先日、一般社団法人 日本損害保険協会が24 回目となる「自動車盗難事故実態調査」を実施し、2020年1月1日~2022年12月31日に発生した自動車盗難の調査結果を発表しました。その結果最も盗まれやすいクルマはまたもトヨタのランドクルーザーという結果となりました。

最新のセキュリティ機能を搭載されているはずのランドクルーザー300でも、窃盗犯の魔の手から逃れることができないのです。でも、それはなぜなのか。次々と新しい手口が生まれているからです。特にもっとも厄介な車両盗難手口とされているのが「CANインベーダー」です。一度狙われてしまうと有効な防止方法がないとされているCANインベーダーですが、それはどういったものなのでしょう。また、何か有効な対策方法はないのでしょうか調べてみました。

車輛盗難ワースト10はすべてトヨタのクルマ
世界中で人気のブランドゆえに仕方がない?

車輛盗難ワースト10

先日発表された「自動車盗難事故実態調査」における2022 年の車両本体盗難の車名別盗難状況のワースト 1は、トヨタのランドクルーザーとのことでした。以下こちらが2022年度車両盗難ワースト10です。

  • 1位 ランドクルーザー 450件
  • 2位 プリウス 282件
  • 3位 アルファード 184件
  • 4位 レクサスLX 156件
  • 5位 レクサスRX 90件
  • 6位 ハイエース 83件
  • 7位 クラウン 72件
  • 8位 アクア 55件
  • 9位 C-HR 43件
  • 10位 レクサスES 38件

見事にトヨタ車だけ(レクサスもトヨタにカウントすると)でワースト10をすべて独占してしまっています。これはトヨタ車のセキュリティが甘いということではなく、世界中でトヨタ車の人気が高いのがその理由です。車両窃盗犯にとってリスクの高い車両盗難はできるかぎり高額なものを狙いますからトヨタのクルマやパーツが一番高く売れることなのでしょう。トヨタ車オーナーにとってはたまったものではありませんがこのランキングは裏返せば人気車の証でもあります。そして、最も人気なのがランドクルーザーということになるのでしょう。

リレーアタックなどに変わる車両盗難の
最新の手口がCANインベーダー

車両盗難の最新の手口がCANインベーダー

ワースト1のトヨタランドクルーザーは世界中でとにかく圧倒的な人気を誇っています。圧倒的な悪路走破性能に優れた耐久性、ゴージャスな内装に他を圧倒するような迫力のスタイリング。セレブのマイカーから紛争地で使われる特殊車両にまで幅広く使われ、最新の300系にかかわらずその人気はどの時代のモデルでも衰えることがありません。

日本国内はもちろん、世界中で大人気の車種となっており、10年落ちだろうが、走行距離が10万kmを超えていようがその価値は全く落ちません。そのため中古車価格が下がることがありません。というか現在はプレミアがついていて中古車が新車以上の価格で取り引きされています。つまり高く売れる。だから車両窃盗犯としてはたとえリスクがあっても盗もうとするのでしょう。結果日本国内で最も盗難リスクの高い車種の一つになってしまいました。

では、そんなランドクルーザー300ですが、車種別盗難ナンバー1になってしまうほど新車のセキュリティが甘いのか。もちろんそんなことはありません。最新のクルマですからイモビライザーだけでなく、指紋認証でのセキュリティなども標準で搭載されています。でも、それなのに車輛盗難を完全に防ぐことができていないのです。なぜなのか。

車輛車両盗難の手口にはスマートキーの常時電波を発信し続けているという特徴を突いた「リレーアタック」や「コードグラバー」というのがありますが、ランドクルーザー300の車両盗難で使われている手口は「CANインベーダー」という機器を使った盗難だとされています。

CANインベーダーはリレーアタックやコードグラバーのようなスマートキーからの電波を遮断するという対策では防ぐことができません。そのため、防犯対策がとても難しく従来の方法では盗難を防ぐことができないのです。結果セキュリティ機能が搭載されているはずのランドクルーザーでも、簡単(実際はそうでもないでしょうが)に盗まれてしまうのです。でもそのCANインベーダーとはいったいどういったもので、どのような方法でセキュリティを潜り抜け、車両を盗み出しているのでしょうか。

車輛盗難は年々減少の傾向に
ただし、検挙率は半分以下

車輛盗難は年々減少の傾向に

警視庁の発表によると、自動車盗の認知件数は、平成15年(6万4,223件)のピーク時から大幅に減少しており、昨年の令和4年は5,734件とピーク時から比べると約1割以下にまで減少しているといいます。

https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/bouhan/car/202301jidousyatou.pdf

車両窃盗犯の検挙件数も平成17年(1万4,898件)以降減少傾向にあるとのことですが、一方で、令和4年の検挙率については45.6パーセントとなっており、約半数が検挙されているとのこと。こちらも徐々に増加しているのですが、逆にいうとまだ半数以上が検挙されていないということにもなります。

主な盗難の手口として挙げられているのが以下です。

  1. 窓の隙間から針金等を差し込んでドアを解錠し、車両に侵入する。
  2. ハンマー等でクルマのガラスを破壊し、車両に侵入する。
  3. 工具等を使ってドアを解錠し、ステアリングロックを破壊してエンジンを始動する。
  4. 車体にマグネット等で隠しているスペアキーを探し出す。
  5. 家に侵入し、クルマのキーを盗む。
  6. レッカー、けん引車でクルマを丸ごと盗む。
  7. 鍵を預かる施設でクルマの使用者になりすましてキーを受け取る。
  8. リレーアタックやCANインベーダーといわれる、特殊な機器を使用する手口。

針金でドアロックを開錠したり、窓を割ったりなど乱暴な手口はいまだにあるようですが、最近のクルマはドアを開けたとしてもエンジンは容易にかけられません。イモビライザーが搭載されているクルマが少なくないからです。そのようなこともあるのでしょう、近年増えているのがCANインベーダーを使った車両盗難手口です。

つい最近まではリレーアタックやコードグラバーといったスマートキーの電波を使った盗難手口が多かったのですがそれらはその手口が徐々に知られるようになり、金属製の缶や電波遮断ポーチなどを使って防犯対策を実行する方も増えたことで徐々にその被害は減りつつあります。そのため変わって増えてきたのがこのCANインベーダーによる犯行なのです。

CANの信号の配線に不正に侵入して
クルマのシステムを乗っ取ってしまう

CANの信号の配線に不正に侵入

CANインベーダーを使った手口に対しては最新のセキュリティシステムを導入しても完全に防ぐことは難しいとされています。その理由はCANインベーダーのその仕組みにあります。まず、CANとはなんなのかというと、Controller Area Networkを意味するIT用語で、クルマ内部にある電子回路や電気系の装置を接続するための通信規格の一つです。

クルマのECU(電子制御装置)やエンジン、各種センサーなどの部品はすべてこのCANでつながっており、これらすべての装置が一つの伝送路を共有しています。CANインベーダーは、このクルマのいたるところに通っているCANの信号の配線に不正に侵入(invade)することができ、CANを経由して、車両のシステムを乗っ取り、ドアロックの解錠やエンジン始動などを行ってしまうという手口です。

CANインベーダーの恐ろしいところは、自動車のシステムに直接侵入してしまうということです。CANインベーダーは、OBDⅡの配線につながるCAN信号に不正にアクセスすることで車を乗っ取ってしまいます。OBDはOn board diagnosticsの略で現在のほぼすべての車両に搭載されている自己診断機能のこと。クルマに異常などが発生したときなどに警告灯を点灯させたり、診断されたコードを専用のコネクターを経由してアウトプットしたりしているのがこのOBDⅡです。

このOBDⅡはいわばクルマのあらゆる情報が集約されるターミナルのようなもので、整備工場やディーラーなどはこのOBDⅡのコネクターに専用の診断機をつないでクルマの異常の内容を読み取っています。車両窃盗犯はこのOBDⅡに流れるCAN信号に不正にアクセスすることでクルマのシステムを乗っ取ってしまうのです。

CAN信号の配線にはCANインベーダーなどの機器さえあれば車外からでもアクセスすることができてしまいます。OBDⅡのコネクター自体は車内にあるのですが実は車外からもアクセスできる場所(セキュリティの問題があるのでここでは濁しておきます)があります。

車両窃盗犯はそのクルマのどこからならCAN信号配線にアクセスできるのか知っており、そこにCANインベーダーをつないでクルマのシステムに侵入するとドアロックの開錠、イモビライザーの解除、そしてエンジンを始動してあっという間に盗んでしまうのです。リレーアタックと違って犯行が一人でもできてしまうのがさらに恐ろしいところで、万が一自分のクルマがターゲットになってしまうと犯行の逃れるのは容易ではないのです。実に厄介です。

CANインベーダーによる車両盗難の
被害にあわないためにはどんな対策がある

CANインベーダーによる車両盗難対策

CANインベーダーの被害にあわないためにはどのような対策をとればいいのでしょう。CAN信号とは独立したシステムを持ちドア開錠などを検知して警報を鳴らしたりエンジン始動を防いだりできるCANインベーダー対応の最新セキュリティシステムを導入するというのも一つの対策ですが、それでも完全に車両盗難が防げるわけではありません。

そこでやっておきたいのが物理的にクルマの機能をロックしてしまう防犯用品の使用です。例えばタイヤロックやハンドルロック、シフトレバーやペダルロックなどの頑丈な錠によって動かせないように物理的に固定してしまうのです。普段使いでは毎回ロックを開錠するのがちょっと面倒ですが、車輛盗難の防止効果は期待できます。

また、先ほどの車両盗難ワーストランキングに入っている人気車種に乗っている方は、車両盗難にあう可能性も考え任意保険の車両保険にも加入しておくべきでしょう。盗難にあいやすいクルマは車両保険に入れないなどという噂もありますがそのようなことはありません。

確かに掛け金が割りだけなのはまちがいありませんが車両保険に加入できます。ただ、盗難に遭っても補償されない場合もあります。それは「盗難対象外特約」をつけている場合です。こういった特約を付けると、保険料が安くなる代わりに盗難による損害が補償対象外となってしまうので、必ず車両盗難が補償となっているかどうかは確認しておきましょう。

屋外駐車場はリスクが高い
普段の駐車環境にも気を付けよう

屋外駐車場はリスクが高い

またクルマの駐車環境にも気を付けてください。車両盗難にあったクルマの約7割が屋外の契約駐車場で管理されていたクルマだとされています。特に人目につきやすい屋外駐車場は車両窃盗犯から目を付けられやすく、また出入りが自由な駐車場であれば犯行の時間もかかないため非常に危険です。

可能であればクルマを一目から隠すことのできるシャッター付きの駐車場に変更するか、タワーパーキングなどでクルマを管理するなどということも検討してもいいかもしれません。出し入れが少し手間になるかもしれませんが、大切なマイカーを盗まれることを考えればそれくらいの手間がかかるくらいたいしたことないはずです。

自宅に駐車スペースがなく、どうしても屋外駐車場でクルマを管理しなくてはならないという場合は、タイヤロックなど見た目にインパクトのある防犯アイテムなどをこれ見よがしに使用するというのがいいかもしれません。窃盗犯など犯罪者はとにかく犯行の際に時間がかかりそうなターゲットや、騒音などで人目につくことを避けるのでそれなりの効果が期待できるでしょう。

さらに、タイヤロックと合わせて車内にはハンドルロックを装着しておくのもおすすめです。複数のロックがあれば犯行の時間がかかりその分犯罪者は嫌がります。完全に車両盗難を防げるというわけではありませんが被害の可能性が低くなるのは間違いないでしょう。

どんなに対策を講じていても
被害を100%防ぐことはできない

被害を100%防ぐことはできない

ただし、どんなに頑丈な盗難防止用のロックや高価なセキュリティシステムを導入していても、残念ながら車輛盗難を100%防ぐことはできません。ただ、ご紹介したいようないくつもの対策を施しておけば、金銭的な被害を最小限にとどめることができ、また盗まれにくくすることも可能です。

大切な愛車が盗まれた際のショックや金銭的な被害は甚大です。対策に多少費用はかかったとして、大切な愛車を守るためです、できる限りの対策は講じておきましょう。特に人気のランドクルーザーのオーナーは、これでもかというくらいの対策を実施しておくのが賢明です。ぜひこちらの記事を参考にいろいろ試してみてください。