状のシミを作り出してしまうというわけなのです。

花粉が付着してから時間が経てばたつほど塗装内部に深く浸透して、さらに、温度が高くなればそれだけ収縮も激しくなりシミはひどくなります。

クルマの部位の中でも雨を受けやすく、また温度が高くなりやすい場所といえば、ボンネット。なんたってこの下にエンジンがありますから。気温だけでなくエンジン熱によってペクチンの収縮を早めてしまうのですね。なので、シミの被害が拡大しやすいというわけです。

花粉によって起こってしまったシミが厄介なのは、簡単に除去できないこと。表目に汚れが付着しているのではなく、塗装もろともペクチンが収縮した状態なのでいうなれば塗装が変形してしまっているということです。

洗車をして表面だけ洗い流しても、塗装に浸透してしまったペクチンは取れませんし、また雨が降り、乾燥すると再度収縮してしまいます。するとシミはさらにひどくなり、かつ除去することがより困難になってしまうということ。たかが花粉ですが、このように放っておくと想像以上に大きなダメージを与えてしまうのです。恐ろしいですね。

花粉を除去するには
お湯が使うのがオススメ

花粉除去にはお湯を使うのがオススメ

ペクチンが塗装内部に浸透することは、コーティングをしっかり行っていても防ぐことはできません。なんていったってクリアコートよりも深く塗装内部にまで浸透してしまうくらいですから。なので、自分のクルマには、高価なプロコーティングを施工しているから安心! なんていうのは間違いです。

花粉予防としてベストなのは花粉をとにかくクルマの塗装面に付着させないこと。それにはなんといってもガレージにクルマを保管するのが一番ですね。もしくはカーポートに停めボディカバーをしっかりしておくなども良いでしょう。

でも、なかなかそうはいかない駐車環境の人も少なくないと思います。それでは愛車に花粉がついてしまったらどうするべきか? とにかく雨が降り出す前に洗車をするのです。花粉が水分を吸って塗装面ではじけ、中のペクチンが流れ出る前に洗い流してしまうのです。素早く対処すれば花粉もこびりつくことなく簡単に洗い流すことが可能です。

簡単なことですが、雨は週末や休日だけ降るなんてことはありません。ウイークデー中に雨が降ってしまったら洗車するのも容易なことではありませんよね。そしてその結果、花粉によって比較的軽いシミができてしまったら…。

まず絶対にやってはいけないのが、シミを消すために塗装面にコンパウンドがけをするということ。一旦塗装の表面をコンパウンドで薄く削り、平らにならすとシミを消すことが可能です。でも、内部に浸透したペクチンはそのまま残ってしまいます。そして再び雨が降り、温度が上がってペクチンが乾燥すればまた塗装を巻き込みながら収縮してシミができてしまうのです。

ではどうするべきか。それはお湯を使うのです。実は70~80℃程度のお湯を使って、塗装内部に浸透したペクチンに熱を加えてやるとやっかいなペクチンと塗装の結合が解け、さらにペクチンを分解することができるのです。

ヒートガン(熱処理作業などに使用されるヘアドライヤーの強力版のようなものです)などを使ってもいいのでは、と考える方もいるかもしれません。確かにそうなのですが、扱い方を間違えると塗装面の温度を上げすぎてしまい、別のトラブルを起こす危険性があります。最大でも100度までにしか上がらないお湯をオススメするのは、それを防ぐためです。もちろんそれでもやけどには注意です。

温度が上がればペクチンは分解
シミが消える

温度が上がればペクチンは分解

ただし、温度を上げるために直接ボンネットなどにお湯をかけるだけではすぐに流れてしまいますよね。効果的にお湯を使うには一旦ウエスなどをボンネットの上に乗せ、その上からお湯をかけしばらく置いておくといいでしょう。ようは蒸しタオルをかぶせているような状態ですね。

予め車体にマイクロファイバークロスなどのウエスを置いておき、沸騰させたお湯をかけるだけで除去できます。

しかし、このやり方では除去できる範囲が少ないため、施工に時間がかかってしまいます。

そして、塗装面が十分に温まったらウエスを取り除き、再度お湯をかけて洗い流します。こうすることで塗装の内部に浸透したペクチンは塗装との結合を解き、分解されシミが回復するのです。あとは隅々まで洗車を行い、塗装表面にコンパウンドをかけ、鉄粉なども除去してからコーティングを行います。これで軽症であればかなり回復するはずです。

でも、温度を上げるとペクチンが分解されるということは、そのまま放っておいて夏になると勝手に分解されるのではという疑問がわきませんか? そう思ったあなたは鋭い。真夏の炎天下、ボンネットの温度は70度を簡単に超えます。なので、実はそういうこともあるのだそうです。春に花粉によってできた塗装のシミが、夏になったらいつの間にか消えていたというケースも、実際にあるのだそう。

ヒートガンによる
車の花粉シミ取り

ヒートガンによる車の花粉シミ取り

気温や天気に左右されず早く、シミを取り除きたい場合はホームセンターなどでヒートガン(ドライヤー)を購入し塗装面を強制的に温める方法もよいでしょう。

しかし、熱を加えることに意識して、温めすぎて塗装が溶けてしまったり、プラスティックパーツが変形しないように注意しながら作業しましょう!

高性能のヒートガンは温度設定もあるので60℃~70℃に設定しておくとよいでしょう。

だったらほうっておけばいいのか、というと、シミができたまま放置しておくのは気分も良くないですよね。また塗装内部でペクチンが収縮を繰り返せば、塗装に深いダメージを与えてしまう可能性もあります。であれば早めに対処して回復しておくのが得策

例えば、もし、花粉が付着した状態で長く放置しておき塗装に重大なダメージを受けてしまったら、もはや簡単に回復はできないでしょう。お湯を使った方法も効果が無いかもしれません。それは嫌ですよね。もしそうなったら知識の豊富なプロに頼むしかありません。素直に板金屋さんかカーコーティングなどのプロショップに相談しましょう。

そうなる前にやはり洗車ですね。そもそもやっかいな花粉だって早めに洗い流してやればシミの心配もありません。それに花粉以外にも鉄粉や雨ジミ、異音デポジットの防止にも洗車は間違いなく効果的。もちろん愛車への愛着だってさらに増すはずです。花粉症持ちにとって、春のこの時期、屋外で洗車をするのはつらいかもしれません。でもそれが、愛車のためになるのですから、我慢してこまめな洗車を心がるようにしてください。