2019年9月17日、トヨタはカローラセダンとカローラツーリング(ステーションワゴン)を新型へとフルモデルチェンジしました。今の時代4ドアセダンとステーションワゴンがどれだけ売れるのか?などと不安もささやかれましたが、蓋を開ければ予想を超える大ヒット。
発売直後の2019年10月登録台数ランキングで1位を獲得しています。これはセダンとワゴン、ハッチバックのツーリングをすべて合計したものとはいえ大きなニュースです。そして、注目すべきがステーションワゴンのカローラツーリングの人気が圧倒的ということ。なぜ絶滅危惧種ともいわれているステーションワゴンがこれほどの人気を集めたのか。それほどに魅力的な一台なのでしょうか。新しいカローラツーリングは先代と何が違うのか、圧倒的な人気を誇る秘密は何なのか?その理由を探ってみました。
目次
売れたカローラの6割以上が
ステーションワゴンのカローラツーリング
(引用:トヨタ公式HP)
トヨタが発表では新型カローラとカローラツーリングの受注状況は、9月17日の発売から1カ月で約1万9,000台となったそうです。さらに、一部改良を行ったカローラスポーツも3,000台を受注し、合わせて約2万2,000台という予想を超える好調な立ち上がりとなったとのこと。
「国民車のカローラならそれくらいは当然だろう!」などと古くからのクルマ好きなら思うかもしれません。しかし、カローラが国民車だったのはずいぶん前のこと。なぜなら、現在国内市場では、SUV、ミニバン、軽自動車がランキングの上位を独占していて、昔からのボディタイプである4ドアセダンや、ステーションワゴンの人気は大きく現在では下降しているからです。
そんな中でのこの販売台数ですからこれは驚くべきことなのです。カローラはここ10年ミニバン、SUV、ハイブリッドカーなどの人気におされ長らく販売台数1位を獲得することができていませんでした。それが約11年ぶりに販売台数ランキングトップを獲得したのです。ちなみにトヨタが当初掲げていた新型カローラの月販目標台数は合計9,400台。つまり軽く倍の台数を受注したというわけです。
そして発売一か月で受注された2万2,000台のカローラのうち、なんと6割以上がステーションワゴンのカローラツーリング。これは圧倒的な人気といっていいでしょう。
しかし、これって意外ではないでしょうか。ステーションワゴンは日本市場においてはすでに過去のものとなりつつあります。それなのにカローラにおいてはステーションワゴンが一番人気というのですから実に不思議ですよね。
ステーションワゴンの
人気が低迷したわけとは
そもそもかつて大人気を博したステーションワゴンの人気が低迷したのはなぜなのでしょう。日本において、ステーションワゴンの人気に火が付いたきっかけは1990年代にスバルのレガシィの登場です。
ステーションワゴンはクルマの基本形ともいえる4ドアセダンをベースに、ルーフをボディ後端まで伸ばし室内空間とあわせた大きな荷室スペースを確保したというクルマ。走りはセダンに匹敵し、荷物もたくさん積める。合理的で、とても便利な存在でしたが、レガシィ以前のステーションワゴンは、非常に事務的で、貨物車であるライトバンを乗用車風にしただけのものがほとんどでした。
しかし、レガシィはヨーロッパ車のようなスタイリッシュなデザインと、ターボエンジンによる圧倒的なパフォーマンス、さらに優れた4WDシステムによる安定した走行性能を持ち、それまでの日本車にはない上質なステーションワゴンとして大きな注目を浴び、大ヒットを記録したのです。これをきっかけに各社が趣味性の高いステーションワゴンを続々と投入、一大ブームとなりました。
しかし、その後クルマのタイプが多様化するようになると、室内空間の広さならミニバン、経済性ならハイブリッドカーや軽自動車、アウトドアの足としてなら荷物も積めて走破性に優れたSUVなどと、徐々に他のクルマへと人気が移り荷室の広さと走りの良さで売っていたステーションワゴンが中途半端な存在となったことで、その人気が低迷してしまったのです。
そして、気が付けば各社のラインナップを見てもステーションワゴン自体の設定は数えるほどしかありません。5ナンバーモデルに限って言えば先代のカローラフィールダーとホンダのシャトルくらいです。そのような背景があるのに、カローラツーリングがなぜ売れているのか、それは従来のカローラの殻を破った大胆なモデルチェンジにあります。
3ナンバー専用ボディ採用で
ダイナミックなフォルムを実現
(引用:トヨタ公式HP)
新型カローラが登場した際に自動車関係者の間で大きな話題になったのが全車3ナンバーボディとなったことです。長い歴史を持ち、トヨタ車における基本形ともいえるカローラ(国内向け)は、いわば国産車のベンチマークでした。ライバルが3ナンバー化を進めても、頑なに日本のローカル規格5ナンバーサイズを守り、5ナンバーサイズに価値を見出してきた多くのユーザーから評価されてきたのです。
そんな5ナンバー最後の砦ともいうべきカローラが、あっさりそのアイデンティティを捨て、3ナンバー化してしまったのです。自動車業界にとっては衝撃的な出来事でした。
とはいえ3ナンバー化はむしろ必然だったといえるでしょう。むしろ先代までは無理やり5ナンバーに収めていたといっていい。従来モデルはコンパクトカーのヴィッツと共通のプラットフォームを使いなんとか5ナンバーボディを成立させてきました。しかし、そのせいで走行安定性や乗り心地は、ライバルに差をつけられており、デザイン的にも窮屈感のあるものとなっていたのです。もはやカローラが5ナンバーをキープすることは限界だったのですね。
それに、海外仕様はすでに3ナンバー化されていました。国内向けカローラだけ5ナンバーを維持してきたのですが、わざわざプラットフォームを分けるのは合理的ではありません。そこで国内仕様でも現行のプリウスから採用されたTNGA(Toyota New Global Architecture/プラットフォームを根幹とした次世代の車両作りの開発方針&開発システム)によって開発された3ナンバーサイズのプラットフォームを使うことになったのです。
これによって操縦安定性や乗り心地、静粛性が大きく向上しました。また5ナンバーという制約がなくなったことで、そのデザインがダイナミックでスタイリッシュになったことは間違いありません。
今までは無理やり5ナンバーに収めるために特にボディサイドが平面的なデザインになりがちで、窮屈な印象がありましたが、新型のカローラツーリングは印象が大きく変わっています。ステーションワゴンでありながら、クーペのように後方に向かってルーフラインが滑らかな弧を描き、ワイド感も強調され非常にダイナミックでスポーティな印象となっています。
単純に先代カローラフィールダーよりも格好が良いです。ヒットした理由付けはいろいろできますが、やはり、このワイドなボディを活かしたダイナミックなデザインの良さが一番のセールスポイントとなったのではないでしょうか。
3ナンバーとなったけれど
意外にちょうどよいサイズ感も魅力
でも3ナンバー化がなぜそれほどネガティブにとらえられなかったのか。実は3ナンバー化されたといいつつもカローラツーリングのサイズは全長4,495㎜×全幅1,745㎜×全高1,460mmと決して大きくはありません。幅でこそ3ナンバーですが、十分手ごろなサイズに収まっています。立体的なフォルムによって大きく見えますが、非常に使い勝手の良いコンパクトさがちゃんとキープされているのです。
これなら先代のカローラフィールダーオーナーも違和感もないはず。最小回転半径も5.0m(15インチタイヤ装着車)と、先代フィールダーの4.9mよりわずかに10㎝大きいだけで小回りもききます。狭めの駐車場でも取り回しに困ることはないでしょう。5ナンバーサイズじゃないとうちの駐車場に入らない!などという一部の方以外にはワイド化もさほどネガティブな要素になっていないのです。
搭載されるパワーユニットは1.8LNAガソリンと1.2Lの直噴ターボ、そして1.8L+モーターのハイブリッドが設定されています。先代にあった経済性の高い1.5LのNAエンジンはありませんが、どれもパワーは十分で拡大したボディにあった上質な走りが味わえるはず。
さらに1.2Lターボには6速MTも用意されているというのもうれしいですね。トレッドがワイド化された新しいプラットフォームによって操縦安定性も向上しているのでハンドリングを楽しむこともできるでしょう。
そして、当然ですが、最新のクルマなので緊急自動ブレーキや、運転支援機能、サイド&カーテンエアバッグなども標準装着されており、最新のコネクテッドシステムも搭載しています。
価格に関しては201万3,000円~と、164万1,600円~だった先代のカローラフィールダーに比べると割高に見えますが比べてみるとそうでもありません。設定されるパワーユニットが同じ1.8LNAエンジン搭載のグレード「1.8S」どうしで比べると、カローラフィールダーが222万480円なのに対してカローラツーリングは221万6,500円です。ほぼ一緒、むしろ安い。さらにライバルのステーションワゴンに比べても、むしろ車格や装備を考えれば大幅に割安となっています。
5ナンバーサイズではありませんが「扱いやすいサイズで、手ごろな価格のステーションワゴンが欲しい!」という方にとってはまさに理想的なクルマとなっているのです。それに何といってもダイナミックなフォルムを採用したデザインがとにかく格好良い。そういった点も大きなアピールポイントとなり、メーカーの予想を超える大ヒットにつながったのではないでしょうか。
車体は拡大したが実は
室内スペースは広くなっていない!?
(引用:トヨタ公式HP)
このようにステーションワゴンファンにとっても、カローラ好きにとっても非常に魅力的なカローラツーリングですが一つ気を付けなくてはいけないことがあります。それは後席のスペースや荷室の広さが先代のカローラフィールダーよりもわずかに狭くなっているということ。
車体サイズは幅が+50㎜ワイド化され、全長も85㎜程長くなっているのでその分広くなったのでは?と思っている方も少なくないと思いますが、実は意外にもちょっと狭くなっているのです。
従来のカローラフィールダーはシンプルな箱型のボディ形状だったのでスペース効率的に優れていたのですが、カローラツーリングは立体的な丸みを帯びたボディラインを採用しています。そのためスタイリッシュになった分室内スペースが多少犠牲になっているのです。カローラツーリングには、カローラフィールダーに設定されてた社用車仕様ともいうべきビジネスグレードが用意されていないのもそれが理由なのかもしれません。
とはいえファミリーカーとして使用するには十分快適なスペースが用意されていますし、インテリアの質感も向上しています。荷室容量も392L(カローラフィールダーは407L)と不足ないスペースが確保されているので、広さで不満を感じることはまずないはずです。もし、新しいカローラツーリングに広さを期待している方は、リース契約を結ぶ前や、購入前に後席の広さや荷室のスペースを確認した方が良いかもしれません。
先代カローラフィールダーも
実はカタログに残っている
(引用:トヨタ公式HP)
比べてみて、もし前のカローラフィールダーのほうが広くて良かったかも、と感じたとしたらどうすればいいか。実はその辺トヨタですから抜かりありません。先代にあたるカローラフィールダーもグレードは整理されましたがちゃんとカタログに残っています。おそらくビジネスユースには従来のカローラフィールダーのほうが適していると判断してトヨタも残したのでしょう。ハイブリッドグレードも用意されているのであえてそちらを選ぶというのも選択肢としてはあるかもしれません。
とはいえ、ステーションワゴンにとって広さは確かに重要ですが、デザインのクオリティや走りの質感、そして優れたコストパフォーマンスを考えればやはりカローラツーリングのほうが上なのは間違いありません。そして多くの方がそのように考えたことが、このカローラツーリングのヒットにつながったのではないかと筆者は思います。皆さんも自分の目でぜひ確かめてみてください。