避けがたいクルマのトラブルにタイヤのパンクがあります。日ごろからタイヤの点検を心がけていても、路上の釘やボルトなど異物が原因であればそれは避けられません。そんな万が一のトラブルの備えとしてクルマには応急用パンク修理キットが装備されています。でも、特にリース車両の場合は、その応急用パンク修理キットをよほどの緊急事態以外使わないほうが良いといわれています。それはなぜなのでしょう。また、万が一使用してしまった場合、カーリース車両の場合どのような問題が起きるのでしょうか。
目次
整備も点検もすべてお任せの
メンテナンスリース
新たなクルマの乗り方として注目を浴びている個人ユーザー向けのカーリース。中でも主流となっているのがメンテナンスリースです。メンテナンスリースはクルマの点検や整備、車検まで面倒なメンテナンスもカーリース会社に任せることができるというもの。月々のリース費用も定額なうえ、クルマの管理の負担もないのですから、初心者でも、クルマにさほど詳しくなくても安心してクルマに乗ることができます。つまりはクルマに関してはすべてリース会社にお任せして、リース契約者はクルマに乗るだけでいい。こんなに楽なことはありませんね。
でも、いくらメンテナンスリースで、メンテナスはすべてお任せできるといっても避けがたいこともあります。それは突然のトラブルです。クルマは不特定対数のクルマやバイク、歩行者とともに路上を走るものですから、いつどんな事態に見舞われるかは予想できません。いきなりトラブルに見舞われることも珍しくないのです。例えばその代表といえるのがタイヤのパンクです。
「でも、カーリースなら無料で提供されているロードサービスもあるから大丈夫でしょう。」確かにそうです。でも、どうしても遅れることのできない用事があって目的地まで急いでいるという場合はどうでしょう。ロードサービスが到着する時間も待てないという緊急事態も、もしかしたらあるかもしれません。そうなれば自分で対処することになります。
パンクしたタイヤを交換しようにも
スペアタイヤがない?
そんな時はどうするか、スペアタイヤに交換すればいい?でも、意外に知らない人もいるのですが、実は最近のほとんどのクルマにはスペアタイヤが搭載されていません。そのかわりに応急用パンク修理キットが標準装備されているのです。でも、なぜスペアタイヤがなくなって(オプションで追加することは可能ですが)しまったのでしょうか。実はちゃんと理由があります。それは燃費向上のためです。
スペアタイヤは緊急時に備えです。つまり使うことがなければ無駄な重りでしかありません。ということは、パンクが起こらない限りスペアタイヤは単なる燃費を悪化させるだけのジャマものということ。さらにそのクルマが廃車となった時にも余計なゴミが増えるだけということになります。
燃費向上を目指して必死に軽量化している現代のクルマにとっては使われないスペタイヤなど、スペースを圧迫し燃費の足を引っ張るだけの存在でしかありません。さらにエコカー減税対象車種は、車両重量ごとに定められた燃費数値が基準となっていますからこのスペアタイヤの重さはそういった意味でも無視できない存在なのです。そこで、最近はスペアタイヤを積むよりも大幅に軽量な応急用パンク修理キットが標準装備されるようになっているのです。
応急用パンク修理キットなら
スペアタイヤの1/10の重さ
スペアタイヤと応急用パンク修理キット、ちなみにどれくらい重さが違うのかというと、スペアタイヤの重さは車種にもよりますがおよそ10kgとされています。それに対して、応急用パンク修理キットは約1kgほど。9kgも差があるのです。車体重量を9kgも軽量化するのはコストもかかりかなり大変ですが、スペアタイヤを応急用パンク修理キットに変えるだけで9kgも軽量化が図れるのですから自動車メーカーがスペアタイヤの搭載をやめるのも当然といえるでしょう。
じゃあ、パンクの際はそのクルマに標準装備されている応急用パンク修理キットを使えばいいのでしょうか。緊急時には仕方がないとしても、果たしてカーリース車両の場合は安易につかってしまっていいのか、難しいところです。
ところでそもそも皆さんは自分のクルマの応急用パンク修理キットがどこに搭載されているかご存じですか。また、いざという時、どのように使えばいいのか知っていますか。知らないなら調べておくべきです。
まず応急用パンク修理キットがある場所ですがクルマによって多少違いはありますがだいたいトランクルームの下やトランク側面などにコンプレッサーとボトルがセットで収納されています。
そして合わせてジャッキ(パンタグラフジャッキ)も装備されているはずです。ワンボックスカーなどはリアドアを開けた開口部のボディ側下などに隠されるように装備されている場合もあります。
意外にコンパクトなセットで、空気を注入するシガーソケット電源タイプのエアコンプレッサーまでついているので、これがあればすぐにパンクの修理が行えます。ボトルにはタイヤの補修材が入っており、タイヤのエアバルブに接続するためのホースも付いています。これがあれば簡単にパンクの応急修理が可能です。ではどのように使うのか。
応急用パンク修理キットは
どのように使うのか
走行中にハンドルがとられたり、異常な音や振動を感じたらパンクの可能性がありますので、クルマを安全な場所に停めてまずはタイヤを確認してみましょう。タイヤに釘などの異物が刺さっていないかチェックします。もし釘などをみつけたらあわてて抜かないでください。穴が広がって修理キットが使えなくなる場合があります。その時点で走行可能な状態ならパンクした場所が上になるように慎重にクルマを進め作業しやすい場所まで移動します。
移動出来たらクルマのシフトポジションをPにして、エンジンやハイブリッドシステムを停止してください。さらにパーキングブレーキもしっかりかけて、ハザードランプを点滅させましょう。周囲を見て安全に作業できるか確認したらクルマから応急用パンク修理キットを取り出します。
応急用パンク修理キットにはコンプレッサーと補修材の入ったボトルを個別に使用するものと、コンプレッサーとボトルが接続されたものがあり、それぞれ少し使い方が違います。
コンプレッサーとボトルが接続されたものは、コンプレッサーによる圧力でボトル内の補修材をタイヤ内部に流し込み、同時に空気を送ります。使い方は簡単です。まずコンプレッサーのスイッチがオフになっていることを確認したら、電源をクルマのシガーソケットにつなぎます。そして、修理剤の入ったボトルをコンプレッサーにしっかりと接続しパンクしているホイールのエアバルブキャップを外したら注入用のホースの金具をエアバルブに確実に接続します。金具へのねじ込みが足りないと修理剤が漏れる恐れがあるので注意してください。
そしてクルマのエンジンをかけ、コンプレッサーのスイッチをONにすると、空気と一緒に補修材がパンクしたタイヤに送り込まれます。あとは、コンプレッサーの空気圧計の目盛りが指定空気圧に達したら、コンプレッサーのスイッチを切りタイヤのエアバルブからホースを取り外します。
ちなみにタイヤの指定空気圧は、運転席側のドアを開けると開口部のボディ側にラベルが貼られているはずなのでそれを確認してください。見つからない場合はクルマの説明書などにも記載されています。
応急用パンク修理キットは
あくまで応急処置でしかない
コンプレッサーと修理剤のボトルを別々に使用するタイプも基本は同じです。違いはパンクしたタイヤの空気を完全に抜いてからボトルに入った補修材をパンクしたタイヤに注入しておくということ。そしてボトルを外したあとにコンプレッサー使い、同じように指定の空気圧まで空気を注入します。
どちらともパンク修理剤は一本まるまる使い切るというのがポイントです。さらに修理剤を使用したという知らせるために修理キットに付いている「パンク周囲剤を使用しました」などと書かれた2枚のシールをタイヤのホイールと車内にそれぞれ1枚ずつ貼り付けておきます。これで修理完了、ではなく、いったんこの状態でスピードに気を付け(80km/h以下)で5kmほど走行してください。これは補修材をタイヤ内部にいきわたらせるためです。
補修材がタイヤ内にいきわたったら再度空気圧を調整しましょう。先ほど使ったコンプレッサーを再度エアバルブにつないでメーターで空気圧を確認します。空気圧が下がっていたら指定空気圧になるように調整します。指定空気圧まで空気が注入出来たら、これで応急修理は完了となります。
このように非常に簡単にパンクの修理ができるので便利なのですが、あくまでこういったキットは応急修理用のためのものなので当然限界もあります。まず車載の補修材はタイヤ1本分だけです。つまり2本以上のタイヤのダメージを受けた場合はすべてのタイヤを応急修理できません。さらに、トレッドへのダメージではなくタイヤの側面が裂けたり、4mm以上の大きな傷がある場合には残念ながら応急用パンク修理キットでの修復は不可能です。その場合はロードサービスを頼るしかないでしょう。
また、応急用パンク修理キットで応急処置したタイヤは、すみやかに交換しなくてはいけません。あくまで応急処置であり、パンクがなおったわけではないからです。
パンク修理キットを使うと
タイヤの修理ができない
なぜ交換が必須なのか。タイヤショップなどでパンク修理をお願いした場合は、そのままタイヤを使い続けることができるはずなのに。その理由は応急用のパンク修理キットではタイヤ内部に有機溶剤の入った補修材を流し込み、ゴムの成分を一部溶かしながら小さな穴をふさいでいるからです。そのため溶剤や接着剤の成分でタイヤの内部にダメージも与えてしまうことにもなるのです。タイヤショップなどでのパンク修理は接着剤を塗ったラバースティック(ゴムの栓)でパンクの穴をふさぎます。タイヤの内部にはダメージを与えず物理的に穴をふさいでいます。そのためパンクのダメージの状態にもよりますが通常はそのままタイヤを使い続けることもできるのです。さらに修理費用の数百円~数千円程度。
しかし応急用パンク修理キットで応急処置した場合は、前述したとおり内部にダメージを与えてしまっているのでタイヤを交換するしかありません。タイヤの再使用はNG。さらにホイールにも補修材で汚れがこびりついてしまうのでより厄介です。
タイヤ交換となるとホイールの清掃作業も必要なので単なるタイヤ交換よりも手間がかかり、交換作業の費用は確実に万の単位でかかってしまいます。応急用パンク修理キットを使ったばかりにこのような事態になってしまうわけです。
メンテナンスリースなら
ロードサービスの利用が正解
メンテナンスリースでカーリースを契約している場合、プランによってはタイヤ交換も通常の摩耗のサイクルであれば無料で行ってもらえるはず。しかし、応急用タイヤ修理キットを使ってしまうと、本来まで使えるはずだったタイヤがダメになってしまい、新品のタイヤへの交換に加え、ホイールの清掃の手間までかかってしまう。この場合リース会社に確認は必要ですがその分の費用が請求される可能性があります。つまりはせっかく月々定額のカーリースなのに、余計な出費が強いられてしまうこともないとはいえないのです。そうなのであれば、安易に応急用パンク修理キットを使うわけにはいきませんね。
もちろん緊急事態であればパンクの応急修理も仕方ありませんが、そうでない場合は極力ロードサービスを使用するのが正解でしょう。特にカーリースの場合はあとあと費用面で問題となる可能性もありますし、そもそもロードサービスが無料で提供されているはずですからそれを使わない手はありませんね。
いざという時のために応急用パンク修理キットの収納場所や使い方は知っておくべきですが、それを使うかどうかは慎重に検討しましょう。手軽に修理はできますが、紹介したようにあとあと大きな(経済的な)ダメージを負うかもしれません。このことは是非覚えておいてください。