シエンタといえば、トヨタのコンパクトミニバンであり長年売れ続けているベストセラーモデルです。現行モデルは登場からすでに5年、おそらくモデルチェンジもそう遠くないでしょう。それなのに意外なことに、ファミリードライバーを中心に人気はむしろ上昇中なのをご存じでしょうか。いうならば隠れたベストセラーです。

その人気は実力が評価されてのもので、ネットで検索してもオーナーたちの満足度も非常に高いことがわかります。そしてカーリース車両としても非常に注目度は高いのですが、いったいシエンタの何が多くのドライバーの心をつかんでいるのでしょうか?その理由を筆者なりに探ってみました。

2020年上半期の
売り上げ台数ランキング第6位!


(引用:トヨタ公式HP)

2020年上半期の自動車登録台数ランキングをご覧になったことがあるでしょうか。WEBで簡単に検索できるので、気にある方はチェックしてみると現在のクルマの流行などもわかって意外に面白いものです。

日本自動車販売協会連合会(http://www.jada.or.jp/)

こちらのサイトで「乗用車ブランド通称名別順位」というのをクリックすると、毎月の車種別売り上げランキングが簡単に確認できます。

では、現在のランキングはどうなっているのか?軽自動車を除いた登録車ランキングで、2020年の上半期の第1位はトヨタのライズです。コンパクトSUVとして大ヒット中の、昨年11月に発売されたばかりのバリバリの新型モデルですね。そして続く第2位は同じくトヨタのカローラです。こちらも2019年に発売となった最新モデル。

そして、3位にはホンダのFITがランクイン。さらに4位はまたまたトヨタのヤリスが入り、そして5位が日産のノートとなっています。こうしてみるとe-POWERの注目度が高い日産ノート(モデルチェンジは2012年、e-POWERの追加は2016年)を除けばほとんどがモデルチェンジされたばかりの新型ばかりとなっています。新型のクルマは話題性もあって、注目度も高いので人気となるのも当たり前ですね。

でも、そんな新しいモデルに交じって続く第6位にランキングしているクルマをご存じですか?それがトヨタのシエンタなのです。

シエンタは新型とはとてもいえない2015年発売のロングセラーコンパクトミニバンです。フルモデルチェンジを受け登場してからなんと5年も経過しています。第6位といっても突然売れ出したのではなく、長い間コンスタントに売れ続けているいわば隠れたベストセラーカーといえるでしょう。

ではなぜ、さほど新しいモデルとはいえないシエンタが、今もヒットを続けているのでしょうか?その要因を挙げてみましょう。

Mクラスミニバンよりも小型で
コンパクトハイトワゴンより余裕がある


(引用:トヨタ公式HP)

まずひとつは絶妙なサイズ感でしょう。ミニバンは今やファミリーカーとして定番のジャンルですが、最近はアルファードやヴォクシーといったLサイズMサイズミニバンよりも扱いやすく、それでいて室内の広いちょうどよいサイズ感のモデルの人気が高まっています。そこにぴったりはまるのがシエンタやホンダのフリードなのです。

最近はもっとコンパクトな、トヨタルーミーやスズキのソリオといった、背の高いコンパクトハイトワゴンの注目度が上がってはいますが、それらに決して負けていません。コンパクトハイトワゴンは、軽自動車のN-BOXやタントの普通車版というイメージで、室内高の余裕はあっても長さはそれほどでもない。室内長を比べると全長4235mmのシエンタの方が有利です。

さらにシエンタには2018年からは2列シートモデルも加わっています。3列シートと2列シートが選べるのは大きなメリットでしょう。家族構成によってはどうしても3列シートが必須という方もいるでしょう。そんな方にはコンパクトハイトワゴンは選びにくいはずです。

またシエンタの2列シートモデルなら、後席をたためば荷室長は2,065㎜という広大なスペースが作れます。たっぷりと荷物が積み込めるほか、フラットスペースになるので車中泊などにもぴったりです。

とはいえ全長4,235mは決して大きくない。その小さいボディに3列シートというのは十分な実用性があるのでしょうか?かなり窮屈なのでは?そう思うのも当然です。それに天地方向でもシエンタは全高が1,675mmですから、ルーミーの1,735㎜よりも低くスペース的にはぎりぎりなのが想像できます。

しかし、実際のシエンタの3列目のスペースは想像するほど窮屈ではありません。大柄な男性はさすがにきついですが、小柄な男性や女性お子さんなどなら、それほど窮屈感を感じないはずです。また、2つ目シートにあるレバーを引けば、勝手に座面が持ち上がってクルリと回転し前方に跳ね上がって簡単に収納ができるのでスムーズに乗り降りすることが可能です。ちょっと近所に家族で食事に出かけるなどという使い方なら十分な実用性があるといっていいでしょう。小さくてもミニバンとしてのポテンシャルは十分なのです。

このようにシエンタの3列シートが、小さい割に意外なほど実用性が確保されているのには理由があります。それは室内高が1,280㎜と十分に確保されているからです。例えばミニバンの定番であるエスティマは、その室内高は1,255㎜です。シエンタはそれよりも天地の高さが確保されているのですから余裕があるのも当然です。

ではなぜ限られたスペースで十分な室内高が確保できたのか。その秘密は薄型燃料タンクです。燃料タンクを薄型化して床の位置を下げたため、十分な室内高が確保できているのです。

スポーティでスタイリッシュな外観に
質感の高いインテリアデザイン


(引用:トヨタ公式HP)

ヒットの理由の2つ目はデザインでしょう。内外装のデザインがスポーティでミニバンとしてはとてもスタイリッシュです。先代のシエンタはどちらかというとユーモラスでほのぼのとした印象のかわいいクルマでした。しかし、現行モデルのデザインはスポーティでかわいいというよりもカッコ良くなっています。また、インテリアなどもインパネなどを含めてスポーティな印象で、かつ質感も高いので居心地が向上しています。

ボディサイズに関しては旧モデルより少し大きくなり、狭い場所での取り回し性は多少悪化していますが、もとがコンパクトなクルマなのでその辺はあまり欠点にはなっていません。先代シエンタよりもすべての面でグレードアップしており、高級感も増しています。

もちろんデザインが優れているだけではなく日常の利便性にも優れています。例えばリアのスライドドアは665mmもの開口幅を確保。さらにフロアはフラットでその高さも地面から330mmと低く設定されているので、小さなお子さんからお年寄りまでスムーズに乗り降りすることが可能です。居住性ではクラストップレベルといっていいでしょう。

そして、こういった優れた後席の居住性から実はシエンタは、タクシー車両であるJPN TAXI(ジャパンタクシー)のベース車両にもなっているほどです。後席の使いやすさ、快適性はクラスが上のミニバンにも負けないどころか、乗降性の高さでいえばむしろ上回っているといってもいいかもしれません。

ガソリンエンジンとハイブリッドが
選べるパワーユニット


(引用:トヨタ公式HP)

さらに3つ目としては、ガソリンエンジンとハイブリッドが選べるというのも人気の要因といえるでしょう。燃費に関しては今は多くの方が厳しい目で見ていますのでやはりこれは大きい。例えば同じトヨタ内のライバルともいえるコンパクトハイトワゴンであるルーミーは、トヨタの普通車ラインナップの中でも数少ないハイブリッドの設定のないモデル。価格の安さや、さらにコンパクトな点は非常に魅力的ですが、実はそれほど燃費に関しては優れているわけではないのです。

例えばルーミーのノンターボの2WDグレードなら燃費は18.4km/L(WLTCモード)です。そしてターボになると16.8㎞/Lとなります。決して悪くはありませんが、その小ささから想像するほど優秀でもありません。

対してシエンタですがガソリンエンジンこそ燃費は17.0㎞/Lですが、ハイブリッドなら22.8㎞/L(WLTCモード)と非常に優秀です。さらに走行性能の差も大きい。

ルーミーのノンターボエンジンのパワーは69PSしかありません。軽自動車のターボモデルでも64PSあるのに思いのほか非力。さらにトルクも9.4kgf・mで、1tを超えるクルマのパワーユニットとしては正直ギリギリでしょう。ターボでも98PS、14.3gf・mで決して余裕はありません。オーナーによるネットの書き込みなどを見ても想像以上にパワーがなくて余裕がない、というものが少なくないようです。

でも、その点シエンタならパワーと優れた燃費性能を両立したハイブリッドも選べます。また、ガソリンエンジンもパワーは109PS(4WD車は103PS)、トルクも13.9 kgf・m(4WD車は13.5 kgf・m)を発生する1.5L直列4気筒DOHCエンジンが設定されていて、走りにも余裕があります。もし乗車定員いっぱいに人を乗せたなら、シエンタとルーミーのその走行性能の差はより明確になるはずです。

価格的には30万円ほどリーズナブルで、よりコンパクトで十分な広さを持つルーミーは確かに魅力的ですが、両車を試乗して比べてみると質感や走りに大きな差があり結果シエンタを選択するという人が少なくないのだと思われます。

ヒットモデルだけに
リセールバリューも期待できる


(引用:トヨタ公式HP)

加えて比較的設計の新しい車なので気になる予防安全性能に関しても充実した内容となっています。Toyota Safety Senseは廉価グレードであるXのみオプションですが他のグレードは標準装備。

歩行者検知機能付きの衝突被害軽減ブレーキ(緊急自動ブレーキ)や車線を逸脱検知機能、駐車時の障害物を検知して自動ブレーキを作動させるインテリジェントクリアランスソナーも備わっています。ファミリーカーとして使用するならこういった予防安全機能は絶対になくてはならないものでしょう。その点でもシエンタは十分に期待に応えてくれます。居住性、デザイン、走り、燃費、さらに安全性、その魅力を並べてみるとシエンタがロングセラーでベストセラーであることは十分納得できますね。

さらに人気があるということはリセールバリューが期待できるということでもあります。新車で購入して中古車として手放すときに高値が期待できるということですが、カーリースの場合もリース契約の際に設定される予想残価も高く設定できるわけです。

つまりその分月々の支払も抑えることができる。つまりシエンタならリースでもよりお得にクルマに乗ることができるわけです。やはり長く人気をキープし続けてきたのにはこのように明確な理由があるのですね。

シエンタのそのミニバンとして実力の高さから、最近はタクシー車両として利用する動きも活発になっているといいます。シエンタをベースとしたタクシー専用車両であるJPN TAXIがあるのに、わざわざなぜ?という気もしますが、それには理由があります。そもそもタクシー専用の車体と、LPGハイブリッドという専用パワーユニットを持つJPN TAXIは車両価格も高い。

さらに、LPGハイブリッド用の燃料であるLPガスを扱うスタンドの数も減ってきており、運用面でネガな面もあるため、むしろ通常のガソリンハイブリッドで十分燃費も期待できるシエンタをタクシー仕様とした方がむしろメリットも多いと判断するタクシー会社があるのです。

なるほど確かにシエンタの2列シートモデルなら室内も広く、乗り降りもしやすいですからタクシーとして使っても十分に力を発揮してくれるのでしょう。クルマの耐久性や実用性、燃費などに対して厳しい目を持つタクシー業界が注目するほどの実力を持ったクルマ、それがシエンタということなのですね。

乗ってみればわかるその魅力
人気の理由には確かな裏付けがあった


(引用:トヨタ公式HP)

登場から5年を経過し、遠くない未来フルモデルチェンジが実施される可能性のあるトヨタのシエンタ。しかしその人気はいまだ衰えず多くのファン、特にファミリードライバーを魅了しています。その理由をあらためて紐解いてみたら、人気は当然であるその実力がわかりました。

このコラムをご覧になっている方の中には、家族にちょうど良いクルマとして、次はミニバンにしようか、などと検討中の方も少なくないでしょう。その候補として数々のクルマ、新型車両が上がっていると思いますが、選択肢としてシエンタは絶対に外すべきではありません。多くのドライバーに長年愛されてきたのには、当然ですがキチンとした理由があったのです。

最新のクルマと比較しても見劣りしないシエンタのその魅力は、カタログスペックだけではきっとわかりにくいでしょう。興味のある方は、ぜひ実際に試乗して確認してみるべきです。きっとシエンタが隠れたベストセラーとなっている理由が実感できるはずです。