クルマのボディの補修方法の一つ「デントリペア」をご存じでしょうか。ボディにできてしまったヘコミを板金塗装ではなく、専用の工具を使って押し出して修理するというものです。
板金塗装よりも手軽で、塗装に傷をつけることもなく、なおかつ費用もあまり掛からないということから、非常に合理的でとても経済的なリペア方法だと最近自動車業界で注目を集めています。
でも、どんなヘコミでも対応できるわけではなく、また樹脂製のパーツはリペアができないなどといったデメリットもあるといいます。
そんなデントリペアについて、実際どのようなものなのか。どんなヘコミなら修正できるのか、対応できないヘコミや、修正が困難なパーツなどはあるのか、などついて調べてみました。
目次
気が付かないうちにできてしまった
ボディのヘコミはどう直す?
どんなに慎重にクルマを使っていても、いつの間にかにボディに小さなヘコミができてしまうことがあります。おそらく隣に駐車したクルマがドアを開けた際に接触しまったか、または自転車や歩行者が不注意でクルマにぶつかってしまったのかもしれません。走行中にほかのクルマが跳ね上げた飛び石があってしまったということもあるでしょう。
そのようなクルマのボディにヘコミができてしまった場合、あなたはどうしますか? 塗装がはがれて鉄板がむき出しになっていないのなら気にせずに放っておきますか? それとも小さな傷でもすぐに修理を依頼しますか? またはDIYで修理を試みるという方もいるかもしれません。
とにかく元の通りきれいに補修したいとなれば、通常は板金塗装を頼むことになるのではないでしょうか。
でも、板金塗装はとても手間がかかるもの。余計なパーツを外してからヘコんでしまった部分の塗装をはがし、下地を調整して、パテで埋め、さらに平らに研磨してから再度塗装を施すといったプロセスが必要です。
そのため、時間もかかりますし、費用だってばかになりません。小さなヘコミや傷でも一カ所の補修でだいたい3万5000円~5万円くらいはかかるでしょう。塗料の種類やダメージの深さによってはもっとかかることもあります。
いざ板金塗装の見積もり取ってみたら想定外の費用が提示されて、だったらヘコミなんて見ないふりをしてしばらく放っておいてもいいかな…。なんてことを考えてしまう人もいるでしょう。
でも、板金修理ではなく、もっと手軽で時間もかからず、さらに費用も安い補修方法があります。それが「デントリペア」です。
「デントリペア」は正式には「ペイントレスデントリペア・ペイントレスデントリムーバル」(Paintless Dent Repair/Removal)といい、言葉の意味は「塗装をしないヘコミ修理」となります。
ようするに、塗装をはがしてからヘコミの修理を行う板金塗装と違って、元の塗装をそのまま生かしつつヘコミを修理する補修・修理方法というものです。
この「デントリペア」の発祥はヨーロッパで、雹(ひょう)害車のヘコミ修理に最適な方法として開発されました。それが進化を遂げて日本にも導入されたというものです。
ちなみにアメリカでは「デントリペア」の世界大会が開かれるほど普及しており、技術者資格などの制度もしっかりと確立されています。それぐらい定番の補修・修理の技術になっているのです。
デントリペアはどのようにして
ヘコんでしまったパネル直すのか
では「デントリペア」の補修・修理方法とはどういったものなのか。それはとてもシンプルで、ヘコんでしまったボディパネルの裏から特殊な専用工具で押しあてて、出っ張った方に少しずつ圧力をかけながら押し出して元の状態に戻すというもの。
ボディの裏側に工具を差し込むためにパーツの取り外しなどは多少必要ですが、板金塗装のように分解や塗装剥がし、パテ埋めや研磨などといった手間や時間のかかる作業は不要です。
そのため、オリジナルの塗装を傷つけずに直すことが可能です。といっても、塗装に割れや欠けなどがないことが前提ですが。もし塗装に割れや欠け、剥がれなどがあった場合は「デントリペア」では直せません。その場合は板金塗装が必要です。
ただ、デントリペアによる補修や修理で対応できるヘコミなら、板金塗装によるパテ整形・再塗装が不要なので塗料やパテの乾燥等の時間のかかる工程を大幅に削減することができます。そのため、とにかく短時間かつ低価格な修理が可能です。これは画期的でしょう。板金塗装なら数日かかるようなヘコミでもデントリペアなら30分~2時間で済むのです。
費用に関しても業者によっても違ってきますがおよそ板金塗装の1/4程度です。圧倒的に安く済ませることが可能です。ただし、デントリペアで対応できるのはあくまでも「小さなヘコミ」です。大きなヘコミや塗装にダメージのある傷、さらに大破したボディなどはさすがに無理です。そういった場合は板金塗装が必要です。
例えば、最近被害の多い雹(ひょう)害ですが、雹によってヘコミができたボディを修復するなどにはとても適しています。ヘコミの数が大ければもちろん費用もそれなりにかかりますが、板金塗装よりも時間はかかりませんし、元の塗装がそのまま生かせるのは大きなメリットといえるでしょう。
デントリペアには
そのほかにどんなメリットがある?
デントリペアのメリットをまとめてみると以下のようになります。
●元の塗装をそのまま生かしつつ、元通りの状態に近い補修・修理が可能なこと
●再塗装が不要なので他の部分と色が合わないといった心配がない
●板金塗装のように補修が残らないので、下取りの際にも減額されることがない
●通常は交換が必要なルーフパネルなどのヘコミもパーツ交換なく修理ができる。そのため、事故・修復歴も付かない
●補修の工程が少なく修理の時間が短くて済む
●塗料やパテなどをつかわないので有害な有機溶剤やパテの粉塵が出ず自然環境にも優しい
●基本専用工具だけで作業ができるので、塗料やパテなどの修理に必要な材料や設備がいらない。そのため費用が安く済む
この中で特に注目すべきメリットは「元の塗装をそのまま生かす」ということと「修理時間が短い」、そして「費用が安く済む」ということでしょう。
これぐらいなら板金塗装に出すほどのヘコミではないかな…。とか、板金に出すと時間がかかるし車がつかえなくなるのは困るな、といったケースでもデントリペアなら気軽に依頼できるでしょう。これはとてもメリットのある補修技術ではないでしょうか。
最近は正規ディーラーやカー用品店など、対応してくれるショップも増えているので、前から気になっていたけど塗装にダメージがないから放っておいた、というヘコミがあるなら一度見積もりをしてみてはいかがでしょうか。
このようにメリットの多いデントリペアですが、メリットがあればもちろんデメリットもあります。
デントリペアのデメリットとは
対応できないヘコミや傷があるということ
一方デメリットとはどんなことがあるでしょう。考えられることとしては以下のようなものがあります。
●プレスラインやパネルの端、コーナー部分など修理できない場所や直せないヘコミがある
●大きくヘコんでいるなど、パネルが限界以上に延びたものはキレイに直らない
●バンパーなどの樹脂製パーツのヘコミもキレイに直らない
●キズや欠け、割れ、はがれといった塗装の傷はそのまま残ってしまう
●依頼する業者(技術者)のレベルによって仕上がりに差がつきやすい
●デントリペアの専用工具が入らない位置の深く鋭いヘコミは直せない
このようにデントリペアは、塗装にダメージのない比較的小さなヘコミや、飛び石や雹害などのヘコミを直すのにはとても向いていますが、パネルの端、エッジ部分やパネルが折り重なったヘッドライト、タイヤハウスのすき間、給油口などといった、専用の工具を差し入れることがむつかしいポイントは修理が難しいと考えていいでしょう。
ただし、上記のような場合は直せないことがありますが、絶対に無理というわけではなく、ショップの技術レベルや条件次第ではキレイに直せるケースもあるようです。
大きな破損や車のボディ全部にわたったダメージには対応できないというもデメリットかもしれません。基本は塗装に傷やダメージのない小さなヘコミの補修や修理に適した技術を考えれば間違いありません。
板金塗装修理などと比較した場合に、対応可能なヘコミこそ限定されてしまいますが、対応が可能であった場合は、塗装に手を入れないので板金修理以上にキレイに、なおかつ早く直すことができ、また費用面でも安く済むという大きなメリットがあるのです。
デントリペアの専用工具があれば
DIYで修理することもできるのか?
そんなデントリペアですが、最近ではDIYでデントリペアができる専用の工具というのが一般向けにも売られています。また動画サイトなどでもデントリペアのHOW TO動画がいくつもアップされているようです。
こういった情報を見て、「自分のクルマの小さなヘコミくらいならもしかしたら専用工具さえあれば自分でも直せるのではないか?」などと考えている方はいないでしょうか。
うまく直せている例もたくさんあるので、不可能ではないと思います。ちょっとした小さなヘコミくらいなら、うまくいけば、素人目にはぱっと見わからないくらいには直せる可能性はあります。
ただし、失敗する可能性はそれ以上に高いと考えるべきです。デントリペアはやはり専門的な知識や経験が必要な特別な技術なのです。
特に最近の国産車に使われているボディパネルは単なる鋼板ではなく超高張力鋼板やハイテン鋼、アルミ素材などで、慎重な扱いが必要です。
下手に素人がデントリペアに挑戦するとかえってヘコミのダメージを悪化させ、別の場所にゆがみが起きたり、塗装が割れてしまうこともあるでしょう。
また、一見直ったように見えて、時間がたったらヘコミが戻ってしまったというようなこともあるようです。鋼板には靭性(ねばり強さ)があり、一度癖がついてしまうと戻ろうとする力が働きます。そして振動や寒暖差によって鋼板が伸び縮みを起こしヘコミが戻ってしまうのです。そのようなヘコミによってできた癖を読み取り、適切なポイントに、慎重に力をかけながらヘコミを戻さないと、完璧には治らないのです。
キチンとした技術を学ばずに、素人が安易にデントリペアによる修理に実行してしまうと、結果失敗してしまうことが少なくありません。ちょっとくらい失敗してもいいというなら挑戦しても構いませんが、完璧に修理したいというのならプロに頼むのが絶対に間違いありません。
カーリース車両の修理にも
デントリペアは適している?
このように、デントリペアは元の塗装には手を付けず、ヘコミを補修することができるとても合理的な修理方法です。もしあなたがカーリースを利用されていて、そのリース車両にヘコミができてしまった、という場合にもデントリペアのよる修理は適しているかもしれません。
カーリースはリース期間が満了した後リース車両はリース会社に返却します。その際に査定を受け、当初に設定した残価を下回っていなければそのままリースが終了となり、特に負担などはなく、次のリース車両に乗り替えることになります。
ただし、そのリース車両にヘコミなどのダメージがあった場合は、返却時に別途原状回復費用を支払わなくてはいけません。また、リース期間中に傷やヘコミができてしまった場合は、リース契約者が実費で修理をしなくてはなりません。
リース車の修理に関しては、リース会社に連絡をして、リース会社が指定する提携工場で修理を行うというのが基本ですが、ちょっとしたへこみ、デントリペアで対応できる範囲であればデントリペアを利用してみるという方法もあります。
その際リース会社に問い合わせてみることは必要ですが、ヘコミのダメージが全く分からないように修理が可能なデントリペアであれば、問題ないとされるケースもある(NGとされるケースもあるかもしれませんが)でしょう。試してみる価値は十分あるのではないでしょうか。
デントリペアは技術レベルの高い
プロショップに頼むのがベスト
デントリペアは手掛ける技術者のレベルによって、仕上がりに差があります。マイカーのヘコミ修理を依頼するとなったら、まずは評判のよいショップを探してから頼む必要があります。
とりあえずはネットなどの口コミをチェックして評判のよいショップを見つけることから始めましょう。
最近は大手カー用品店や、ガソリンスタンドなどでもデントリペアのサービスと提供しているところがありますが、技術的なレベルを考えると、デントリペアや板金塗装を専門としたプロショップのほうが間違いありません。そういったプロショップに依頼してみてください。
そして、「プロに頼まなくてもこれぐらいのヘコミなら自分でもできるんじゃないか?」など安易にDIYでのデントリペアに挑戦することは避けたほうが賢明です。万が一失敗したら目も当てられませんのでくれぐれも注意してください。