ランクルプラド。正しくはランドクルーザープラドですが、今ではランクルプラドやプラドなどと呼ばれることのほうが多いかもしれません。このクルマに対して、多くの方が持つイメージとしては、今どきのライトなSUVとは違った、大きなボディを持つ走破性に優れた本格SUVといったところでしょうか。
そもそも、車名にランクルと付くくらいですからもちろんトヨタのSUVのハイエンドモデルである、ランドクルーザーの兄弟モデルだということはお分かりでしょう。
ランドクルーザーといえば、ベンツのゲレンデヴァーゲンや、レンジローバーなどといった世界でもトップレベルの走破性を持つ4WD車のライバルであり、現在のトヨタブランドの中で、最も歴史のある車種です。世界中のSUVファンにとってのあこがれの一台といえるでしょう。でもそのランクルと、ランクルプラドは同じものなのでしょうか、違うのであれば一体何が違うのでしょうか。
ランドクルーザーとランドクルーザープラド、どちらも大型のSUVであり、優れた走破性を持つ高級SUVであるという点は変わりません。それなのにプラドはプラドでランクルとは違う、などという人もいます。
実際スペック表などをちゃんと比較すればボディサイズもエンジンも、また価格も全く異なるモデルなのも分かります。ではサイズや価格が違うだけなのか?ランクルの下位モデルがプラドなのか?本当のところはどうなのでしょう。あらためて問われてみるとキチンと答えられる人は少ないのではないでしょうか?
ということで、ランクルプラドのそのルーツから、誕生の経緯、現在の位置づけなど、について、あらめためて整理してみましょう。
目次
1951年現在のランクルの
先祖となるトヨタジープが誕生
(三菱ジープ / 引用:Wikipedia)
まずランドクルーザーの歴史を簡単に説明します。ランクルの先祖ともいうべきクルマが誕生したのは第二次世界大戦後間もない昭和26年(1951年)でした。米軍と警察予備隊(自衛隊の前身)の要請により誕生した「トヨタジープBJ」がそれにあたります。
当時は四輪駆動車=米軍の軍用車であるジープというイメージが強かったことから、トヨタの四輪駆動車=トヨタジープという名前になったようです。しかし、残念ながら警察予備隊への採用はかなわず、かわりに国家警察(現在の警察の前身)のパトロールカーとして採用されたそうです。この時警察予備隊に採用されたのは三菱のジープでした。
トヨタジープがなぜ現在のランドクルーザーへと名前を変えたのかというと、「ジープ」という名前がアメリカのウイリス・オーバーランド社の商標権に抵触することが分かったからです。そして1954年6月に現在のランドクルーザーと改名。そして今に至ります。
ちなみに三菱ジープがトヨタジープのようになぜ改名されなかったのかというと、商標権を持つオリジナルのメーカーであるウイリス・オーバーランド社のジープを三菱がノックダウンで生産したものだったからです。オリジナルジープそのものですから改名する必要がなかったのです。
ランドクルーザーへと改名したことを受けて、フルモデルチェンジとなり、現在のランクルにつながる最初のランクル、20系クルーザーがデビューします。このクルマは海外へも輸出され大ヒットとはなりませんでしたがそれなりに好評を得たようです。
70系ランクルをベースにより乗用的な
性格のクルマとして生まれたのがプラド
(初代プラド / 引用:Wikipedia)
この20系ランクルは1960年にフルモデルチェンジとなり現在でも高い人気を誇る40系のランドクルーザーが誕生します。こちらは現在のランクルの評価を決定した名車と言われており今も世界中で、高値で取引されています。
この40系までは一つの系統でショートボディ、ミドルボディ、ロングボディが用意されており現在のようにランクルとランクルプラドなどといった2つのボディタイプのランクルは用意されていませんでした。
余談ですがこの海外でも高い人気を誇るこの40系のデザインをモチーフとして2006年にアメリカ向けの車種として誕生したSUVがFJクルーザーです。2010年には日本でも販売されましたが一部のマニアには受けたものの残念ながら大ヒットとはなりませんでした。
このFJクルーザーのモチーフはランクル40系であり、シャシーなどもプラドと共用でしたがランクルの系譜には入りません。ランクルとは別の車種として扱われています。さらに現在は残念ながら絶版です。
閑話休題。1967年になると、40系のロングボディの後継車種として50系のランドクルーザーが誕生します。さらにその50系の後継車として1980年にはワゴンスタイルの大型モデルである60系がデビューします。大型で優れた走破性を持ち、また居住性も優れるといった現在のランクルの特徴はこの60系からはじまったと言ってもいいでしょう。
そして1984年にはロングセラーだった40系の後継車種として、ミドルサイズで優れた走破性を持つ本格派SUVの特徴を受け継いだ70系のランクルが誕生します。頑丈なボディにどんな環境でも走りぬく優れた走破力。またシンプルな構造で整備性にも優れるということから、この70系は世界各地で愛用されました。
その頑丈さからジャングルから砂漠、紛争地などでも使用され、どんな厳しい環境にも耐えて走り続けるなど期待以上の働きを見せました。現在に続くトヨタ車の信頼性の高さを不動の物にしたのはこのランクルの耐久性の高さにもあったはずです。
70系はSUV(というかクロスカントリカー)として圧倒的な信頼性の高さと、抜群の走破性をもっていましたが、街乗りにつかうとなるとあまりにもオーバークオリティ(過剰に頑丈で足回りも走破性の高さに振りすぎている)すぎて、乗り心地も固く使い勝手も悪い。
そこで、その70系をベースとして、サスペンションを頑丈だけれど乗り心地が固いリーフスプリングから、乗り心地の良いコイルスプリングに変更するなどしてより乗用車的な性格を持つランドクルーザーとして誕生したのがランドクルーザープラド(70系プラド)でした。
こうして本格SUVであるランクルと、より乗用車的なイメージを持つランクルプラドという2つタイプのランクルがついにそろったのです。
ちなみに大型サイズのランクル60系はのちに80系、100系、200系と同様のコンセプトのランクルとしてモデルチェンジを続け、今も高い人気を誇っています。
70系ランクルは今も世界で活躍
プラドは独自の進化を続けてゆく
(引用:トヨタ公式HP)
では、ミドルサイズのランクル70系はどうなったのかというと、実は現在も新車が販売されています。もちろん日本ではありませんが、オーストラリアなどでは今も70系の新車が購入できるのです。
信頼性と耐久性、さらに世界中で売れまくったロングセラー車。パーツも潤沢な上、どんな土地でも修理出来る整備士が見つかるといったことから、70系にかわるクルマはないようです。砂漠やジャングル、紛争地といった厳しい環境ではむしろモデルチェンジを行わずに作り続けパーツを供給し続けるということのほうが重要なのでしょう。
では70系をベースとして誕生したプラドはどうなったのかというと、70系とは別の車種としてハイラックスサーフなどのシャシーをベースとした車種となり、独自に進化していきます。
1996年には70系から90系プラドとなり、2002年には120系プラドにモデルチェンジ、そして2009年現行車種となる150系プラドが誕生し今に至るというわけです。
そして現在のラインナップとしては大型の200系ランクル、そして国内では既に絶版ですがロングセラー70系ランクル、そして150系のランクルプラドとなっています。
国内で手に入るのは200系ランクルと150系ランクルプラド、この両車をあまり詳しくない方が見ればどちらも大きなSUV車であり違いは分かりにくいかもしれません。
では数値でその大きさを比べてみるとかなり違います。まず150系プラドのサイズは全長4,825㎜×全幅1,885㎜×全高1,850㎜で車重は約2.2tです。
対して200系のランクルは全長4,950㎜×全幅1,980㎜×全高1,880㎜で車重は約2.5tとなっています。
こうしてみると150系プラドは軽く一回りは小さいことが分かります。これならコインパーキングなどにも駐車しやすいですし、街中でも十分扱いやすいでしょう。
エンジンも200系ランクルが4.6リッターV8ガソリンエンジンなのに対して、150系プラドは2.8リッターの直4ディーゼルと2.7リッターの直4ガソリン(かつては4リッターV6エンジンもラインナップされていました)と一回り以上小さいエンジンが採用されています。
肝心の価格は200系のランクルが472万円~683万円なのに対して150系プラドは353万円~536万円です。軽く100万円以上も手ごろな価格となっています。
もちろん手ごろといっても十分高価ですが、このプライスで世界中から高く評価されている名車ランクル(プラド)が手に入ると考えれば、十分お買い得といっていいかもしれません。
本格的な走破性と、扱いやすく
快適な乗り心地を高いレベルで両立
では現在のプラドの位置づけはというと、過剰品質ともいえる本家ランドクルーザーの作りや装備をアレンジして、街中でも扱いやすいようにした乗用車的な性格も併せ持つランドクルーザーと考えればいいかもれません。
乗用車的な性格といってもあくまで圧倒的な走破性を持つ200系ランクルと、ストイックなまでに走りや耐久性に振った70系のランクルと比べればということです。
実際にはプラドの走破性は間違いなくSUVとしてはトップクラスのものです。まず、流行りのライトなSUVとは、そのメカニズムからして違います。
ボディは乗用車のようなモノコックボディ(クロスオーバータイプのライトなSUVはほぼすべてモノコック)ではなく、頑丈なフレーム付きボディを採用していますし4WDシステムもローレンジを持つトルセンデフ付フルタイム4WDです。
さらに、グリップの悪い悪路でも強力なトラクションを発揮してくれるデフロックも可能ですし、クロールコントロールやアクティブトラクションコントロールといった雪道や悪路での安定した走りを約束してくれる装備も満載。このようにオフロード走行を前提として数々の硬派な機能が盛り込まれているのです。
車重も(200系ランクルと比べれば)軽く、サイズも手ごろですので林道や狭い雪道走行などではむしろ200系ランクル以上に活躍してくれるはずです。また200系ランクルにはないディーゼルエンジンが設定されているのも魅力でしょう。
それでいて乗用車的に使用できるランドクルーザーというコンセプトで生まれたクルマですから、乗り心地もソフトな上装備も充実。さらにインテリアなども本革シートなどが用意されており快適な上装備も満載。
また、当然最新のクルマですから予防安全装備も全グレード標準ですし、3列シートのグレードもあるので、ファミリーカーとしてもきっと使いやすいはずです。
圧倒的な走破力と巨大なボディによる迫力を持つ200系ランクルは確かに魅力的ですが、その性能やサイズは過剰であるのは間違いありません。日本の道路環境で使用するのであれば、丁度良いランクルともいえるランクルプラドこそがむしろ賢い選択といえます。きっとプラドがこれだけ長く、多くのファンに愛されてきたのも、そのプラドの“丁度良い“というところにあるのではないでしょうか。