2018年11月18日(日)、世界ラリー選手権(WRC)第13戦、ラリー・オーストラリアで、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamが優勝を飾り、トヨタはWRC復帰わずか2年目にしてマニュファクチャラーズタイトル(年間で最も多くのポイントを獲得した自動車メーカー直営のワークスチームに与えられるタイトル)を獲得しました。

トヨタがWRCで王座を獲得するのはなんと前世紀の1999年以来で、19年ぶりです。それなのにたった2年でそれを達成したのですから驚きました。

WRCはモータースポーツの世界ではF1と並ぶいわば頂点の一つ。そのタイトルを日本のトヨタ19年ぶりに獲得したのですから、まさに偉業。正直もっと大ニュースになってもおかしくないのですが、日本ではモータースポーツに関する報道はあまり大々的にはされない、世間にこのことがあまり知られていないのが残念でなりません。

とはいえ、これが素晴らしいことには間違いありません。そして、トヨタにそんな素晴らしいタイトルをもたらしたクルマが、トヨタの『ヤリス』です。

トヨタガズーレーシングが
手掛けるGRとは?

「でも、ヤリスなんてクルマ、トヨタにあったかな?」そう思われる方がいても仕方ありません。実はヤリスというのはヨーロッパでのヴィッツの車名。日本では同じクルマがヴィッツとして売られているのです。

ということはつまり、あのおなじみのコンパクトカー、ヴィッツモータースポーツの世界でナンバーワンの称号を受けたということ。どうです、凄くないですか?

今まで普通のコンパクトカーというイメージしかなかったヴィッツが急にものすごくスポーティで格好良いクルマに思えてくるから不思議なものです。

そして、そのヴィッツ(ヤリス)を世界一のラリーカーに仕立てたのが『TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team』です。

そんなトヨタ直系のレーシングコンストラクターであるガズーレーシング市販モデルも手掛けています。それはちゃんとトヨタのカタログにも載っています。それがトヨタの様々な車種に設定されたGRシリーズです。

このGRとはTOYOTA GAZOO Racingの頭文字からとったもの。様々なトヨタ車をベースに、走りに関するチューニングを施しチューニングレベルの違いで、3つのクラスのモデルをラインナップしています。

3つのクラスとはGRスポーツGR/そしてGRMNです。これらのモデルは、エンジンのパワーアップから、専用のエアロパーツアルミホイールの装着ボディや足回りの強化スポーツシートや特別な加飾などが施されたスポーティなモデルが各種用意されているのです。

最もチューニングレベルの高い
ヴィッツGRMNはすでに完売

(引用:TOYOTA GAZOO Racing

この中で、チューニングのレベルでいうとGRMNもっともスポーツ性が高くGRスポーツもっともベーシックなモデルです。そしてGRその中間といったところです。このほかにノーマル車に装着するパーツとしてGRパーツなども用意されています。

もちろんヴィッツにも、このGRの3クラスのチューニングモデルがラインナップされています。いわば世界一となったヤリス直結するスポーツモデルですね。大衆コンパクトカーであるヴィッツを、ガズーレーシングが手掛ければどんなスポーティな走りになるのでしょう。興味深いですよね。

ただ、もっともハイチューンヴィッツGRMNは残念ながらすでに完売。2018年の4月9日から150台限定として購入申し込みがスタートしましたがすぐに予約が殺到。抽選となり、あっという間に完売となってしまったそうです。

すでに中古車としてしか購入はできませんが、その特徴をあげると、GRMN専用にチューニングされた1.8リッター直4エンジンスーパーチャージャー追加したパワーユニットが搭載され、最高出力156kW(212PS)/6800rpm最大トルク250N・m(25.5kgf-m)/4800rpmを発揮。1140kgの軽量ボディ200馬力オーバーのハイパワーエンジンですから遅いわけがないですね。

さらにザックスの Performanceアブソーバーや、チューニングされたトルセンLSD、加えてボディの強化も行われフットワークもハイレベル

また、大きなウイングが目を引くスパルタンなエアロパーツシートやステアリングも専用品。加えて、このGRMNヴィッツの生産を行ったのが、ヨーロッパでヤリスの生産しているフランスのバランシエンヌ工場というのがポイント。

前述したヤリスのWRCのホモロゲーションモデルもこのバランシエンヌ工場で作られています。つまりは同じ工場で生まれたモデルということ。そんなバックグラウンドもオーナーとなった方には誇れるポイントでしょう。

ちなみに価格は税込で400万円でした。ヴィッツに400万円! と考えると高いとも思えますが、内容を考えれば決してそんなことはありません。コンディションをキープしたまま所有し続ければ、将来はプレミアカーとなる可能性あるでしょう。むしろバーゲンプライスかもしれません。

GRスポーツ“GR”が
中間グレードに当たるGR


ヴィッツGRMNは完売ですが、もちろん現在でもGRシリーズは手に入ります。それが『GRスポーツ』と、『GRスポーツ“GR”』です。どちらもヴィッツのカタログに掲載されパワーユニットこそノーマルと変わりませんが、ボディや足回りの強化専用のエアロパーツやシートなどの装備とチューニングの内容は本格的なものになっています。

ただちょっとわかりにくいのが、カタログの記載がGRスポーツと、GRスポーツ“GR”となっていること。一連のGRモデルのヒエラルキーは、上からGRMN、GR、GRスポーツと説明しましたが、このGRスポーツ“GR”はいったいGRスポーツなのか? それともGRなのか? 非常に分かりにくいのです。

当コラムを執筆するにあたってカタログやトヨタガズーレーシングのWEBサイトを見ましたが、グレード一覧ではGRスポーツ“GR”となっていますが、諸元表や装備表ではGRと表記されています。また専用装備のエンブレムもGR。結局GRスポーツ“GR”中間グレードであるGRということで間違いないようです。

ちなみにGRスポーツは型式指定を受けている、いわゆるカタロググレードと同じ扱いなのに対して、GRスポーツ“GR”(以降GRと表記)は、サスペンションのチューニングによって最低地上高も低くなっているため、持込登録(新規登録の際、運輸支局のクルマを持って行き検査を受けてナンバーを受け取る事。)車両です。

いわゆる改造した車両のナンバーを取るのと同じ手続きが必要ということ。つまりはノーマルやGRスポーツとはそれだけ違いがある(=チューニングが施された)特別なクルマということになるわけです。

チューニングメニューや
装備の内容の違いとは


(引用:トヨタ公式HP
ではGRスポーツとGRは、ノーマルに比べてどのような特別な装備を持っているのでしょう。まずはパワーユニットですが、こちらに関してはどちらも他車種と共通で1.5リッター直列4気筒の1NZ-FEとなります。また、GRスポーツにはハイブリッドも用意されています。こちらもヴィッツハイブリッドと共通のもの。つまりはパワーに関してはどちらもノーマルと違いはありません。ただし、ボディの強化や足回りのチューニングによって走りが格段にシャープなものとなっています。

その他の装備に関しては、GRスポーツとGR共通の部分も少なくありません。例えばGR/GRスポーツ専用エアロパーツはメッキの仕様やLEDの装備など僅かな違いはありますが、基本デザインは同じものです。そして、共にボディのスポット溶接増しでボディ剛性が強化されています。また、操縦性を向上させる専用電制ステアリングチューニングも共通でサスペンションも共に強化された専用チューニングサスペンション(GRはショックがザックス製)も装備されています。

そして、専用スポーツシート、インパネのオーナメント、GRのロゴの入った専用スタートスイッチなども共通です。ただしインテリアのステアリングシフトノブ、メーター、エンブレムなどはそれぞれ専用デザインとなります。

GRはこれらの共通装備に加えて、よりスポーツ性を高めるチューニングが施されています。まずはGR専用17インチ(GRスポーツは16インチ)アルミホイールと、専用センターキャップ、そしてグリップ力に優れたタイヤブリジストン POTENZA RE050Aの装着です。

さらに、ブレーキもホワイト塗装の専用ブレーキキャリパースポーツブレーキパッドが装着され、制動力をアップ。加えてクオリティの高さで定評のあるドイツ製のザックスのショックと専用チューニングによって車高も10㎜ダウンコーナリング性能も間違いなく向上しています。

他にもボディのスポット溶接増しに加えて、フロントサスペンションメンバー後端ブレースリヤフロアブレースセンタートンネルブレースなどが追加され、より高剛性ボディに仕上げられているという点も大きな違い。ボディの強化はユーザーレベルではなかなか手が出しづらいポイント。この違いは大きく、フットワークのポテンシャルは念入りにチューニングが施されたGRのほうが間違いなくシャープでしょう。

また、アルミペダルや、パドルシフト付き(CVT車専用)小径ステアリングホイールや、10速スポーツシーケンシャルシフトマチック(GRスポーツは7速)と、専用メニューも多く、思いのほか違いは小さくありません

世界一となったヤリスWRCの走りが
200万円台で味わえる!?

価格はGRスポーツ207万6840円~で、GR231万8760円~です。その差は24万円。実に絶妙な価格差。でもチューニングメニューや装備の内容を考えるとGRのほうがお買い得度が高いように筆者は思います。

もちろんどちらもノーマルのヴィッツに比べれば、相当にスポーティ。がっちりとしたボディの剛性感が味わえ、ステアリングの反応もシャープ。また無駄なくパワーを路面に伝えるヘリカルLSD(GRスポーツはメーカーオプション)によって、パワーこそノーマルと変わりませんが早さという意味では間違いなくワンランク上。スポーティな走りが存分に味わえるのは間違いありません。

なんといってもWRCで世界一となったヤリスWRC生んだガズーレーシングが手掛けたヴィッツです。その走りが200万円台で手に入ると考えればこれはとても魅力的。今では少なくなった、コンパクト適度に刺激的なスポーティカーを手に入れたいという方にとってもはどちらもぴったりの一台といえるでしょう。

これからヴィッツを購入しようと検討中の方も、エコなグレードも確かに良いですが、シャープなハンドリングが味わえるGRスポーツGRを、あえて狙ってみるというのも面白いかもしれません。

それにヴィッツなら「これって普通のコンパクトカーだよ」など、家族をうまく説得(ごまかす?)しつつ、小さな本格スポーティカーを手に入れることも、もしかしたらできるかもしれません。