夏のクルマトラブルの代表といえばかつてはオーバーヒートでした。しかし、今はそうではありません。なぜなら今のクルマは効率的に走行風を取り入れるようデザインも最適化され、ラジエターなどのパーツの品質も上がり、もはやオーバーヒートなどめったに起こすことがないからです。かつてはラジエターの冷却性能が低く、負荷の大きな環境と暑さでオーバーヒートを起こすこともあったようですが今ではまずあり得ません。

では、猛暑でもオーバーヒートなんて気にしなくてもいいのか?というと決してそのようなことはないでしょう。なぜならトラブルは突然起きるものであり、クルマの品質が上がっているといっても100%オーバーヒートが起きないわけではないからです。それはたとえリース会社によって、定期的なメンテナンスをしっかり受けている新車のカーリース車両であっても変わりません。

では、もし走行中にオーバーヒートの兆候が現れたらどうすればいいのでしょうか。そうそう起きるトラブルではない分、どのように対処するべきなのか知らないという方もきっと多いはず。それにカーリースの場合、勝手に判断して行動するのはまずNGです。オーバーヒートが起きた際の緊急時の応急処置方法や、またオーバーヒートを経験した後の対応、対策などついて、ぜひ知っておくべきことをご紹介します。

猛暑はますます厳しくなるのに
オーバーヒートは減っている?

いつ頃からでしょうか真夏に35度を超える猛暑が当たり前になってしまったのは。今この原稿を書いているのは8月の初旬ですが、ネットでは京都で気温38度を超える予想、というニュースがアップされています。東京でも34度オーバーだそうです。いわゆる猛暑ですね。

この数字を見ても、もはやなんの驚きもありません。猛暑になれてきているのでしょう。でも、冷静に考えるとこの暑さはとんでもないことです。普通に考えて命にかかわる暑さですから異常でしかありません。

このような猛烈な暑さは人間にとっても大変厳しいものですが、クルマにとっても大きな負担がかかるもの。エンジンなどは冷却が間に合わなければトラブルが起こすことも当然ります。いわゆるオーバーヒートです。夏場にオーバーヒートでクルマが走れなくなり路上でボンネットを開け、途方に暮れているドライバーをかつてはたまに見かけたものです。

これはイメージですが、オーバーヒートを起こしているクルマは輸入車、特にヨーロッパ車が多かった気がします。おそらくですが、渋滞が多く、走行速度も低いうえ、極端に気温や湿度が上昇する日本の夏に対して、耐性が低かったのではないでしょうか。とはいえ最近はそんな場面を見かける機会もほとんどなくなりましたが。最後にオーバーヒートを見たのは筆者自身が当時乗っていた車で起こした時くらいでしょうか…。

しかし、オーバーヒートは絶対に起きないとは限りません。例えば、前述したような38度など極端に気温が上昇した環境で、渋滞に巻き込まれラジエターによる冷却が間に合わなくなったらどうでしょう。多くの国産車はそのような状況でもオーバーヒートしないように設計されていますが、冷却水の劣化やサーモスタットの故障、ラジエターやラジエターホースの破損などがあれば簡単にオーバーヒートしてしまうでしょう。

ではあなたが使用しているリース車両で、もしそのようなオーバーヒートの兆候が表れた場合、いったいどうすればいいのでしょうか?オーバーヒート自体がまれなトラブルとなった今、正しい対処方法を知らないという方もきっといるはずです。

最悪のケースではエンジンの
載せ替えが必要になることも

オーバーヒート(overheat)とは、簡単にいえばエンジンが異常に過熱された状態のことです。エンジンは作動に伴いたくさんの熱を発生させます。混合気の燃焼による熱、シリンダーとピストンの摩擦による熱、燃料ポンプやオルタネーター、パワステなど補機類の動作により発生する熱など多くの熱を発生しているのです。そのためそれらを冷却しなければあっという間に高熱となり、放っておけばすぐにエンジンが焼き付く最悪の事態にもつながるわけです。

でも、そうならないのは冷却水とラジエターによって適切に冷却が行われているからです。そして問題ない温度に常に維持されているわけです。その適切な温度が維持されているかぎりエンジンはスムーズに作動することができます。

しかし、その冷却が間に合わなくなればエンジンが熱を持ち過ぎオーバーヒート。徐々に加速が悪くなり、ノッキングが発生。やがてエンジンが停止してしまうのです。ボンネットから水蒸気は上がったら、もう一大事です。すでに深刻なダメージを受けている可能性があります。そうなる前にオーバーヒートの兆候を見逃さないようにしなくてはいけません。

まずオーバーヒートはいきなり起きるわけではありません。必ずその前に兆候が表れます。オーバーヒートの兆候を知らせてくれる水温計や水温警告灯というものがクルマには必ずついているのでそちらをちゃんと確認しておけば、気づくことができます。

ではそのような兆候がではじめた後、クルマはどのような状態になるのでしょう。かつてオーバーヒートを起こした筆者の経験を思い出すと、まずエンジンの力がなくなります。アクセルを踏んでもなぜか加速をしなくなりやがてエンジンがノッキングをはじめます。そしてエンジンの回転が急激に不安定になり、ぎくしゃくとした動きとなりまともに走れなくなります。

もしその状態を放置しておくとどうなるか。最終的にはシリンダーヘッドガスケットが吹き抜けてしまい、シリンダーヘッド下面から高温の水蒸気が発生。最終的にはエンジンが焼き付いてしまうことになるでしょう。結果エンジンは大きなダメージを受け再起不能です。いったん焼き付けば修理は難しく、エンジンの載せ替えということになる可能性が高いです。そうなったらいくらかかるでしょう。最悪ですね。

メンテナンスリースでも
オーバーヒートの修理は実費?

もしそのオーバーヒートしたクルマがリース車両であったらどうなるのか。整備や基本的なメンテナンスまでリース料金に含まれるメンテナンスリースであれば、一般修理もサービスに含まれているので負担なしで修理できるような気もします。

しかし、実際にはそうでないケースがほとんどです。警告灯が点灯しクルマがオーバーヒートしつつあることが明らかに分かる状態で、ドライバーの判断で走行を続けた結果、エンジン焼き付き等の重大な故障となったのならいわば過失。契約内容やリース会社によって変わってくるかもしれませんが多くの場合修理代はリース契約者の負担となるでしょう。つまり実費です。そもそもキチンと対応していれば防げた故障なのです。

ではメンテナンスリースでカバーされないなら勝手に自費で修理すればいいのかというと、リース会社に連絡もせずに勝手の修理をするのはリースではNGです。リース車両はカーリース会社の提携工場による修理以外は契約違反となってしまうことがあるからです。勝手に修理した結果、契約満了時にリース車両を返却する際、査定額に大きく影響し、違約金や高額の清算金が請求される可能性だってあります。

オーバーヒートによって重大な故障が発生した場合はまずカーリース会社へ連絡を入れて確認します。そしてロードサービス(リース会社のほとんどで無料のサービスが提供されているはずです)を使用し指定の修理工場や自動車ディーラーに持ち込むのが正しい対応です。最悪のケースとなる前にキチンと対応しておけばダメージも最小限で済むでしょう。エンジン載せ替えまでいかずに済めば費用も高額にはならないはずです。

オーバーヒートの兆候を感じても
エンジンはとめないのが正解

では、オーバーヒートの兆候を感じたらどう行動するべきか。まずは、速やかにクルマを安全な場所に移動します。周囲に広い駐車スペースなどが見つからない場合は、路上パーキングスペースに停めてもいいでしょう。とにかく速やかにクルマを停めてください。

そしてエアコンを切りますボンネットから水蒸気が上がっていなければエンジンはそのままかけつづけます。もし水蒸気が上がっていたらただちにエンジンをとめ、水蒸気が収まるのを待ちます。水蒸気がでなくなったらボンネットを開けエンジンを再始動します。

なぜエンジンを冷やしたいのにエンジンをかけつづけるのか?その理由はエンジンを切るとウォーターポンプやファンが停止し、冷却水やオイルの循環もなくなりエンジンの温度がかえって上昇することがあるからです。また、エンジンオイルの循環が停止してしまうので、エンジン内で摺動部が油膜切れを起こしてエンジンが焼き付いてしまう可能性もあります。ですからそのままかけておきクルマの冷却機能を使用するのです。

ただし、冷却ファンが回っていなかったり、冷却水等が明らかに漏れているという場合は別です。すぐにエンジンを停止して自然にエンジンが冷えるのをいったん待ちましょう。なお、冷却水が漏れているからといってあわててラジエターから水を入れようとラジエターキャップを開けるのはダメです。熱い蒸気が噴出する可能性がある上キャップを開けることで圧力が抜け、冷却水の沸点が下降して一気に沸騰。オーバーヒートを悪化させてしまうことがあるからです。注意してください。

応急的に水を補充する場合はエンジンが十分に冷えたことを確認してから、火傷に注意しつつラジエターキャップを開けて直接ラジエターに水を補充します。応急処置であれば水道水でもいいでしょう。ただし、修理後は必ずクーラントに入れ替えてください。

エンジンが冷えれば再度エンジンを始動することもできます。水を補充してしばらく走行も可能です。自走する場合は常に水温系や警告灯を確認し、また同じように水温が上昇したらクルマを停め、しばらくエンジンを冷やし、必要であれば水を補充します。これを慎重に繰り返せば自走で修理工場に持ち込むことも可能です。

しかし、できれば自走はしない方がいいかもしれません。カーリース車両であればリース会社に連絡を入れ、ロードサービスなどの救援を呼び指定の整備工場やディーラーで修理やメンテナンスを受けるのがおすすめです。

無理に走行せず、早めに対処したほうが最悪の事態も避けられるでしょう。無理に走行を続けると、かえって深刻なダメージとなる可能性もあるので、とにかくロードサービスを利用するのが正解です。カーリース会社では無料のロードサービスなどを提供しているはずなので素直にそちらを利用したほうがいいでしょう。

マメに点検することで
オーバーヒートは防げる

オーバーヒートになったのには何らかの原因があったはずです。単に気温が上昇したからオーバーヒートしたという可能性は低いことは前述したとおりです。原因にはいくつか考えられますがまずは冷却水の不足です。定期的にメンテナンスを受けていればいいのですが、ほったらかしにしておいて冷却水のリザーバータンクが減っていることに気が付かず結果オーバーヒートを起こしてしまうことあるのです。

また、ラジエターやラジエターホース、ラジエターキャップなどの破損も原因となります。そこから冷却水が漏れてしまっていたのかもしれません。ほかにもウォーターポンプや冷却用ファン、サーモスタットなど冷却系の部品の故障も考えられます。

さらにエンジンオイルが原因でオーバーヒートを起こすこともあるといいます。オイル不足やオイルの劣化でエンジンの潤滑が正常に行われずにエンジン内部のパーツ同士による摩擦が大きくなると熱が発生して、冷却が間に合わなくなる。その結果オーバーヒートが起きる可能性もあるのです。

いずれにしてもオーバーヒートの兆候は、クルマのメーターなどをキチンとチェックしていればすぐに気が付くはずです。水温計や警告灯はマメに確認する習慣をつけておくといいでしょう。

また、日頃からクルマの点検やメンテナンスは怠らないでください。カーリースだからすべてリース会社に任せているという方もいると思いますが、たまにはボンネットを開けて冷却水が過度に減っていないか確認したり、駐車場の地面に冷却水やオイルなどが垂れていないかなどもチェックするようにしましょう。ちょっとしたことですが、そういったマメな行動がクルマのトラブルを未然に防ぐことにつながるのです。トラブルを予防するために明日からでも是非実践してみてください。