2020年の梅雨は例年以上に日本各地が豪雨にみまわれ、冠水、浸水、川の氾濫、土砂崩れなど雨が原因の災害の被害は驚くほど広範囲に拡大しました。人命にかかわる大きな被害もありましたし、完全に復興するまでに相当な時間がかかることが予想されています。もしかしたら契約していたリース車両が水没してしまい廃車となってしまったという方もいるかもしれません。

また、水没まではいかなくとも駐車していたクルマが浸水ぎりぎりまで水に浸かってしまったり、水没寸前の道路を避難のために走行せざるを得なかったということもあったのではないでしょうか。もし心当たりがあるのならすぐにやっておくべきなのが洗車です。

リース車両の場合はわずかなダメージがあとあと大きな問題となる可能性もあります。特に下回りの洗車は念入りに行うべきです。それはなぜなのか。放置しておくとどのような問題が起きるのでしょうか。

道路が冠水したらエンジンは止めず
すぐに脱出を試みる

たまたま走行していた道路が豪雨によっていつのまにか冠水し、車内に浸水するほどでないけれど、タイヤの半分近くまで水につかってしまったという場合どうすればいいでしょう。まずはとにかくその道路からの脱出を試みます。進行方向にアンダーパスなどがあるのなら、脇道にそれるか、どこか空き地でUターンしてきた道を戻った方が安全かもしれません。

その間とにかく、エンジンはとめてはいけません。エンジンがかかっている限り、排圧がかかっているのでマフラーから水が侵入するのをふせぐことができます。

かといってスピードを上げて水の中を突っ切るのもNGです。なぜなら水を大きく巻き上げエンジンルームやエアクリーナーの中に水が入ってしまう可能性があるからです。スピードは10km/h程度をキープし、エンジンが止まらないようにある程度回転数を保ちつつ速やかに冠水道路から脱出を試みましょう。

冠水道路から脱出後にもしエンジンが勝手に停止してしまったらあわててエンジンを再始動しないでください。エアクリーナーから水が浸入し、エンジン内部に水が吸い込まれている可能性があります。その状態でエンジンの再始動を試みると最悪の場合ウォーターハンマーによってエンジンが破壊される可能性があります。クルマをある程度安全な場所まで移動できているならそこから徒歩で避難するのが賢明でしょう。そして冠水がひいたらロードサービスなどでクルマを回収しディーラーで点検を受けてください。場合によってはそのまま修理となることもありますが、その場合車両保険に加入していれば保険でカバーすることが可能です。

そこまでのダメージはなく、タイヤが水に浸かった程度だから大丈夫という場合でも放置するのはNGです。その時点で機械的な問題はなくても、すぐに洗車を行うようにしましょう。それはなぜか。

洪水で道路にあふれた水は
想像以上に汚れている

あわてて洗車しなくてもタイヤが濡れるくらいなら、いつもの雨と一緒でしょう、と思うかもしれませんが、そうではありません。洪水によって道路にあふれた水はただの雨とは違い実は驚くほど汚れています

なぜならただの雨水ではなく、海や河川からあふれた水や下水、家庭の排水など混じった汚水だからです。水害の後、悪臭で悩まされるという話をよく聞きますが原因はその汚水や汚水が運んできた汚泥などが原因なのです。

そんな汚い水に浸かったのですからあとあとトラブルにつながるようなダメージを密かに受けている可能性があります。汚れによってクルマのボディがサビたり、シールやパッキンなどゴム系パーツへのダメージがあるかもしれません。また汚れがこびりついていれば悪臭の原因にもなります。できるだけ早急に汚れを洗い流す必要があるのです。

特にカーリース車の場合はリース期間中極力クルマにダメージを与えないでキレイに保つのがセオリー。なぜなら最終的には原状回復して返却しなくてはいけないからです。万が一汚水によってボディにサビを発生させ、修理が必要なレベルまで深刻なダメージを与えてしまえばリース期間終了時にペナルティとして違約金が請求されるでしょう。災害による不可抗力とはいえ、キチンとメンテナンスしていれば防げるトラブルですからそのようなことにならないよう手入れ、つまり洗車を行う必要があるのです。

とはいえあくまで洗車ですから特別なことはありません。ただ、いつも以上に下回りを念入りに洗浄するだけです。ホイールハウスやブレーキ回りなども忘れずに洗うことがポイントとなります。

目の届かない下回りを
徹底的に洗浄する

やり方は通常の洗車とさほど変わりません。まずはとにかく水洗いをしましょう。洗い方は上から下が基本ですがその前に泥がこびりついたホイールハウス内やフロア下を洗浄します。冠水道路を走っているのなら、時に下回りはしっかりと水に浸かっているので徹底的に洗浄しましょう。ただ水をかけるだけではだめです。水道の蛇口にホース繋いで水をかけるだけでは水圧が足りず十分な洗浄は行えません。コイン洗車場などにクルマを持ち込み、高圧洗浄機で徹底的に洗うのがおすすめです。

近くにコイン洗車場がない場合は、ホームセンターなどで高圧洗浄機をレンタルしてきてもいいでしょう。できればクルマをジャッキアップして、下回りが目視できる状態で洗うのが理想ですが、ガレージジャッキやジャッキスタンドがないのであれば、危険なので手の届く範囲で洗うだけでも良いでしょう。ホースでは洗えなくても高圧洗浄器であれば、車体裏中央部分まで水は届くはずです。

ボディの下をのぞきながら洗浄を行うことになるので、洗車の際は濡れても良い服に着替え、長靴やゴム手袋を装着しておきましょう。顔に汚れた水がかかる可能性があるのでゴーグルなどがあればしておいてください。

洗浄の際、パーツどうしの隙間や入り組んだ構造部分など、汚れがこびりつきやすい部分を念入りに洗います。さらに、ホイールハウスの中も徹底的に洗浄します。ここにはタイヤが巻き上げた汚水によって隅々まで汚れがこびりついているはずなのでできればホイールを外した状態で洗うのがベストです。難しければ取り外さなくても構いません。その場合でもホイールの裏側やブレーキディスク回り、ブレーキキャリパーやホースの隙間なども忘れずに洗浄しましょう。

ブレーキ回りのパーツは汚水によって腐食がおきると、事故につながる致命的なトラトラブルを起こす可能性があります。ただし車輪側のABSセンサーなど電気系パーツには直接高圧の洗浄水を当てるのは避けてください。内部に水が入り込みショートや腐食などによる故障の原因になりかねないので注意が必要です。

ボディにこびりついた汚れは
シャンプーで洗い流す

下回りの洗浄が終わったらルーフからボディの下に向かって水を吹き付けて汚れを下に流します。ボディも汚水によって汚れているはずなので、いつもの洗車よりも入念に洗うようにしてください。ドア開口部やボンネットの隙間、パーツの取り付け部分などもしっかりと洗います。水洗いだけでは汚れは十分に取り切れないので、水で洗浄したあとはシャンプー洗いを行います。

水洗いの水分が乾かないうちにまずシャンプーを泡立てます。ボディに直接シャンプーをかけるとシャンプーの成分がボディに残り、塗装を痛める可能性があるので避けてください。シャンプーの泡立て方は、バケツの中で水道の水流を使って泡立てるのが簡単です。適量のシャンプーをバケツの中に入れておき、その上から水道の水を注いで、水流によって泡立てるだけです。手で泡立てるより滑らかな泡が立つはずです。シャンプーを泡立てられたら、ボディを上から下へシャンプーで洗っていきます。

泡で汚れを包み込み、流し落とすようにやさしく洗ってください。なお洗っている最中にシャンプーが乾かないように、乾き始めたなと感じたら、泡立てたシャンプーをかけて常に乾燥しないようにしてください。ボディの全て洗い終えたら、水で完全にシャンプーを洗い流します。

自然乾燥させないよう
注意しながら手早く拭き取る

シャンプーは隙間に残りやすいですが高圧の洗浄機であれば隙間に入り込んだシャンプー成分も流し落とすことが可能です。シャンプーが完全に落とせたら、すぐに水分を拭き取りましょう。くれぐれもボディを自然乾燥させてはいけません。水道水はキレイですが、塩素やカルキなどが入っているため、自然乾燥させてしまうとウォータースポットやイオンデポジットなどのシミが塗装面に残ってしまうからです。

もし、拭き取り中に水分が自然乾燥しそうになったら霧吹きなどで水を吹きかけてやるといいでしょう。水分は自然乾燥させず必ずふき取るということを覚えておいてください。

ボディ表面だけでなくドアやトランクの開口部の隅やフューエルリッド(給油口のフタ)の中にも水分が残っているはずなのでそこも丁寧に拭き取りましょう。人工セームや吸水クロスなどが手早く拭き取れるのでおすすめです。
水分を完全に拭き取ったらワックスもしくはコーティング剤で塗装面を保護します。どちらを使っても構いませんが、ボディの汚れから保護するのが目的なのであれば耐久性のあるコーティング剤のほうが向いているでしょう。

コーティング剤は製品によって使用方法が異なり、間違った方法だと本来の効果が期待できません。説明書きをよく読み慎重に施工してください。丁寧に洗車を行っておくと美しい仕上がりが期待できるはずです。

臭いの原因はフロアマットかも
掃除機をかけ、洗浄しよう

運よく車内への浸水が免れたとしても、汚れた水や泥が多少車内に入り込んでいるかもしれません。洗車したのに車内がなんだか臭いという場合、その可能性が高いでしょう。放っておくと悪臭だけでなくサビの原因にもなるので掃除が必要です。フロアマットは簡単に取り外しができますので、こちらもあわせて掃除しましょう。

まずフロアマットをすべて取り外し車外で天日干しします。ドアやトランクも開放し一緒に車内も換気します。フロアマットは乾燥させるとこびりついた泥などが浮き、取りやすくなります。しっかり乾いたら、クルマから離れた場所で洗濯たたきでなどを使い、叩いて泥やゴミ、ホコリを落とします。ある程度汚れが落ちたらブラシなどでホコリやゴミをかき出したうえで掃除機をかけホコリやゴミを吸い取ります。

掃除機は家庭用のものでも構いませんが、充電式の掃除機はパワーがあまり期待できないのでできればコンセントタイプのものを使ったほうがいいでしょう。また、掃除機自体も汚れる可能性があるので、コイン洗車場などにあるクルマ専用の強力な掃除機がおすすめです。家庭用のものを使う際はフロアマットに使った後にノズルなどを水拭きしておいた方がいいでしょう。

カーペットまで水に浸かっていたら
掃除はプロに任せよう

洪水の汚水によって汚れている場合はこれだけでは掃除は不十分です。目に見えるゴミやホコリを吸い取ったあとにフロアマットの洗浄を行います。

バケツにフロアマット専用の洗剤もしくは中性洗剤をいれあらかじめ泡立てておきます。水でフロアマット全体を流したら次に洗剤をつけて洗車用ブラシでマットの表面をゴシゴシと洗います。毛足の中に隠れた汚れもしっかりとブラシでかき出しましょう。

十分に汚れを落とすことができたら、真水で丁寧にすすぎます。洗剤分が残らないようにしっかり水ですすいでください。すすぎおえたら天日干しして完全に乾燥させます。水分が残ったまま車内に戻してしまうと、雑菌やカビなどが繁殖しかえって悪臭を発生させることになってしまいます。しっかりと乾燥させてください。完全に乾燥させたら車内に戻して掃除は終了です。

しかし、フロアマットを徹底的に掃除しても臭いがなくならないという場合はカーペットやその下に貼られている防音、防振のためのフエルト材が汚水で汚染されている可能性があります。その場合完全に汚れや水分を取り除くのはむつかしいのでクリーニングのプロに任せるしかないでしょう。費用は掛かりますが、徹底してクリーニングしてもらえるはずです。また、被害を広げないためにはある程度の出費は仕方ありません。とにかく、汚水による被害への対処は時間勝負でもあります。雨や止んだらとにかく早めに行動するように心がけてください。