日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。そして、そんな脱炭素社会の実現に向けて自動車も脱ガソリン車、脱ディーゼル車の方向へのシフトが進んでいます。

2035年までに政府は新車販売のすべてをバッテリー式電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCEV)、ハイブリッド車(HEV)といった電動車にすると宣言しているので、我々もそろそろ本気でEVへの乗り換えを検討するタイミングに来ているのではないでしょうか。

実際、マイカーをBEVやPHEVに乗り換えようと本気で検討されている方も徐々に増えています。街中でもリーフやSAKURA、テスラといったBEVを目にすることも珍しくなくなりました。BEVやPHEVなどといったEVはガソリンエンジン車などに比べると車両価格は高額ですが、各種補助金が利用できるので思いの外負担は大きくありませんし、また購入せずにカーリースで利用するという選択もあるのでマイカーのEVへのシフトは、今後さらに加速していくのでしょう。

EVへの乗り換えは、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できるだけでなく、大容量の駆動用バッテリーを家庭用の蓄電池としても活用できるというメリットもあります。最近は電気料金が高騰していますがEVのバッテリーをうまく活用すると仮定の電気料金を抑えることができるほか、いざというときには防災にも役立つというメリットもあります。

ではEVのバッテリーはどうすれば、家庭用の蓄電池として使用できるようになるのか、専用の機器などの準備が必要なのか、カーリースでもEVをそういった用途で使用できるのか、今回はそんなEVの駆動用バッテリーを走行以外に活用する方法についてご紹介します。

EVの駆動用バッテリーは大容量の蓄電池
これを家庭用の蓄電池として使用するには

EVの駆動用バッテリーを走行以外に活用する方法

EV(BEVやPHEV)は駆動用に大容量バッテリーを搭載しています。多くの場合それは高性能なリチウムイオンバッテリーで、市販されている家庭用の蓄電池と基本的には変わりません。違いは、非常に大容量であるということです。そんなEVの駆動用バッテリーを家庭用の蓄電池として使用できればそれはとても便利ではないでしょうか。

防災用などの目的で最近は家庭用のポータブル蓄電池も数多く市販されています。そういった商品は手軽で確かに便利ですが、価格も安くはありませんしまた蓄電容量に関してもだいたい5~7kWh程度とそれほど容量は大きくありません。モバイルバッテリーなどに比べれば圧倒的に大容量ですが、家庭の一日の消費電力を賄うには十分とは言えません。

また据え置き型の家庭用蓄電池にしても容量は10~16.6kWh(消防法により一般家庭に設置出来るリチウムイオン蓄電池は、最大17.76kwhまでと定められています)程度。日本の平均的な家庭の1日の消費電力は約10kWhとされているのでいざというときは確かに頼りになりますがその価格は設置費用含めて100万円オーバーがと思いの外高額です。うまく活用すれば電気代が安くなるとはいえ、なかなか手が出しにくい金額といえます。

でも、普段マイカーとして使用しているBEVやPHEVなどEVの駆動用バッテリーが、家庭用蓄電池がわりに利用できればどうでしょう。わざわざ専用の蓄電池を導入するよりも経済的な負担は少なくて済むでしょう。さらに、EVの駆動用バッテリーは家庭用の据え置き型蓄電池よりも圧倒的に大容量です。

例えば日産のBEVリーフe+はバッテリー容量が62 kWhもあります。家庭用の蓄電池に比べても圧倒的な大容量です。そんな大容量バッテリーを搭載した、自宅の駐車スペースに停めているEVが、そのまま家庭用蓄電池にとしても利用することができれば、これは頼りになる存在になるのではないでしょうか。

では、EVのバッテリーを家庭用蓄電池として有効に利用するためになにが必要なのか。それがV2H機器です。最新のBEVやPHEVといったEVの多くはV2H(Vehicle to Home/ヴィークル・トゥ・ホーム)に対応しています。EVと合わせてV2H機器を導入することでEVの駆動用バッテリーから家に送電することが可能になりそのまま家庭用蓄電池がわりになるのです。

EVを使っていない時でもその大容量バッテリーが家庭用として有効に使えるのですから合理的で経済的ではないでしょうか。もちろんすべてのBEVやPHEVがV2Hに対応しているわけでありません。さらに建物にEVから給電を行うには充電インレットのあるパワーコンディショナー機能を有したV2H用の充電・給電機器が別途必要です。しかし一軒家にお住いで、BEVやPHEVに乗り換えを検討中であれば、V2H機器の導入も合わせて検討するべきではないでしょうか。

V2H機器とはどんなもの。なんで必要なの
また導入にはいくらくらいかかるのか

EVの駆動用バッテリーを走行以外に活用する方法

V2H(Vehicle to Homeヴィークル・トゥ・ホーム)とはそもそもどんなものなのか。簡単にいえばEV(BEVやPHEV)の駆動用バッテリーに蓄えた電気をV2H用の充電・給電機器を介して自宅などの建物に給電し、家庭用の電力として有効活用するといったものです。BEVやPHEVはクルマに家庭用と同じAC100Vのコンセントを装備し、家電などを使用できるものも少なくありません。しかし、それだけで家じゅうの電化製品の電源を賄うというのはさすがに無理があります。

V2H機器が設置されていれば、充放電コネクタをEVに接続するだけでEVのバッテリーに蓄えられた電気を「直流」から家庭用の「交流」へ変換しつつ、建物に電気を給電(送電)することができます。すると自宅のAC100Vにつながった家電がEVのバッテリーで利用できるようになるのです。

BEVのバッテリー容量は家庭用蓄電池よりも圧倒的に大容量ですから、一般家庭なら数日間(62kWhの大容量バッテリーを搭載した日産リーフe+満充電で家庭の電力を最大約5日間は供給可能)の電源を賄うことができるでしょう。

もちろんV2H機器からEVの駆動用バッテリーに充電することも可能です。さらにV2H機器は、通常の家庭用200Vコンセントと比較した場合、最大2倍の速度でEVのバッテリーを充電できるというメリットもあります。EVはそんなV2H機器とセットで使用してこそメリットが最大限生かせるのです。

V2H機器は太陽光発電との組みあわせると
メリットがさらにアップ

EVの駆動用バッテリーを走行以外に活用する方法

さらにもし自宅に太陽光発電を導入しているのであれば、V2Hを導入することでさらなるメリットが得られます。V2Hは建物への給電だけでなく、EVへの充電も可能ですが、太陽光発電があれば、太陽光で発電したクリーンな電気でBEVやPHEVに充電することが可能になるのです。

また、昼間太陽が出ている時間に太陽光で発電をして、その電力でEVのバッテリーを充電しておけば、夜間は電力会社の電気ではなくそのEVのバッテリーの電力で家電などを利用することもできます。そのようにV2Hで太陽光発電がより有効に活用できるだけでなく、太陽光発電はクリーンな電気ですからCO2排出量の削減効果も期待でき、加えて電気料金の節約にもなるわけです。

他にも太陽光発電の余剰電力の売電を行っている場合、その期限が切れてしまうと、せっかくの太陽光発電を利用する経済的なメリットが減ってしまいますが、そこにV2H機器とEVがあればその太陽光発電の余剰電力をEVのバッテリー充電に使用することができ、またEVが家庭用蓄電池の代わりになるので、無駄なく家庭の電気として使えるようになるというわけです。

もし、太陽光発電を自宅に導入していなくても、EVとV2H機器の組み合わせにはメリットがあります。例えば夜間の安い電気料金を利用してEVのバッテリーを充電しておけば、走行に利用できるだけでなく、昼間、そのEVに充電していた電力を家電などに利用に使用することができ、その間の電気料金がかからないということになります。これも大きなメリットといえるでしょう。

カーリースのBEVでもV2H機器を導入して
利用することが可能なのか。また導入にはいくらかかる?

EVの駆動用バッテリーを走行以外に活用する方法

V2H機器はすべての家庭に導入できるわけではありません。そもそも自宅の敷地にV2H機器を設置できる環境が確保できるということがまずは大前提です。さらに、導入には当然費用がかかります。加えて電力会社の承諾(電力会社が所有する配電線とV2H機器を接続するため。業者が代行を依頼できる)も必要です。では導入費用はいくらくらいかかるものなのか。

V2H機器の種類や設置環境によってそれは変わってきますが、現在、主流となっているV2H機器の本体価格はだいたい50万円~90万円ほど。これに別途工事費も必要なのでざっと見積もって100万円前後かかると考えるといいでしょう。ただし、V2Hの導入には国や自治体の補助金を利用することができます。2023年度の国のV2H補助金の上限額は機器購入費と工事費をあわせて115万円です。さらに自治体の補助金との併用ができることもありますので上手く使えばかなりお得に導入することができます。

注意点としては、補助金の交付条件や限度額は毎年、その都度更新されるので注意が必要なこと。申請を検討する場合、最新の情報がどうなっているのか国や自治体のホームページで情報をチェックしてください。また、補助金は事前に決められた予算の範囲内で交付されます。申請の受付は先着順なので受付期間内だからといって、必ずしも補助金を受給できるわけではない点も気を付ける必要があります。

そして、残念ながら令和4年度補正予算・令和 5 年度当初予算の国のV2H補助金の申請は申込者多数のためすでに受付が終了しています。ただ今後追加で予算が組まれる可能性もあるので、随時情報はチェックしたほうがいいでしょう。

https://www.cev-pc.or.jp/notice/pdf/20230523_V2H-V2L_oshirase.pdf

では、EVやPHEVを購入するのではなく、カーリースで利用する場合それとは別にV2H機器の自宅設置は可能なのか、また補助金を利用できるのか。V2H機器の導入設置は問題ありません。自宅に一度V2H機器を導入してしまえば、リース車のBEVやPHEVの乗り換えを行ってもそのまま機器が利用できるのでメリットは多いはずです。補助金も申請が上限に達していなければ利用可能です。さらにV2H機器がリースで利用できるサービスもあるので、そちらを利用するという手もあります。

ただ、注意が必要なのが、自治体の補助金に関してV2H機器の導入だけでは補助金を受給できない場合があるということです。すべてではありませんが、自治体のV2H関連の補助金の中には太陽光発電システムの所有が条件となっているものもあります。太陽光発電がない場合はV2Hの導入だけでは自治体の補助金が支給されない(国の補助金は大丈夫です)ことがあるので気を付ける必要があります。詳しくはお住いの自治体のホームページや設置業者などで確認してください。

V2H機器を導入することの注意点や
何かデメリットはないのか?

EVの駆動用バッテリーを走行以外に活用する方法

V2Hはどのような環境でも導入できるとは限りません。まずV2H機器は設置場所が限定されます。自宅建物とEVの駐車スペースの中間に設置しないと意見ないので相応のスペースが確保できない場合、物理的に設置ができません。また、V2H機器とEVをつなぐための充電ケーブルがクルマの給電口に届かなりといけません。事前に確認が必須でしょう。

V2H導入による考えられるデメリットとしては、通常のEV利用よりも充放電を多く繰り返すことになるのでEVの駆動用バッテリーの劣化が進んでしまう可能性が考えられます。BEVやPHEVの駆動用バッテリーの多くは高性能で高価なリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池はその特性上充放電の回数が多くなればなるほど、バッテリーそのものの劣化が進むとされています。V2H機器の導入でバッテリーの充放電サイクルが繰り返されると高額なEVの駆動用バッテリーが著しく劣化してしまう可能性があります。

EVの駆動用バッテリーは非常に高価です。もし劣化がすすみ交換が必要となった場合数十万円もの出費となることもあり得ます。その点はデメリットといえるでしょう。ただ、リチウムイオンバッテリーの性能も年々向上しており、バッテリーへの充放電を繰り返してもそこまで急激な劣化はない、ともされています。

例えばカーリースで5年の契約でBEVを利用するのであれば、バッテリーの劣化が進む前に乗り換えることになるので、さほど心配する必要はないかもしれません。むしろバッテリーの経年劣化の心配のあるEVこそ、カーリースで利用したほうが合理的とも言えます。EVを乗り換えてもV2H機器はそのまま利用できるのでその点でもメリットがあるのではないでしょうか。EVへの乗り換えを検討されている方は、是非ご紹介したV2H機器の導入も合わせて検討してみてください。