2020年4月現在、新型コロナウイルスの脅威は収まるどころか感染者数が徐々に増えはじめるなど、まだまだ予断を許さない状況が続いています。しかし、新型コロナワクチンの接種はすでに世界中ではじまっており、国内でもようやくその環境が構築されつつあります。

そんな中、気になるニュースが先日話題になりました。それはトヨタのランドクルーザー78が、WHOの定める医療機材品質認証を取得したというものです。ワクチン保冷輸送車としてのPQS取得は世界初。そして、インフラの整わない地域への新型コロナワクチン輸送にも、このランクル78が活躍するであろうと期待されています。

このランクル78ですが、かつて日本でも発売されていたランクル70の派生車種です。でも、なぜ今更設計の古いランクル70系がワクチン輸送車として選ばれたのか、そもそもランクル70とはどんなクルマだったのか。もはやクラシックともいうべきSUVについて、選ばれた理由や、今だから光るその魅力について探ってみました。

途上国などの新型コロナ対策用
ワクチンの輸送に活躍が期待


(引用:トヨタ公式HP)

新型コロナウイルス感染症対策のワクチンが日本でもようやく接種できる環境が、徐々にですが構築されはじめました。ワクチン自体の数が十分ではないので、国民全部が接種を受けられるようになるまではまだまだ先は見えませんが、着実に新型コロナ対策は進んでいることがうかがわれます。

いずれは多くの国民がワクチン接種を受けられるようになることでしょう。そうなればきっと新型コロナの脅威も収まっていくはずです。期待しましょう。

しかし、新型コロナは世界的な脅威です。日本だけで解決できるものではありません。世界中の人たちがワクチンを接種できる環境を構築することがなによりも大切です。とはいえ、日本のように国土が広くなく、またインフラが充実した国というのは残念ながら多くはありません。病院にいくにも何日もかけて移動しなければならないという場所だってまだまだあるのです。そんな環境で暮らす人たちはどうすればいいのか。ワクチン接種場所まで来てもらうよりも、ワクチンをそれらの人たちのもとに届けるという方が現実的でしょう。

しかし、ワクチンというのはとても繊細なもの。温度管理も厳密に行わなければなりませんし、また激しい振動を与えるのもダメ。そのためワクチンを届けたい、となっても、なかなか難しいのが現実なのです。そんな中、先日トヨタはこのようなプレスリリースを発表しました。それがこちらです。

https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/34993663.html

2021年3月に発表されたもので、トヨタのランドクルーザー78が、ワクチンを適切な温度で輸送するための保冷輸送車として、世界保健機関(WHO)が定める医療機材品質認証(PQS/Performance, Quality, Safety)を取得したというものです。

このランクル78の保冷輸送車の冷蔵庫容量は396L。そしてワクチンパッケージ400個分の容量を持っており、冷蔵庫は独立したバッテリーによって電源無しで約16時間も稼働することが可能。さらに、冷蔵庫は走行中の車両から充電し、駐車中は外部電源からも充電可能となっています。厳しい環境にあっても確実にワクチンを届けられるスペックが搭載されています。

このワクチン保冷輸送車としての医療機材品質認証取得はなんと世界初です。それをあのトヨタのランクルが取得したのです。すごいことではないでしょうか。これでアフリカの奥地など交通インフラの貧弱な地域でも新型コロナワクチン接種への道ができたといえるかもしれません。

でもこのランドクルーザー78とはいったいどんなクルマなのでしょう。ランドクルーザー200やランドクルーザープラドは知っていてもランドクルーザー78に関してはよくわからないというかたも少なくないです。そこでこのランドクルーザー78について調べてみました。

抜群の信頼性から今も世界中で
愛されているランクル70系


(引用:トヨタ公式HP)

まずこのランドクルーザー78ですが、どんな車なのかというと一言で言ってしまうとかつて日本でも販売されていたランドクルーザー70の派生車種です。ランクル78は日本では正規販売されていませんでしたが、トゥループキャリア(兵員輸送車)というちょっと物騒な名前を持つ3ドアロングボディモデルでオーストラリアやアフリカをはじめ海外で販売されていたモデルです。優れた積載性と圧倒的な走破力から世界中のあらゆる地域で使われてきました。というか、新たに採用されているのですから今も使われているのですね。

でも、ランクル70といえばかなり古い世代のモデルです。デビューはなんと昭和59年(1984年)。今から37年も前のモデルということ。それがいまだに世界中で活躍しているのです。

ちなみにこちらを見てください。オーストラリアではランクル70はこのように新車で買えるバリバリの現役

https://www.toyota.com.au/landcruiser-70

また、2014年から2015年にわずか1年限定ですが、復刻販売もされたので、それを記憶されている方もいるでしょう。

そもそもランドクルーザーといえばトヨタの中でも特に歴史のあるモデル。初代はトヨタジープBJ型で誕生は戦後すぐの1951年(昭和26年)。現在の陸上自衛隊の前身、警察予備隊の採用を目指して開発されたオフロード4WD車です。

以後ランドクルーザーとしてモデルチェンジを重ねて、2021年4月現在は、近くにフルモデルチェンジが予定されているランクル200系が最新モデルとなっています。

車名がランドクルーザーとなった20・30系から、40系、50系、60系、70系、80系…とモデルチェンジを重ねていき、現在は最上級モデルが200系(モデルチェンジが近いといわれています)、そしてそれよりも少し小型の150系プラドが日本では現行モデルとなっています。

いずれにしてもランクル70はとても古いモデルだということ。それなのになぜ今そのランクル70系のランクル78が新たにワクチン保冷輸送車として選ばれ、WHOに認証されたのでしょうか。悪路走破性なら最新のランクル200などのほうが優れているはずなのに。

37年も前に登場したランクルが
なぜ重要な保冷輸送車に選ばれたのか


(引用:トヨタ公式HP)

ランクル78のワクチンの輸送保冷車なにも新型コロナ用ワクチンのためだけのものではありません。ワクチン接種は、様々な感染症予防に対して有効な手段の一つですが、残念ながらすべての人が接種できるわけではありません。とりわけ重要なのは新生児用ワクチンですが、その保管には2~8℃という低温が重要で、適切な温度管理の下でワクチンが保管されていなければ使用することができません。

しかし、途上国ではそれがひときわ難しい。せっかくユニセフなどからワクチンの供給の支援を受けられても、そのワクチンを国内の病院や診療所まで配送する手段が確保できないのです。その理由は、道路などのインフラが未整備であることに加えて、適切な保冷輸送手段が無いためです。

そのため、輸送中に温度変化を受けて、それが原因でワクチンがダメになることが少なくないのです。その量はなんと供給量の約2割(400億円相当)にも達し、それが毎年廃棄されているといいます。結果ワクチンで予防可能な感染症によって、毎年150万人の子どもの命が奪われているというのです。

しかし、道路環境が整っていない途上国でも、ワクチンを保冷しながら安全に運ぶことができれば、そのような命を救うこともできるでしょう。そのために開発されたのが今回のランクル78保冷輸送車なのです。

ではなぜそれがランクル78だったのか、それにはシンプルな理由があります。ランクル78が抜群の信頼性を持っているからです。とにかく頑丈でどんな厳しい環境にあっても決して故障することなく、また、もし故障したとしても世界中で修理することができる。そして、荒れた道でも優れた走破性で前に進むことができて、確実にワクチンを届けることができる。そんなクルマランクル78しかない。だから選ばれたのですね。

大切なのは「変わっていない」こと
命を託せるクルマ、それがランクル70


(引用:トヨタ公式HP)

ランクル70系は登場から40年近く、世界中で愛されてきました。とにかく頑丈で走破性に優れ、構造がシンプルで修理もしやすい。そして40年近く「変わっていない」ということがなによりも重要なポイントです。

日本のような道路インフラが整い、修理工場やディーラー網なども発達した国では想像できませんが、海外、特に途上国などではそんな日本のように修理工場や、整備士が充実していないのが当たり前です。そんな環境で、もしクルマが故障したらどうなるでしょう。簡単な故障ならその場で対処できるかもしれませんが、それが最新のSUVだったら、修理などは容易ではありません。そもそもそのクルマを扱える工場などはないでしょうし、また知識を持った整備士などがいる可能性も少ない。交換部品だって入手は困難です。

そこが砂漠やジャングルだったら、その場で立ち往生すれば命の危険さえあるかもしれません。万が一故障したら修理することが難しい。そのようなクルマに命を託すことはできませんよね。

でもランクル70系ならそのようなリスクを避けることができる。なぜなら40年近くにわたって基本構造を変えることなく世界中で使用されてきたからです。アフリカのサバンナから中東の砂漠。さらに北極圏の氷河から大陸の横断まで。時には紛争地で救急車両や輸送車、武装して装甲車がわりに使われるケースまであったのです。

つまり地球のあらゆる地域をランクル70は走ってきた。そして基本構造が変わってこなかったのでたとえ故障したとしても交換パーツが世界中どこでもすぐに手に入る。さらに、構造がシンプルなので修理も難しくないうえ、ランクル70の修理を手掛けてきた整備士も世界中に存在するわけです。

もしアフリカの奥地で万が一故障したとしても、村の整備士でも修理できる可能性が高い。そんなクルマ、ランクル70以外には、せいぜいランドローバーくらいしか存在しません。

だからこそ世界中でランクル70は絶大な信頼、信用を集めてきた。そもそも故障の少ないトヨタ車ですし、あらゆるリスクが想定されるワクチン保冷輸送車を作るうえで、これ以上に適したクルマはないでしょう。コンピュータで制御された4WDシステムなど最新のスペックを持っていなくても、というかむしろ最新でないからこそランクル70がふさわしいのですね。そう考えると日本人として誇らしくもあります。今後、トヨタのランクル78の保冷輸送者が世界中で、そして新型コロナウイルス感染症用ワクチンをはじめ様々なワクチンの輸送手段として活躍し、多くの命を救うことになることになるのでしょう。

70系は国内正規販売すでに終了
200系やプラドなら今でも入手可能


(引用:トヨタ公式HP)

そんなすごいクルマなら是非ランクル78が欲しい! となるかもしれませんが、残念ながらランクル78も70も国内では正規販売されていません。一部で、海外から輸入して販売しているショップもありますが、かなり高価でまた数も少なくマニア向けの車両となっています。

近いものとしては2014年に復刻されたランクル70を中古で購入するという手もあります。しかし、こちらも人気で全く値段が下がっていません。ちょっとハードルが高いですね。

また、ランクル70は、そもそも本気でオフロード走行が必要な人のためのクルマです。普通のドライバーが街中を走るのに面白がって買ってしまうとストレスを感じる可能性が高いです。例えば乗り降りするたびに乗降性の悪さを実感したり、乗り心地や静粛性、快適性なども現代のクルマのレベルではありません。さらに、操縦安定性なども決して優れていません。本当に必要とする人以外は選ぶべきではないでしょう。

むしろ無理してランクル70を手に入れるよりもそんなランクルの直系である国内の現行モデル、ランクル200や、ランクルプラドを選ぶという方が現実的ではないでしょうか。これならどちらも新車で購入可能ですし、またカーリースで利用することだってできます。

ただ、プラドや200系は70系ほどではありませんが、非常に硬派なクルマでそれが魅力なのですが、アフリカや中東ではなく日本ではその品質や信頼性が過剰な部分もあります。あこがれていたとしてもいずれもてあます可能性もあるでしょう。だったら、期間限定で、カーリースで利用してみるというのはよい選択かもしれません。それでも世界中で愛されてきたランクルの魅力を十分に味わえるはずです。