気が付けば新車には当たり前のように装着されているアイドリングストップ機能。燃費の向上や排出ガスの低減などアイドリングストップがあればエコであるということから、多少面倒でも多くのドライバーもそのことを受け入れてきました。
しかし、近年アイドリングストップはクルマを消耗させ、バッテリーの交換費用などの負担も増えるなどというネガティブな話も伝わってきており、なくてもいいのでは、などと考える人も増えています。
また、トヨタのヤリスをはじめ新型車へのアイドリングストップ機能の標準装備をやめるメーカーもふえてきています。さらに、先日こんなニュースもありました。それはダイハツがタント、ムーヴキャンバス、タフトにアイドリングストップレス仕様を追加設定したというものです。アイドリングストップ付きが標準だけれども、いらない人は外すこともできるようになりましたよ、ということです。
こういった流れを見ると、もしかしたら、アイドリングストップはもはやいらない機能と思われているのかもしれません。でもなぜ、これまでアイドリングストップはエコに必要だ! と強くアピールしてきた自動車メーカーがアイドリングストップに対して消極的になったのでしょう。また、燃費に関してもおもったほど影響がないなどという噂もありますがそれは本当なのでしょうか。
目次
アイドリングストップレス車を選べば
車両価格が33,000円安くなる
2023年1月24日、ダイハツは、同社の主力車種であるタントやムーヴキャンバス、タフトなど一部車種にアイドリングストップレス仕様を追加設定するという発表しました。そして、4月11日からこれらのアイドリングストップレス仕様車を販売するというのです。その理由は、現在の世界的な半導体不足やコロナ感染拡大等の複合的な要因に伴って、必要な部品の供給が不足し、それによって多くの車種で生産遅れが発生していることから、より早く商品を提供できるようアイドリングストップ機能を除いたレス仕様新のグレードを追加で設定したとのことです。部品が足りないからクルマの生産が遅れている。だから、一部の機能をなくすことで生産のスピードを上げようということですね。
しかし、たかがアイドリングストップ機能を取り除いただけで、どれだけ生産に影響するのでしょう。先進安全機能にかかわるセンサーやコンピューター関連の部品のほうがよっぽど半導体不足の影響を受けそうですが、ダイハツはそうではないといっているのです。
ちなみにアイドリングストップレス仕様を選ぶと、価格はアイドリングストップ付き仕様に対して各グレードで一律3万3000円安くなるとのこと。結構な金額ではありますが、これにはアイドリングストップ対応のバッテリー代なども含まれているはずなので、単純にアイドリングストップのパーツだけで33,000円安くなるというわけではないでしょう。
ただ、軽自動車の車両価格を考えると決して小さくない金額です。選べるならアイドリングストップレス仕様がいい、とそちらを選択する方もおそらく少なくないのではないでしょうか。トヨタのアイドリングストップの標準化廃止を含め、あれだけ急激に普及したアイドリングストップですが、もしかしたら今後いらないものとなってしまう可能性もあります。
そもそもアイドリングストップには
どのような効果があり、その目的とは
今更説明するまでもないかもしれませんが、アイドリングストップとはその名の通り特定の条件下で自動的にエンジンを停止させて、無駄なアイドリングを極力減らして燃費を向上し、排出ガスの低減をするという機能です。
信号待ちなどクルマが一時停車したときに、センサーが検知して自動的にエンジンをストップ。そして、信号が青に変わったら、ブレーキをリリースすれば自動的にエンジンが再始動してスムーズに(そうでないケースもありますが)発進ができるというものです。
アイドリングストップからの再始動は多くの場合0.3秒から0.4秒と非常にスピーディで、さらにハンドルを動かすだけでエンジンが再稼働するハンドルアシスト機能なども搭載されているので、アイドリングストップ導入初期のクルマのような、ストレスはほとんどありません。
また、坂道などでアイドリングストップとなった場合にも、クルマが後退しないようにしてくれる、ブレーキアシスト機能もありますので、アイドリングストップがあるからトラブルになるというようなこともほとんどありません。ドライバーはただいつものように運転しているだけで、適切なタイミングでアイドリングストップ機能が働き燃費が向上。なおかつ排出ガスが低減できるというわけです。たしかにICE(内燃機関)を搭載しているクルマにとっては有効な機能であり、BEVなどとの共存を考えると欠かせないものに思えます。
アイドリングストップ機能を
搭載しないクルマが増えた理由とは
それなのに、なぜアイドリングストップを搭載しないクルマが増え、ダイハツがアイドリングストップレス仕様を追加設定したのでしょうか。建前は前述のとおり、部品不足による供給遅れの解消なのでしょう。でも、その裏にはきっとアイドリングストップによって得られるメリットよりも、アイドリングストップ機能をつかうことによるデメリットの方が上回ったからではないでしょうか。
アイドリングストップ機能は確かに燃費を向上させます。エンジンを停止している時間が長くなれば、もちろん排出ガスも少なくなるでしょう。でも、アイドリングストップを使うことによってのデメリットも決して小さくないのです。
それはバッテリーへの大きな負荷がかかるというものがそうです。アイドリングストップは走行中にエンジンの停止と始動を繰り返します。頻繁にバッテリーを使用してスターターを回しエンジンを始動することになるのですからその分バッテリーへの負担が大きくなるのは当然のことでしょう。
例えば、帰省の道中長時間の渋滞に巻き込まれたら、クルマは停車と発進を数えきれないほど繰り返すことになります。糸ドヤに度ならなんてことないでしょうが、一回の走行で数十回と繰り返せばスターターにも当然負担がかかりますし、バッテリーの消耗が激しくなるのは理解できるでしょう。
バッテリーは充放電を繰り返すほど寿命が短くなります。これはスマホのバッテリーなどでも皆さん経験があるはずです。アイドリングストップがあることで、結果バッテリーそのものの寿命が短くなってしまうというわけです。クルマのバッテリーは一般的なものなら数千円から1万円強くらい。結構な金額です。
さらに、アイドリングストップ対応の専用のバッテリーとなると、通常のバッテリーよりもだいたい1.5倍から2倍ほど高価になります。その高価なアイドリングストップ対応バッテリーを通常のバッテリーよりも頻繁に交換するということになればその費用はばかになりませんよね。
アイドリングストップを10分行うと
燃焼消費を130㏄削減できる
他にも、アイドリングストップで頻繁にエンジン再始動するときの音や振動がストレスに感じるという人もいるでしょう。さらに、交差点の右折待ち、左折待ち、踏切の一時停止などの際、停止することなくできるだけスムーズに発進したいのに、そんなときに限ってアイドリングストップ機能が働いてもたついてしまうなんてことがストレスと感じることもあるのではないでしょうか。
こういったケースでは、思わぬタイミングエンジンが停止したことに慌てて、急いで再発進しようとしてアクセルペダルを必要以上に踏み込み結果無駄に燃料を消費してしまうといったアイドリングストップの目的とは逆効果となってしまうこともあるかもしれません。適切に働いてくれると燃費向上には確かに有効なのでしょうが、ドライバー側がアイドリングストップに対してストレスを感じるケースが少なくないというのも間違いないのです。
それに、アイドリングストップの効果ですが、実は最近の効率のよういガソリンエンジン車であればそれほど燃費向上効果が期待できないのではないかとも考えられています。例えばアイドリングストップ機能を標準装備しないトヨタヤリスのガソリンエンジン車(Xグレード・FF 1.5Lガソリンエンジン搭載)ですが、こちらのWLTCモード燃費は21.6㎞/Lです。これは、このクラスのガソリンエンジン車としてはトップレベルです。ちなみ同クラスのアイドリングストップ機能付きのライバル車、マツダ2(WLTCモード燃費20.3㎞/L)と比べても劣らないどころかむしろ上回っています。
そもそもアイドリングストップでどれくらいの燃料消費を抑えられるのか以前JAFが発表したデータ(https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/eco-drive/technique/stop)ではクルマが10分間アイドリングを行うと、約130㏄の燃費を消費するとのことです。つまりドライブ中にアイドリングストップを10分間行えば、燃料消費を133cc削減できるというわけです。
ただ、停止と発進を頻繁に繰り返すような渋滞路だとアイドリングストップの効果が小さくなり、5秒以下のアイドリングストップしだとかえって燃料を消費してしまうことになるともされています。つまりアイドリングストップだけで燃料消費を抑えるというのは思いのほか難しく、アイドリングストップによってドライバーが受けるストレスと、省燃費効果を天秤にかけると、いったいどっちのほうがメリットがあるのでしょう。
アイドリングストップ機能を搭載しても
エコカー減税の対象にならなくなった
ここ最近自動車メーカーがアイドリングストップ機能に対して消極的になっている理由として、税制(エコカー減税)と燃費基準が変わったことも影響しているのではないかと思われます。アイドリングストップが普及した要因にはいろいろありますが、その理由の一つは間違いなくエコカー減税の導入でしょう。エコカー減税はクルマのカタログ上の燃費の数値によって、そのクルマが対象になるか、対象外になるかが決まります。そのためカタログ燃費を少しでも向上させるために、自動車メーカーは積極的にアイドリングストップ機能を搭載したのです。
しかし、2023年4月30日で従来のエコカー減税は廃止となり、2023年5月以降はガソリンエンジン自動車とハイブリッドカーは、2030年度を目標とする新しい燃費基準の達成度が60%に届かないと減税措置を受けられないことになりました。そのため、わずかに燃費が向上するアイドリングストップを搭載しても、その基準をクリアすることは難しく(ほぼ不可能)なってしまったのです。
さらに、新車のカタログ燃費の測定基準がJC08モードからWLTCモードへ変更されたということもアイドリングストップストップ機能の廃止の原因になったと考えられます。WLTCモードとJC08モードの違いですが、新しいWLTCモード燃費では燃費測定時間中のアイドリングの時間が短くなっているのです。
そのためアイドリングストップ機能があっても、カタログ上の燃費向上効果が小さくなってしまいました。あってもなくてもさほど変わらないのでなれば、自動車メーカーとしてもわざわざコストをかけてアイドリングストップ機能を採用する理由が無くなってしまったわけですね。トヨタがアイドリングストップ機能の標準搭載をやめた(ハイブリッドカーには搭載されています。)のも、ダイハツがアイドリングストップレス仕様を新たに設定したのもそのような理由があるのではないかと筆者は考えています。
現在のアイドリングストップ機能は
いずれなくなってしまう可能性あり
そもそもガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車などのICEは今後減っていき、電気自動車(BEV)や燃料電池車(FCEV)へと移行してゆくのは間違いないでしょう。となればアイドリングストップ機能そのものがいずれ消えゆく存在であるのかもしれません。
それでも、ガソリンエンジン車やハイブリッドカー(HEV)は今でも新車が開発され、完全にBEVなどに移行するまではまだまだ使われていくはずです。そうなれば、燃費向上効果こそ以前ほどメリットは大きくないとはいえ、CO2排出量を削減する効果のあるアイドリングストップ機能は決していらないものとはならないのではないでしょうか。
きっと優秀な日本の自動車メーカーのエンジニアたちが、より効果的で、車やバッテリーに負担の少ないアイドリングストップ機能を開発してくれるはずです。今のアイドリングストップ機能に不満があるという方も、そんな、ドライバーにストレスがなく、それでいてよりエコな新しいアイドリングストップ機能が登場することに期待しましょう。