降雪地域にお住まいでない限り、あまり気にしたことがないかもしれませんが、クルマのカタログ、装備表の一覧ページに寒冷地仕様というオプション項目があるのをご存知でしょうか。これはおそらくどんなクルマにも設定されているはずです。

詳しくは知らなくても寒冷地仕様という言葉から、これがどのようなオプションを意味しているのかはなんとなくわかるでしょう。そう、寒い地域でクルマを使うに当たって役立つ装備をまとめたオプションのことです。

自分が住んでいる地域は北国でも降雪地でもないから関係ない、と思われているかもしれませんが、もしかしたらたまたま購入した中古車が寒冷地仕様かもしれません。また、今後あなたがいきなり転勤になり、北国にクルマごと引っ越さなくてはならない、なんてこともあり得ますよね。

それにウインタースポーツを楽しむ方なら住まいが降雪地域ではなくても寒冷地仕様をオプションとして選んでいたほうが良いかもしれません。

つまり、今は縁がないかもしれませんが、将来的に寒冷地仕様を選ばなくてはならない可能性もあるわけです。そこで、知っているようでその詳細は分からない、という方のために、「寒冷地仕様」にスポットをあてて、それがどのようなものなのか、またどんな便利な装備があるのかなど、詳しく紹介していきましょう。

オプションを選ぶことで寒さに負けない
特別な装備が装着される

まず、クルマの寒冷地仕様についてごく簡単に説明すると、気温が低い時にエンジン始動性や、暖房の効きやすさを高めたり、低温時でも快適にクルマを運転することができるような装備をまとめたオプション、そしてそのオプションが装備されたクルマのことです。

バッテリーやモーターなどの装備などが強化されているので見た目は下回りのカバー以外変わりはありません。また寒冷地仕様といっても車種によって細かくその装備内容は違っています。

では代表的な寒冷地仕様の装備にはどのようなものがあるか紹介します。それが以下です。

●大容量バッテリー

気温が場合、エンジンをスタートする際、スターターモーターを回すためにもより大きな力が必要となるのでバッテリーへの負荷が大きくなります。そのため寒冷地仕様車では多くの場合標準のバッテリーよりも大容量のバッテリーが装着されています。ただし、最近はアイドリングストップの標準化で、大容量バッテリーが必要とされるケースも増えているため、寒冷地仕様でもバッテリーは変わらないというものもあります。

●強化スターター

エンジンの始動性を高めるための、パワーのある強化型スターターモーター。

●大容量オルタネーター

ヒーターやスターター、大容量バッテリーなど、電気の使用量が増加に対応した強化型オルタネーター(発電機)。

●ヒーター付きドアミラー

ドアミラーの内側に熱線をプリントし、そこに電気を流すことで霜や露などをとりやすくしたミラーです。

●スタートアップ ヒーター

低温下でのクルマの暖房性能を向上させるためにの電気式ヒーター。ハイブリッドカーやEVなどははじめから電気式ヒーターが搭載されているので寒冷地仕様でも標準仕様と変わらない場合もあります。

●強化ワイパーモーター

通常よりもパワーの大きなワイパーモーター。降雪地では雪の重みでワイパーへの負荷が大きくなるため、装備されます。

●ワイパー ディアイサー

フロントガラスの下部に熱線を組み込み、ワイパーブレードがウインドシールドに凍り付いてしまった場合に熱戦で解氷する装備。

●寒冷地用のLLC濃度

低温時でも凍らないように、通常が30%に対して50%などより高い濃度にした冷却水(LLCロングライフクーラント)。

●エンジン アンダーカバー

ボディの下面に装備し、エンジンルーム内への雪の侵入を低減するカバー。

●リアフォグランプ

後続車に自車の存在アピールするための装備。降雪中は視界が極端に悪くなるので必須のアイテムです。

これらの装備が全ての寒冷地仕様車に装備されているわけではありません。特に大容量バッテリーや強化オルタネーターなどは、アイドリングストップなどのために標準でもともと十分な容量を持っているクルマが増えているので変更されていないという場合も少なくないようです。

そのほかにもウォッシャータンクが大容量化されていたり、融雪剤で腐食が発生しないように防錆アンダーコート処理がなされているものもあります。さらに、車内スペースの大きなミニバンなどでは、後席用のヒーターダクトなどが別途装備されているという寒冷地仕様車もあります。

オプションの料金は3~10万円
しかしその価値は十分にアリ!

このように寒冷地仕様は、基本的にはオプションとして追加する装備ですのでそれだけ価格も標準者よりもアップしてしまいます。その金額は車種によって変わってきますがだいたい、3万円から10万円ほどです。決して安くはありませんが、強化された内容を考えると妥当といえるでしょう。

できるだけ安くクルマを購入したいし、住んでいるのは降雪地じゃないから別に装着しなくていいや。とういう判断も正しいでしょう。LLCやウォッシャー液、ワイパーブレードなどは冬のシーズンのみ交換しておけばいいですし、バッテリーは日ごろからコンディションをチェックして上がらないように注意しておけばいいでしょう。

おそらく特に寒冷地仕様ではなくても、最近のクルマであれば冬場でも問題なく使用できるはずです。ただ、最近は異常気象のためか、関東や関西などの太平洋側でもいきなり豪雪となることも珍しくありません。また極端な低温というのもありえます。

そんな時、クルマが寒冷地仕様であれば安心度は間違いなく高まります。また、普段からウインタースポーツを楽しんでいるという方や、帰省などで降雪地域にドライブする機会があるという方は、万が一のことを考えて寒冷地仕様車にしておくと良いかもしれません。

ただ、車種によっては10万円近いオプションとなってしまうので、その負担は小さくありません。実際の愛車の使用状況を考えた上で冷静に判断してください。

では、オプション代金を負担して寒冷地仕様にするとその分リセール時にはそれがプラス材料になるのか?残念ながらほとんどプラスにはならないようです。そのため、中古車の場合寒冷地仕様であったからと言って特に車両価格にも反映されていません。

ちょっと残念ですが、中古車を購入する側に立つと、標準車と同等の価格で寒冷地仕様車が手に入るということですから逆の立場ならその分お得と言えるかもしれません。

寒冷地仕様にすることでの
デメリットはあるのか?

では、寒冷地仕様車にすることでオプション料金分負担が増えることのほか、何かデメリットはあるのでしょうか?まず大容量バッテリーが装備されている場合は、交換時にバッテリー代が少し高くなるというのはちょっとしたデメリットと言えるかも知れません。

他にはどんなことがあるでしょう。ネットを検索してみると一部のサイトでは寒冷地仕様は暑さに弱くオーバーヒートの可能性がある、というのがありました。しかし筆者はこれについてはちょっと疑問があります。なぜならそういったサイトでは、寒冷地仕様だと、なぜ暑さに弱いのかキチンと説明されていなかったからです。

確かに昔の寒冷地仕様車の中には、低温対策として、あえて容量の小さなラジエーターが装着されていたという例もあったようですが、いまどきのクルマではそのようなことはありません。さらに 最近のクルマは暑さに対しても十分な対策がほどこされているので、簡単にオーバーヒートするようなことはない。特に国産車ならその心配はまずありませんので安心してください

そもそも、大容量バッテリーや強化スターターによる始動性のアップに、ヒーターやワイパーなどの強化、融雪剤の影響を抑えるアンダーコートなど、その内容を見ると特に夏にデメリットとなる要素があるようには思えません。

バッテリーやオルタネーターが強化されていれば、むしろ夏場、冷房の使い過ぎによるバッテリー上がるといった配がないのですからメリットの方が大きいでしょう。そう考えると費用の事以外で寒冷地仕様車にデメリットはほとんどない、といっていいと思います。

夏場はLLCの濃度に関して
少し注意が必要

ただ、デメリットではありませんが、唯一LLCの濃度に関しては、ちょっとだけ注意が必要かもしれません。

LLCとはラジエーターに入れられる冷却水のことですが、その主成分は水とエチレングリコールでできています。このエチレングリコールは低温時の凍結防止や、消泡、ラジエーター内の腐食防止効果があるため使われているのですが、通常の冷却水としてつかわれる場合、その濃度は30%程度が適切とされています。

しかし、寒冷地仕様の場合、気温が極端に低下した状態でも冷却水が凍結しないように、あらかじめ50%ほどまで濃度に高められたものが入れられています。

だからこそ雪国でも問題なくクルマを走らせることができるのですが、エチレングリコールは比熱が水の半分程度しかありません。そのため濃度が高まるほど冷却能力は低下してしまうのです。水温も通常の濃度のLLCよりも高くなってしまう可能性があります。

とはいえ、東北から東京にドライブにきたら、いきなりオーバーヒートしてしまった、などという話は聞きませんよね。よほどの高温や、真夏の渋滞に長時間巻き込まれるなどということがない限り、オーバーヒートに悩まされることはまずないでしょう。でも、念のため、寒冷地仕様車は夏場はLLCを交換して濃度を30%程度にしておくと安心かもしれません。