FIT(フィット)といえば、ホンダのベストセラーコンパクトカーです。上質なデザインにセンタータンクレイアウトによるコンパクトカーとは思えないほど広々とした室内を持ち、経済性の高いハイブリッドモデルもラインナップ。非常に完成度の高いコンパクトカーとして長年ホンダを支えてきました。

しかし、現行モデルの4代目FITは、そのアクのない柔らかなデザインのせいか、以前ほどの存在感がありません。コンパクトカーの優等生であるのは間違いないのですが、ホンダの主力車種というポジションは正直軽自動車のN-BOXに譲ってしまったかのような感があります。

しかし、そんなFITが2022年10月にビッグマイナーチェンジを実施しました。パワーユニットが一新され、デザインも変わり、なおかつ待望のスポーティグレード「RS」もついにラインナップに加わりました。このビッグマイナーチェンジで以前のような人気を取り戻すことができるのか、詳しくチェックしてみましょう。

初代FITは年間販売台数ランキングで
トヨタのカローラを破り第一位を獲得

初代FIT年間販売台数ランキング第一位を獲得
(引用:ホンダ公式HP)

2001年6月、初代FITが登場した当時、それまでのコンパクトカーとは一線を画す優れた機能と合理的なパッケージング、低燃費性能と質感の高いデザインで大ヒットとなりました。その月販目標は8000台だったのが発表から1カ月の受注台数はおよそ6倍の48000台を記録。そして、その年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、一気にホンダを代表する一台になったのです。

そして、デビューからおよそ半年で累計販売台数10万台を達成。さらに、デビューから1年未満で累計販売台数20万台を達成するなど当時の最短記録を樹立しました。

その結果33年連続でトップを守り続けたトヨタのカローラを抜き、登録車の販売台数ランキング年間1位を獲得するという偉業も達成。国産コンパクトカーを代表する一台にまで上り詰めたのです。

以後、モデルチェンジを重ねてきましたが、常にホンダの持つ最先端のテクノロジーがいち早く投入され、燃費性能でもクラストップ、優れたパッケージングで実用性も高いということから歴代ベストセラーコンパクトカーとして、幅広い層から支持を集めてきたのです。

そんなFITの現行モデルが4代目FITです。登場は、2020年。それまでのFITからがらりとイメージチェンジを図った、ソフトな印象の上質なデザインを持つ新世代のFITです。そんな4代目FITが先日、2022年10月6日、従来のイメージを大きく変更するビッグマイナーチェンジを実施しました。

4代目FITは、クルマとしての評価は高いのですが過去のモデルに比べるとその人気は少し物足りない部分もありました。それでこのビッグマイナーチェンジによってどう変わったのでしょうか。細かく見てみましょう。

上品でソフトな印象の
フロントフェイスが不人気の原因?

FITフロントフェイスが不人気の原因
(引用:ホンダ公式HP)

現行型の4代目FITは、歴代モデルに比べるとちょっと存在感が薄いといわれていています。その理由は、丸みを帯びてソフトな印象のスタイルと、親しみやすい小型犬のようなやさしげな顔にあります。まとまりも良く決して悪いデザインではないのですが、歴代FITに比べるとインパクトがなく、シャープさやスポーティさも正直ありません。

ベーシックなコンパクトカーですので、変に目立たず上品さもあって決して悪くはありません。でも、販売台数が物足りないということは人気という意味ではあまりなかったのでしょう。特にフロントグリルがポイントです。グリルレスデザインを再用したのです。過去にも果敢にグリルレスに挑戦したクルマはありましたがどれも大ヒットとはなっていません。表情が柔らかくなる代わりにインパクトがなくなり印象が薄くなってしまうのはあまり受け入れられないのでしょう。

FITも4代目でそんなグリルレスデザインに挑戦(正確にはグリルはありますが開口部が小さくグリルがないように見える)しましたが、やはりグリルレスのクルマは売れないというセオリー通り、ヒットにはなりませんでした。

そんなことからFITがいつフロントグリルを取り入れるのか、というのは興味あるところだったのですが、さて今回のマイナーチェンジではどうなったのでしょう。画像で確認してもらうとわかりますが、大きくデザインは変わっていません。しかし、ぱっと見の印象は確かに新しくなっています。

その理由はやっぱりフロントグリルです。マイチェン前のFITよりも開口部が少し大きくなっているのに加えて、オデコのようだった段がなくなってすっきりしています。たったそれだけなのにかなり印象が変わっています。

さらに「ホーム」と「リュクス」グレードには開口部の上部にメッキ加飾のラインを水平に通すことで、より端正で高品質なデザインへと進化させています。スポーティさやインパクトはさほどありませんが、マイチェン前よりもシャープに見えます。

さらに、新たに加わったスポーティグレード「RS」には明確なメッシュグリルが装着されていて、大きなバンパーの開口部と相まって新型FITとは思えないほど(失礼)スポーティな印象を強めています。これなら以前の犬顔FITがイマイチ好きになれなかった、という方にももしかしたら刺さるのではないでしょうか。

NESSグレードが廃止となり
ホンダ車伝統のRSグレードが加わった

ホンダ車伝統のRSグレードが加わったFIT
(引用:ホンダ公式HP)

グレードとしてはマイチェン前に設定されていたスポーティグレードの「NESS」が廃止となり、ホンダのスポーツグレードの伝統である「RS」が新たに追加となっています。他にはBASIC、HOME、LUXE、CROSSTARがあり全部で5タイプのラインナップとなりました。

BASICとHOME、LUXEは従来型よりも前述したようにフロント周りのデザイン変更により端正な新デザインとなっています。また、CROSSTAR はよりクロスオーバーらしさを強調したデザインとなりました。グレードごとの特徴は以下の通りです。

■BASIC(ベーシック):シンプルで自分らしさが光る基本のタイプ
■HOME(ホーム):生活になじむデザインと快適性を備えたタイプ
■LUXE(リュクス):洗練と上質を兼ね備えたスタイリッシュなタイプ

上記の3タイプでは、フロントノーズをすっきり見えるように形状を変更、アッパーグリルの位置を上げ、HOME/LUXEはその上部にメッキ加飾のラインを水平に通すことで、より端正なデザインに進化しています。

■CROSSTAR(クロスター):週末に出かけたくなるアクティブライフに応えるタイプ

CROSSTAR専用エクステリアとなるフロント、サイド、リアのガーニッシュをシルバー色に変更。タフギアらしいデザインにすることで、よりクロスオーバーらしさを強調しています。

■RS:デザイン、走りの質にさらにこだわったタイプ

新たに加わったスポーティグレードで専用のフロントグリル、フロントバンパー、サイドシルガーニッシュ、リアバンパー、リアスポイラー、アルミホイールの採用でスポーティさを強調することで、走りのこだわりにも応えるクルマとなっています。また、RSにはガソリンモデルも設定されています。

パワーユニットが大きく進化
ガソリンエンジンは1.3Lから1.5Lに

FITパワーユニットが大きく進化
(引用:ホンダ公式HP)

デザインがブラッシュアップされただけでなく、パワーユニットも大きく変わりました。まず、ガソリンエンジン車の排気量が1.3Lから1.5Lに拡大されています。

新しいエンジンは1.5L DOHC i-VTECで、スペックも大きく向上しています。マイナーチェンジ前の1.3Lガソリンエンジンのスペックは最公出力が98ps/12.0kgmで最大トルクは119N·m (12.1kgf·m)そしてWLTCモード燃費が19.4~20.4km/L(FF)というものでした。

それが、マイナーチェンジ後の新しい1.5L DOHC i-VTECエンジンでは、最高出力が118ps/14.5kgmとなり最大トルクが142N・m(14 . 5kgf・m)へとパワーアップ。そしてWLTCモード燃費が17.6~18.7km/L(FF)となっています。

排気量の余裕が増した分、特にトルクが厚くなり、低速域から高速域までトルクフルな力強い走りが味わえるはずです。街乗りから高速走行まで、さまざまなシーンでゆとりある走りを楽しむことができるでしょう。

また、ハイブリッドに関してもモーターの出力が14PSアップして123PSへと向上しています。ホンダのハイブリッドe:HEVは、基本エンジンは発電を行い、走行はモーターのパワーで行います。

123PSのパワーに、253 N・m(25 . 8 kgf・m)のトルクを発揮するモーターですから、低速域ではアクセルを軽く踏み込んだ瞬間からほぼ電気自動車のような力強さと、モーターならではの振動も騒音もなないスムーズに走り出しが味わえるでしょう。加速力に関しても1.5Lガソリンエンジン以上のはずです。

e:HEV 車のWLTCモード燃費は、マイナーチェンジ前が27.2~29.4km/Lだったのに対して、マイナーチェンジ後は27.1~30.2km/Lとなっています。パフォーマンスが向上しながら燃費もアップしているというわけです。このようにパフォーマンス面でも新型FITは大きく魅力を向上しているということがわかります。

デザインやパフォーマンスだけでなく
安全装備もさらに向上

FITデザインやパフォーマンスだけでなく安全装備もさらに向上
(引用:ホンダ公式HP)

マイナーチェンジでエクステリアやパワーユニットが大きく変わりましたが先進安全装備も進化しています。>安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダセンシング)」を全グレードに標準装備となっているのは従来通りですが、新機能が追加となっています。

従来のHonda SENSING機能に加えて、トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)、急アクセル抑制機能が新たに標準設定されています。さらに、ブラインドスポットインフォメーション、後退出庫サポートも新たに追加。これはタイプ別の設定としています。安全運転支援システムとしては、まとめると以下のような様々な機能が搭載されています。

  1. 衝突軽減ブレーキ<CMBS>
  2. 誤発進抑制機能
  3. 後方誤発進抑制機能
  4. 近距離衝突軽減ブレーキ
  5. 歩行者事故低減ステアリング
  6. 路外逸脱抑制機能
  7. 渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール<ACC>
  8. 車線維持支援システム<LKAS>
  9. 先行車発進お知らせ機能
  10. 標識認識機能
  11. オートハイビーム
  12. ブラインドスポットインフォメーション
  13. トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)
  14. 急アクセル抑制機能
  15. パーキングセンサーシステム
  16. 後退出庫サポート

e:HEVモデルのBASICは価格据え置き
他のグレードは価格がわずかにアップ

e:HEVモデルのBASICは価格据え置き
(引用:ホンダ公式HP)

ビッグマイナーチェンジで大幅なテコ入れがされたとなると気になるのは価格でしょう。まずガソリン車ですが、こちらはBASICが159万円2,800円(FF)、HOME(FF)が182万6,000円、CROSSTAR(FF)が207万円2,400円、LUXEが214万9,400円となっています。

やはりコロナや円安の影響もあって価格アップしていますが、計算すると、ガソリン車の値上げ幅は、BASICで3万5,200円のアップ、HOMEで5万8,300円のアップ、CROSSTARで13万4,200円のアップ、LUXEで7万2,600円のアップとなります。

ハイブリッドのe:HEVモデルでは、BASIC(FF)が199万7,600円でHOME(FF)が217万5,800円、さらにCROSSTAR(FF)が242万2,200円でLUXE(FF)が249万9,200円という設定です。

こちらのe:HEVモデルはマイチェン前と比較すると、BASICは価格据え置きですが、HOMEは5万8300円のアップでCROSSTARが13万4200円のアップ。さらに、LUXEが7万2600円のアップということになります。

新たに加わったRSの価格はガソリン車が195万9,100円(FF)でe:HEVモデルは234万6,300円(FF)となっています。直接比較できませんが、マイチェン前にあったスポーティグレードのNESSの価格はガソリン車が187万7,700円(FF)でe:HEVモデルは222万7,500円でした。

どちらも12万円ほどRSのほうが高いということになります。ただし、同じグレードではなくRSはNESS以上にベースとなっているグレードよりも差別化されているので決して割高ではないでしょう。

なんといってもRSは先代モデルには設定があり、新型の4代目でも登場が期待されていた待望のグレードですから、この設定価格もRSファンは十分納得でしょう。ただ、せっかくのスポーツグレードなのにMT車が設定されていないというのだけがちょっと残念ですが。

ライバルのヤリスやノートと比較しても
新しいFITは十分魅力的なクルマへと進化

新しいFITは十分魅力的なクルマへと進化
(引用:ホンダ公式HP)

新型FITは今回のマイナーチェンジによってかなり魅力が増したといえるのではないでしょうか。親しみやすい犬顔だったマイチェン前も決して悪くはありませんでしたが、シャープさがあって、存在感も増した新しいFITのほうが好きだという方のほうがきっと多いのではないでしょうか。

またホンダ伝統のスポーティグレード、「RS」が加わったというのも注目すべきトピックでしょう。トヨタのヤリスや日産のノートの比べるとイマイチ存在感の無かったFITですが、これで人気も回復して、きっと起死回生になるのではないでしょうか。画像でみるよりも印象が大きく変わったFITは是非、ディーラーなどで実車を確認してみてはいかがでしょう。一見の価値はきっとあるはずです。