クルマで夜間走行する際にはヘッドライトはロービームではなくハイビームを常用するべき。最近さかんにそのようなことが言われています。確かにそのほうが安全なのでしょう。でも、そうはいわれても、周囲への迷惑を考えると、ハイビームを安易には使えないですよね。

そんな使いたいけれど、使いにくいハイビーム、常用しなさいと言われてもどうすればいいのか? そんなジレンマを解決してくれるのが最新のクルマに搭載されている高機能なヘッドライトです。例えばアルファードに設定された「アダプティブハイビームシステム」がその代表です。

ハイビームを効果的に使用できる画期的なヘッドライトと言われているのですが、その実態を理解されているという方は多くはないのでは。ではいったいどのようなものなのか? すでにオプション設定されているならすぐにでも装着するべきか、それとも今はスルーが正解なのか? アルファードの購入を検討中であれば、オプション装着を迷っているという方もいると思います。そこで、そんなアダプティブハイビームシステムについて、その仕組みやメリットを分かりやすく説明します。

ヘッドライトはハイビームが基本
しかしそれが原因で過去にトラブルも…。

クルマのヘッドライトには切り替え可能なロービームとハイビームが備えられています。通常はレバーなどで切り替えて使いわけますが、おそらくほとんどの方が、夜間でもパッシング以外ではロービームで走行しているのではないでしょうか。もしかしたら、ハイビームを使ったことがない、という人もいるかもしれません。

しかし、実は道路運送車両法等ではヘッドライトはハイビームを使用するのが基本となっています。なぜならロービームの正式名称は「すれ違い用前照灯」。つまり、ロービームは対向車や前走車がいる場合にハイビームから切り替えて使用するというのが本来は正しいのです。しかし、その使い分けを正しくできている人は決して多くありません。

そして「走行用前照灯」これがハイビームの正式名称。つまりこちらが通常使用するライトなのです。ハイビームとロービームがどれくらい照射距離が違うのか? まずロービームが照射するのは前方40mです。

これに対してハイビームはその倍以上の前方100m先まで照らすこができます。クルマの走行スピードを考えると夜間でもより遠くまで視界を確保し、なおかつ歩行者や自転車に対して、自分の存在をアピールするには確かにハイビームは有効です。

しかし、むやみなハイビームの使用は当然ですが照らされるほうにしてみれば眩しくてたまりません。それは前走車や対向車だけでなく、歩行者や自転車も同じ。場合によってはその光で幻惑させてしまい、事故や転倒などのトラブルが起きる可能性もあります。

それに「ハイビームが眩しかったから」などというつまらない理由で暴力を振るわれた、などという事件も過去には起きています。そうなるとハイビームを使うべき! と言われても安易にハイビームを使用することにはためらいを覚えますよね。そもそも街灯の多い都会などではロービームでも十分視界が確保できるでしょう。そうなるとますますハイビームを使う機会は少なくなります。

しかし、ロービームの使用が常態化するということにはちょっと問題があります。灯りの少ない郊外や地方の道路は都会のように明るくありません。そのような道路でロービームの常用が習慣になっていたせいで、ハイビームに切り替えることなく運転するのは、視界が十分確保できず事故を起こしてしまうかもしれません。それは問題ですね。

ではどうすればいいのか? そのようなジレンマを解決するために、最近は自動車メーカーがヘッドライトに優れた技術を投入しています。そのひとつが、新型アルファードに投入された「アダプティブハイビームシステム」です。

オートマチックハイビームを
さらに高度に進化させた高度なハイビーム


(引用:トヨタ公式HP)

ハイビームを自動的に制御する機能として、最近のクルマの多くに搭載されているのがオートマチックハイビームです。一時テレビCMなどでも盛んにアピールされていたので使ったことはなくてもなんとなくどのようなものがご存じの方も多いでしょう。

その仕組みはいたってシンプル。先行車や対向車がいない場合にはハイビームで走行し、センサーやカメラが先行車や対向車のライトを認識すると、ヘッドライトの上下を自動的に切り替えロービームにしてくれるというもの。

そして再度センサーがハイビームを使える環境になったということを検知すると、ハイビームに切り替えてくれます。ようは手動で行っていたハイビームとロービームの切り替えをクルマが勝手にやってくれるというわけです。

そしてこのオートマチックハイビームをさらに進化させたのがアルファードに設定された、アダプティブハイビームシステム(Adaptive High-beam System/AHS)です。

このシステムが凄いのは、前走車や対向車の有無にかかわらず、常にハイビームで走行ができるということ。そして前走車や対向車がいることをカメラやセンサーが検知すると、ハイビームからロービームに切り替えるのではなく、眩しくないように緻密にヘッドライトの灯りを制御してくれるのです。

オートマチックハイビームの場合は、ハイとローを切り替えるだけ。もちろんそれだけでも十分便利ですが、それでは交通量の多い都会などでは多くのシーンでハイビームは使えません。真夜中でもない限り、対向車や前走車がいないということはまずないですから。

しかし、アダプティブハイビームシステムは常にハイビームを使用可能なのです。周囲のクルマに眩しさを感じさせずに、なおかつハイビームの遠くまで届く光で視界を確保してくれるというのです。ではそれはどのように行われているのでしょう。

ハイビームの配光の一部を遮光して
前走車や対向車ドライバーの幻惑を防ぐ

アダプティブハイビームシステムが搭載されたアルファードのヘッドライトは、ハイビームは1灯の光源ではなく、複数のLED光源で構成されています。この個々のLED光源を独立制御(例えば一部のLEDをOFFにするなど)することで配光を細かく、リアルタイムにコントロールすることが可能なのです。

もし前走車や対向車がいて、そのヘッドライトやテールランプを光検出用カメラが検知すると、ハイビームが照射している範囲のうち、そのクルマのいる部分だけに投光しないようにLEDの一部をコントロールします。言葉で説明すると分かりづらいですが図にしてみると以下のようになります。

●対向車がいる場合

このようにドライバーの前方は遠くまでしっかりとハイビームで照らし、対向車側はロービームのような配光にコントロール。

●前走車がいる場合

ハイビームでしっかりと遠方まで照らし視界を確保しつつ、前走車のいる部分だけはLEDをコントロールして照らさないようにします。

このようにハイビームとして照射するLED光源の一部分だけを独立制御することで、対向車や前走車のドライバーに眩惑を与えないように配光するのです。ハイビームの光源として、細かく制御できる複数のLEDを使用しているからこそこのようなことが可能なのですね。

このアダプティブハイビームシステムがあれば、ハイビームによって遠くまでしっかりと照らし視界を確保しつつ、他のドライバーには迷惑をかけることがありません。対向車が来るたびにロービームに切り替えるよりも確実に周囲の状況に素早く対応することができ、より安全なドライブができるというわけです。

アルファードの一部グレードに標準装備。
オプション装着も可能

このようにとてもメリットのあるシステムなのですが、高性能な光検出カメラや、リアルタイムの照射コントロールシステムなど、アダプティブハイビームシステムには非常に高度なハードウエアとソフトウエアが必要になります。そのためオートマチックハイビームよりもコストがかかるというのが大きな欠点です。そのためアルファードにも全てのグレードに標準搭載されているわけではありません。
標準で装備されているのはハイブリッド、ガソリンエンジン共にトップグレードといえるExecutive LoungeとExecutive Lounge Sのみです。 

他のグレードでは、ハイブリッドのG F パッケージとG、そしてSR C パッケージとSR。さらにガソリン車のGFとG、そしてSCとS C パッケージに3眼LEDヘッドランプなどとともにセットオプション(10万7000円~11万5560円)として設定されています。

人気の3眼LEDヘッドランプやLEDクリアランスランプ、流れるウインカーのシーケンシャルターンランプもセットとなっているとはいえ、なかなかな価格ですのでいざ装着しようと思っても迷うところですね。

ちなみに充実装備が魅力のアルファードですから先に紹介したハイビームとロービームを自動で切り替えてくれるオートマチックハイビームは全車標準装備(AHSがはじめからついているエグゼクティブラウンジ系を除く)です。

もちろんアダプティブハイビームシステムに比べれば機能的には少し見劣りしますが、従来のヘッドライトに比べれば十分安全ですし便利でもあります。どうしても3眼LEDヘッドランプや流れるウインカーなどが装着したいというのでなければ、アダプティブハイビームシステムをあきらめて(それでもオートマチックハイビームは搭載されていますから)、その分の予算を別のオプションに使うという選択もありかも知れません。