夏は暑くて当たり前ですが、連日35℃オーバーの猛暑日が続くとさすがに身体も堪えます。昔なら最高気温35℃オーバーともなればそれこそニュースになるくらいのものでしたが今や当たり前のもの。それどころか40℃近い猛暑日もめずらしくなくなりました。そんな暑さを乗り越えるのにはエアコンが欠かせません。真夏の渋滞路をエアコンなしで運転するなんてありえませんね。

しかし、夏の渋滞路でエアコンが効かなくなってしてしまったらどうしますか。突然効かなくなるのではなく徐々に効きが悪くなって、暑さのピーク、今こそエアコンが必要だというシーンで全然涼しくならないなんて最悪ですね。

でも、そんなことが実はありえるのです。原因はエアコンの冷媒ガス漏れ。それは新車であってもあり得るトラブルのひとつ。ではもし冷媒ガスがエアコンから漏れてしまった場合どうするべきなのか。カーリースの場合、勝手に補充してもいいのか? またどんなガスを補充すればいいのでしょう。

35℃オーバーの猛暑が当たり前
エアコンなしでは夏は乗り越えられない

35℃を超える猛暑日が続くと、エアコンは命綱です。じっとしていても命にかかわるくらい危険な暑さ。でも昔はエアコンなしのクルマというのも珍しくありませんでした。しかし、今のこの暑さでエアコンなしのクルマに乗るのはそれこそ自殺行為です。すぐに熱中症になってしまうでしょう。

そんな、夏にはなくてはならないカーエアコンですが、最近騒音がしたりなんとなく以前より効きが悪くなったと感じることはありませんか?

「暑さが厳しいから効きが悪く感じられるんじゃないの?」確かにそうかもしれません。でも、今どきの新車であればこの猛暑だってもちろん想定済み。十分快適に過ごせるように設計されているはずです。気温が高くなったからといってエアコンの効きが悪くなるなんてことはトラブルでもない限りないはずです。

「でもうちは新車のリース車だし、メンテも受けているからそんなことはないはず」

確かにそうかもしれません。でもちょっと確認してみてください。よくよく考えるとなんとなく以前よりもエアコンが効きづらくなっているような気がしませんか。去年の同じ時期はもっと涼しかったかもしれない…。それ、もしかしたらエアコンに問題が起きているせいかもしれません。エアコンの冷媒ガスが抜けているのかも。冷媒ガスが抜けていればエアコンは正常に機能しません。でも、その場合どうすればいいのでしょう。

冷媒ガスが気化することで空気の
熱を奪い車内を冷やしている

エアコンがどうやって熱い空気を冷やしているのかというと、よくわからないという方のほうがきっと多いかもしれないので簡単にその仕組みを説明しましょう。

まずクルマの動力の一部を取り出して(住宅用の場合はAC100Vの電源を使いモーターで駆動する)コンプレッサー(圧縮機)を作動させ、冷媒ガスに圧力をかけて圧縮します。圧縮された冷媒ガスは気体から液化して、その状態でエアコン内部のコンデンサーに送られます。そしてコンデンサーではさらにガスの液化が促進され、液化したガスはエパポレーターに送られます。

そしてエパポレーターに液化したガスを噴射すると圧力が下がって気化し再び気体に戻ります。液体(ガス)が蒸発(気化)するためには熱が必要なので、その際にエパポレーターから熱を奪います。いわゆる気化熱です。熱を奪われ冷えたエパポレーターのフィンに、ファンから送られた車内の熱い空気が通過すると、そこで空気は急激に冷やされ、熱い空気が冷気にかわり車内に冷風として送られます。そして車内が涼しくなるというわけです。

そして冷却に使われ気体に代わった冷媒ガスは、再度気体の状態でコンプレッサーに送られます。そしてそこでまた圧縮され、液化してコンデンサーへ送られ…、とこれを繰り返して車内の温度を下げているというわけです。つまり冷媒ガスは密閉されたエアコンの中で常に循環しており、液化と気化を繰り返しているわけです。

エアコンの冷媒ガスはR134aから
R1234yfへと変わりつつある

つまり、この冷媒ガスがなければ、エアコンは車内を冷やすことができないわけです。そんな冷媒ガスですが、昔はR-12など特定フロンが使用されていました。このR-12は冷却効率も高くまたシール性も良いということからカーエアコンにはよく使われていたのです。

しかし今はこのR-12フロンガスは基本的に使用されていません。旧型車両のためにガス自体は供給されていますが、新車では一切採用されていません。その理由はR-12フロンガスがオゾン層破壊の原因になるから。そのため使用が禁止されたのです。以後はカーエアコンには代替フロンR134aが使われるようになっています

でもこの代替フロンのR134aも、オゾン層は破壊しないけれど温暖化の原因になるということがわかってきて、最新のクルマでは、これにかわってR1234yfというガスが使われるようになってきています

では、R134aとR1234yfではどれだけ温暖化への影響力が違うのかというと、温室効果の程度を示す値としてGWP(地球温暖化係数)というのがあります。このGWPは二酸化炭素を基準(1)として他の温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるかを数値化したものでR134aのGWP値はなんと1430と非常に高い。では代替品であるR1234yfはどうかというとこちらのGWP値は1です。つまりR134aよりもR1234yfの方が地球温暖化への影響は大幅に小さいことがわかります。さらにオゾン層への影響はR134aと同等で非常に低い。冷却性能やエネルギー効率に関してはR134aよりも5%ほど低いとされていますが、地球環境を考えればR134aにかわるエアコン用の冷媒ガスとして適しているというわけです。

そのためEUでは2017年1月からのすべての新車へのR134a使用を禁止し、すでにR1234yfへと切り替えています。では、日本ではどうかというと、まだ全面的な禁止とはなっていません。そのためR134aも使われています。しかし、自動車工業会(自工会)では国内で販売する新車のエアコン用冷媒ガスを2023年までにR1234yfへ切り替える方針を打ち出しています。

自動車メーカー側もこの自工会の方針に合わせて新型車種から随時R1234yfへと、使用するエアコン冷媒ガスを切り替えている最中です。例えばカローラやクラウン、デリカD5やワゴンRなどもすでにR1234yfが使用されています。順次切り替えが進み2023年には新車のすべては1234yfへと切り替わることになるのでしょう。

R1234yfとR134a
冷媒ガスが抜けたらどちらを入れる?

自分のクルマのエアコンがR1234yfとR134a仕様どちらなのかわからないという場合は、ボンネットを開けてみてください。ボンネット裏などにステッカーが貼られているのでそこを見ればしっかりと書いてあるはずです。

このエアコンガスが何らかの原因で抜けてしまうとエアコンは効かなくなるわけです。ガスが抜けてしまった場合、ディーラーやカー用品店、修理工場などにクルマを持ち込めばエアコンガスを補充してもらうことができます。また注入に必要なゲージマニホールドやエアコンガスなどを入手すればDIYなどでも行うことも可能です。

ただ、その場合R134aと新しいR1234yfどちらを補充すればいいのでしょうか。簡単です。R134a仕様のエアコンにはR134aを補充すればいいのです。

「環境のためにはR 1234yfを補充したほうがいいのかな?」などと悩む必要はありません。そもそもR1234yfとR134aではガスを注入するためのゲージマニホールドやエアコン側のバルブの規格などが違いR134a仕様のエアコンにR1234yfを注入することはできません。

それにガスそのものの値段もかなりの差があります。従来のR134aのガスボンベが1缶500~1000円程度(コンパクトカーなら2~3本必要)なのに対してR1234yfのガスボンベは1万円オーバーです。修理工場などに作業を依頼すれば、R1234yfなら1万5,000円~30,000円はかかるでしょう。また最新のR1234yf対応の機器をまだ導入していない修理工場などもあります。

その点普及しているR134aならどこでも注入ができますし費用も5,000円~7,000円程度で済むはず。環境面ではR1234yfのほうが間違いなく優れていますが、コストという面では普及しているR134aのほうがまだまだメリットは大きいわけですね。

新車であってもエアコンガスが
抜けることもある

とはいえ新車のカーリース車両で、事故などを起こしていないのにエアコンガスが抜けてしまうなんてことは実際あるのでしょうか?エアコンの内部は密閉されておりその中で冷媒ガスは循環しているので理論上はガスが減ることはないはずです。

しかし、実際には減ることがあるのです。クルマは住宅などと違って移動手段であり、動くことが前提となっています。そのため走行すれば振動をうけ、それが繰り返されることで少量ですがガスが少しずつ漏れていくこともあるのです。そのため2~3年ごとにガスは補充したほうが良いなどともいわれています。

またバルブなどの連結部に使われているゴムやパッキンなどが経年劣化すればそこから漏れてしまうこともあり得ます。やっかいなのは少しずつ漏れていくと、効きも少しずつ悪くなるのでガスが抜けていることに気づきづらいということ。

事故などで大きなダメージを受けて一気に冷媒ガスが抜けてしまえば、エアコンも突然効かなくなるのですぐわかりますが徐々にわずかずつ抜けていくと意外にわからないのです。そして35℃を超える猛暑になってようやく全然エアコンが効かない!車内が暑くて耐えられない!なんてことになるのですね。

目視でチェックできる
冷媒ガスの点検方法

ガスが減っているかどうかですが、これは目視で点検することができます。その方法ですが、まずボンネットを開けエアコンガスの経路を探してみてください。その経路の途中どこかに直径5㎝程度の、中央にガラスの窓がある円筒形の部品があるはずです。それがサテライトグラス(サイトグラスとも呼びます。ただし最近のクルマにはないものもあります)です。その小さな窓からガスの状態を目視するのです。

ボンネットを開けたままエンジンをかけて、エアコンのスイッチを入れて温度を最低に合わせます。そしてファンも最大風量にしましょう。さらに内気循環にして、サテライトグラスをチェックします。ガラスの中で小さな泡が多少流れている状態が見えればそれは正常です。しかし、気泡が勢いよく流れ、それが消えなかったり、気泡も何も見えないようなら冷媒ガスが不足している可能性が高いでしょう。

冷媒ガスが減っているだけなら補充すればエアコンの効きを取り戻すことが可能です。ディーラーや修理工場、カー用品店に持ち込めばR134aなら数千円程度で補充してもらえるはずです。カーリース車の場合はリース会社に問い合わせるのが賢明ですが、エアコンガスの補充程度であれば、自身の判断で行ってもおそらく問題ないと思われます。

エアコンの冷媒ガス漏れは
重大な故障の予兆かもしれない

しかし、特に事故などを起こしていないのに、新車登録からわずか1~2年でエアコンの冷媒ガスが漏れてしまっていたという場合は、もしかしたらエアコンそのものに故障が起きている可能性があります。その場合はガスだけ補充しても意味がありません。でも、新車であればカーリース車両でも自動車メーカーの保証によって無償で修理が受けられるはず。自費でガスを補充するのではなくカーリース会社が指定する提携の修理工場に持ち込み詳しく点検してもらった方がよいでしょう。

メーカー保証は、通常新車から3年間または走行距離が6万㎞までは適用されるので、その期間ならばエアコンガスを補充する前に点検を受けるのがよいでしょう。エアコンそのものにトラブルがあった場合、ガスだけ補充してもすぐに抜けてしまうこともあり得るので無駄になってしまうからです。新車保証が適用されるような新しいクルマでは自然にエアコンの冷媒ガスが漏れてしまう可能性はあまり高くありません。

もし、クルマのエアコンになんとなく不具合が感じられるようになったら、できるだけ早急に点検&修理を行うべきでしょう。猛暑の車内では簡単に熱中症になってしまうのでエアコンの効かないクルマを運転したり、家族を乗せるのは絶対に避けてください。場合によってはあなたや家族の命を脅かしかねませんのでくれぐれも注意してください。