2023年8月2日、トヨタは新型ランドクルーザー250を世界初公開し、またランドクルーザー70の国内再導入も発表しました。ランドクルーザープラドの名前がなくなってしまうことを残念に感じる方もいるでしょうが、多くのランクルファンがこの発表を喜んでいます。

新たに国内投入が決まった新旧ランドクルーザーですが、その搭載エンジンにも注目が集まっています。この両車に共通で搭載されることになったのがディーゼルターボエンジンの1GD-FTV。この1GD-FTVはトヨタの主力クリーンディーゼルエンジンで、ランドクルーザープラドやハイエースなどにも搭載されているタフさで定評のあるエンジンです。ランドクルーザーにはトルクの厚いディーゼルエンジンがマッチしており、ベストな選択といえるでしょう。

一方でディーゼルエンジンに対して、ネガティブなイメージを持つ方も少なくありません。特に特有の騒音と振動はとても気になります。技術が進んだ今ならガソリンエンジン並みに静かなディーゼルエンジンは作れそうなものですが、そうなっています。そんなディーゼルエンジンがなぜ騒音や振動が大きいのかその理由について解説していきます。

新型ランドクルーザー250の海外モデルには
なんとハイブリッドモデルも設定

新型ランドクルーザー250
(引用:トヨタ公式HP)

先日トヨタはランドクルーザープラドの後継モデルである「ランドクルーザー250シリーズ」を世界初公開しました。また、合わせて「ランドクルーザー70」の今冬の国内再導入も発表しています。ランクル250は従来のランドクルーザープラドに比べてエクステリアがよりオフローダーらしいものとなり、その機能美を感じさせる直線基調のデザインが世界中のランクルファンから大好評。発売されれば争奪戦となることはもはや間違いないようです。

ランドクルーザー70もランクルファンが待望していた一台で、その再導入を待ちわびていた人も少なくなくありません。2014年の期限限定での復活の際は1ナンバーの商用車だったのが、今度の復活では3ナンバーの乗用車モデルとなりトランスミッションもATとなりました。これはハードの四駆ファンからは「70(ナナマル)も軟弱になったな」という厳しい評価もあるようですが、それ以上に多くのファンから、普段使いもしやすくなってこれはいい! と評判はとても良いようです。こちらも前回の復活の時同様に争奪戦は間違いありません。

ランクル+ハイブリッドの国内投入は?
主力パワーユニットはやはりディーゼルエンジン

新型ランドクルーザー250
(引用:トヨタ公式HP)

そして、ランクルとなればやはりそのパワーユニットにも注目が集まります。ランクル250とランクル70には導入される国ごとに様々なエンジンが搭載されていますが、今回国内に導入される両車に共通で搭載されるのが1GD-FTV型ディーゼル2.8Lターボエンジンです。250の海外向けにはガソリンターボやハイブリッドもありますが、国内向けにはハイブリッドは予定されておらず、このディーゼルターボエンジンがメインとなるようです。

ディーゼルエンジンは燃費に優れ燃料代も軽油なのでお得。さらに低速トルクが厚く、重量級のランクルにはぴったりのエンジンです。ただ、ディーゼルエンジンに対してどうしてもネガティブなイメージを持つ方が少なくはありません。かつての東京都知事のパフォーマンスの影響もあるでしょう。すでに解決されているのですが排気ガスの黒煙のイメージがありますし、ガソリンエンジン車に比べると車両価格が高いということもあります。

そしてディーゼルエンジンといえばやはり振動や騒音のイメージも強い。最近のディーゼルエンジンは、以前に比べれば騒音も振動も少なくなっていますが、ガソリンエンジンに比べるとガラガラとうるさいのは確か。また振動もあります。BEVやハイブリッド車などガソリンエンジン車以上にノイズのないクルマが増えているので比べるとどうしてもディーゼルエンジンの騒音や振動は気になってしまいます。

でも、そもそもなぜディーゼルエンジンはうるさいのでしょうか。メカニズムとしてはガソリンエンジンとそれほど変わるわけではないのに、あらためて聞かれてみるとよくわからないという方もいるはずです。そこで、ランクルの発表で再度注目されているディーゼルエンジンに関して、そのネガティブいなイメージでる特有の騒音や振動はなぜなくならないのかその理由について詳しく解説していきましょう。

ディーゼルエンジンとガソリンエンジンは
いったい何が違っているのか

新型ランドクルーザー250
(引用:トヨタ公式HP)

ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べてなぜうるさいのか。近年のクリーンディーゼル車はノイズが低減されていますし排ガスもクリーン化されていますが、エンジンの騒音や振動に関してはガソリンエンジン車に比べるとまだまだ劣っているのは変わりません。ではなぜディーゼル車は、最新モデルでもあいかわらず特有のガラガラ音がするのでしょう。

そもそもガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車は何が違っているのか。そこから説明するとまず燃料が違います。ガソリンエンジン車の燃料はいうまでもなくガソリンです。そしてディーゼルエンジン車は軽油ですね。燃料が違うだけでなくその燃焼方式も違っています。

スパークプラグによって混合気に点火する
ガソリンエンジン

新型ランドクルーザー250

ガソリンエンジンは、ガソリンと空気の混合気(ガソリンと空気を混合した気体)をシリンダーに取り込み、そしてピストンによって圧縮してから、点火プラグの火花で点火。そこから火炎が拡がって混合気が燃焼し膨張。ピストンを押し下げます。ピストンはコンロッドによってクランクシャフトとつながっており、ピストンの上下運動がクランクシャフトによって回転運動にかわって、それを動力として取り出しています。

圧縮による事故着火で混合気を燃焼させる
ディーゼルエンジン

新型ランドクルーザー250

一方ディーゼルエンジンはガソリンエンジンのようにスパークプラグによる着火は行われません。まずシリンダー内には混合気ではなく空気だけを取り込みます。そしてピストンによってその空気を圧縮して高温になったところに高圧の軽油を噴射、すると蒸発した軽油が拡散しながらシリンダー内で自己着火していっきに急速に燃焼します。

そして、燃焼によって発生した圧力がピストンを押し下げると、ピストンはコンロッドによってクランクシャフトとつながっているのでピストンの上下運動がクランクシャフトで回転運動にかわって、それを動力として取り出します。このようにガソリンエンジンとディーゼルエンジンは基本的な構造は変わらないのですが燃料や混合気を圧縮するのか空気を圧縮するのか、さらに点火方式も全く違っています

さらに圧縮比も大きく違っています。圧縮比とは取り込んだ混合気や空気をどれだけ圧縮するかを示したものです。圧縮比=膨張比なので圧縮比が高いほど混合気が点火、爆発したときの膨張比が大きくなりなす。そのため熱効率が良くなって、一回の燃焼で取り出せるエネルギーが大きくなり燃費や出力が向上します。もちろん圧縮すればするだけいいというわけではなく圧縮抵抗がエンジンの負荷にもなるので限界もあります。

ガソリンエンジンの燃料であるガソリンは、とても揮発しやすく火花を飛ばすだけで容易に着火するので、圧縮比が高いと自己着火(ノッキング)してしまうので圧縮比は比較的低めの9~12程度に設定されています。圧縮された状態の空気(混合気)をシリンダーに送り込むガソリンターボエンジンの場合は自己着火しやすいのでさらに低く圧縮比はだいたい7~8程度に設定されています。

一方ディーゼルエンジンの燃料である軽油はガソリンのように火花だけでは簡単に着火しません。しかし、火ではなく熱を加えると自己着火して一気に燃焼をします。そのためスパークプラグではなく空気を高圧で圧縮することで高温にしておき、そこに高圧の軽油を噴射して混合気を燃焼させています。

ディーゼルエンジンはスパークプラグがなく取り込んだ空気を圧縮によって高温にすることで着火させているので、その分高い圧縮比が必要となります。そのためディーゼルエンジンの圧縮比はガソリンエンジンと比べると非常に高い15~17などに設定されています。このガソリンエンジンとディーゼルエンジンの圧縮比の違いが実は騒音や振動の大きな原因なのです。

燃焼圧力がどうしても高くなるため
上騒音や振動が避けられない

新型ランドクルーザー250
(引用:トヨタ公式HP)

なぜならディーゼルエンジンは空気をガソリンエンジンの混合気よりも高い圧力で圧縮しているからです。さらに、スパークプラグの点火をきっかけに火炎が徐々に燃焼室全域に拡がり比較的緩慢に混合気が燃焼するガソリンエンジンに対して、ディーゼルエンジンは噴射した軽油が燃焼室全域で一気に自己着火します。つまりシリンダー内で急速な混合気の燃焼が起こるので燃焼圧力がガソリンエンジンに比べるとどうしても高くなり結果燃焼音(騒音)や振動が大きくなってしまうのです。

いうなればガソリンエンジンにおけるノッキング(エンジンの負荷が大きい時に異常燃焼が起こりカリカリやカラカラなど金属音がなる現象)を常に起こしているような状態のためどうしても特有のガラガラを防ぐことができないのですね。

強く圧縮して空気を高温にすることで軽油を燃やしているディーゼルエンジンは、圧縮比を下げることは難しいので最新型のクリーンディーゼルエンジンであっても特有のガラガラ音や振動が避けられないのです。そのため最新型のランドクルーザー250でも、再導入が決定したランドクルーザー70でもディーゼルエンジンモデルは騒音や振動はどうしても避けられないでしょう。

ただ、いわゆるクロスオーバーSUVとは一味違う、ハードなクロカン4WDであるランクルであれば、そんな騒音や振動もむしろ個性であり特徴です。さらに、ディーゼルエンジンならではのメリットの方がランクルファンにとっては魅力に映るはずです。

ランドクルーザーならではの信頼性と高い耐久性
悪路走破性を裏付けているのはディーゼルエンジンだ

新型ランドクルーザー250
(引用:トヨタ公式HP)

ディーゼルエンジンならではのメリットとは高圧縮で軽油を燃焼させるため熱効率が高いということ。そのためトルクが厚くオフロード走行に適しています。また、ガソリンエンジンよりも燃費がよいうえ、燃料である軽油も安いので長い目で見るとランニングコストが抑えられるというのも利点です。

ガソリンエンジンのようなスパークプラグを使わないということもメカニズムとしての点火系がないということなのでシンプルで故障率が低いというのもメリットでしょう。また圧縮比を高くする必要があるのでエンジン自体も頑丈に作られています。そのためディーゼルエンジン車であれば10万km程度の走行ではびくともせず、30万km、40万kmでも問題なく走行することができます

ランドクルーザーといえば「どこへでも行くことができ、生きて帰ってこられるクルマ」として世界中から高い信頼が寄せられているクルマです。その信頼性と高い耐久性、悪路走破性の裏付けとなっている要素の一つがこのディーゼルエンジンなのです。多少うるさくでも振動があってもランドクルーザー乗りであれば、ちょっと暴論ですがディーゼルエンジン車を選ぶことが正しいといえるのではないでしょうか。

もし新型ランドクルーザー250の
購入を検討されているなら一押しはディーゼルエンジン車

新型ランドクルーザー250
(引用:トヨタ公式HP)

スムーズで騒音や振動の少ないガソリンエンジンモデルも、新型のランドクルーザー250にはもちろん設定されていますが、人気に関してはおそらくディーゼルエンジン車に集中するはずです。当然リセールバリューもディーゼルエンジンのほうが高くなると予想されます。

BEVへ本格的な移行が進み今、ディーゼルエンジンを選ぶというのは時代に逆行しているようにも思えますが、逆に今後タフでワイルドなディーゼルエンジン車に乗ることができなくなる(海外向けのランクル250にはハイブリッドの設定もアリ)可能性もあります。

このコラムを読んでいるあなたが、発売予定の新型ランドクルーザー250の購入やリースでの利用を考えているのなら、筆者としてはぜひともディーゼルエンジンモデルに乗ることを強くオススメしたいですね。ランクル本来の濃厚な味わいがきっと楽しめるはずです。