2022年8月26日に発売となった、スズキの新型軽商用車「スペーシア ベース」。軽スーパーハイトワゴンのスペーシアをベースとした4ナンバーの軽商用車で、商用車ならではの優れた積載性と広い荷室空間、さらに使い勝手のよさと、軽スーパーハイトワゴンのデザインを組み合わせた、快適で運転のしやすい軽商用バンです。

スペーシアシリーズとしては、スペーシア、スペーシア カスタム、スペーシア ギアに続く4モデル目(特別仕様車のスペーシア ギアスマイルを入れると5モデル目)で、商用車でありながら貨物車としての使用ではなく、遊び車としての使用を想定したレジャーカーです。

そんなスズキのスペーシア ベースですが、メーカーの想定を超える販売台数を記録しているといいます。軽商用車でありながら発売から4カ月で6255台が売れたというのですから大健闘といっていいでしょう。

でもなぜスペーシア ベースは売れたのでしょうか。単に定番のスペーシアの商用バージョンというだけならそこまでヒットはしなかったはず。そこであらためてスペーシア ベースが売れたその理由を検証してみました。

大ヒットしたホンダN-VANのライバルとして投入された
スーパーハイトワゴンベースの軽ボンネットバン

スーパーハイトワゴンベースの軽ボンネットバン
(引用:スズキ公式HP)

スズキの「スペーシア ベース」はそもそもどのような車なのか。簡単に言ってしまえば、乗用車である軽スーパーハイトワゴンのスペーシアを元にした軽商用モデルです。スペーシアは軽自動車としては最大級の室内スペースを持つ人気のスーパーハイトワゴンですので、これをそのまま商用車とすれば確かに広々としたスペースを持つ合理的な商用バンになる気はします。バリーエーションとして設定するのはごく自然なことのようにも思えますね。

同じようなモデルとしてはホンダのN-VANがあります。N-VANも軽スーパーハイトワゴンのホンダN-BOXをベースとした軽商用バンで、駆動方式もFF(前輪駆動)で、スペーシア ベースと同じ。というか、スズキはおそらくホンダのN-VANがヒットしたことを受けて、そのライバル車としてスペーシア ベースを開発したと考えるのが自然です。

実際この両車はとても似ています。違うのは、ホンダは軽商用バンの専用モデルを持っていない(かつては軽ワンボックスのアクティバンがありましたが今は絶版です)こと。スズキには軽ワンボックスバンとしてエブリィがあります。

そのため、ホンダのN-VANは業務用途の商用バンとして使われることも想定されており、最大積載量が350kgと貨物用に使えるだけの本気のスペックが与えられています。ホビー用途でも人気ではありますが、本来は貨物車で、なおかつレジャーやホビーにも使えるという幅広いニーズを想定した車となっているのです。

しかし、スズキのスペーシア ベースは、4ナンバーの軽商用車ではありますが、貨物用としてガンガン仕事に使われることはあまり想定されていません。それは最大積載量がN-VANよりも150kgも軽い200kgとなっていることを見ても明らかです。4ナンバー登録の軽商用車ですが、ターゲットはホビーユーザー。もしくはホビーに使いつつ、パートタイム的に仕事にも使いたいといったユーザーなのでしょう。

本気で貨物用に使うなら、スズキには軽ワンボックスのエブリィがあるのでそちらを選ぶほうが間違いありません。エブリィは頑丈なラダーフレームを持つFRベースの貨物車であり、最大積載量も350kg。後輪駆動だから荷物を満載しても駆動力がしっかり路面に伝わります。荷室の開口部もとても大きく、床も低くてフラット。空間もほぼ真四角で貨物用ならN-VANよりも間違いなく使い勝手がよく、荷物もたくさん積めるはずです。スペーシア ベースはそんなエブリィの変わりではないので、ほどほどの積載性能でいいのですね。

このようにスズキのスペーシア ベースとホンダのN-VANは同じく軽スーパーハイトワゴンを元にした軽商用車(ボンネットバン)ですが、その立ち位置は少し違うのです。そんな軽商用車なのに、貨物車としては中途半端ともいえるスペーシア ベースが、なぜ順調に売れているのでしょうか。その理由を考えてみました。

標準装備のマルチボードを使えば
荷室のアレンジ自由自在

荷室のアレンジ自由自在
(引用:スズキ公式HP)

理由として考えられるのはスペーシア ベースが、レジャーやホビー用として考えた時にとても機能的だということです。スペーシア ベースの開発コンセプトは、「遊びに仕事に空間自由自在。新しい使い方を実現する軽商用バン」。ようするに軽バンならではの使い勝手のよい広い荷室空間を趣味に使いつつ、乗用車的なスタイリッシュなデザインと快適性も味わいたい欲張りなアクティブユーザーのための遊び車というわけです。

荷室スペースは2名乗車時で奥行1,205㎜×幅1,245㎜×高さ1,220mmと広い空間を確保。荷室開口地上高も510mmで荷物も積みやすくなっています。2名乗車で標準装備のフルフラットカバーを装着すれば運転席から後ろは広くて隙間がない快適なフラットフロアにもなります。

さらに、685mm×1,130mmの樹脂製のマルチボードを標準装備していて、幅広い荷室のアレンジが可能です。このマルチボードは上段、中段、下段に簡単に設置することが可能で、上段モードにすれば、ボード上を仕事用のデスクとして使用したり、載せている荷物をボードで隠したりすることが可能です。

中段モードにすると、荷室を上下に分割する棚板として荷物の整理などに役立ちます。そして下段モードにすれば、前席の背もたれを倒すことで、フラットな空間が作り出せます。マットなどの工夫は必要ですが、大人2人でもゆったり快適な車中泊が楽しめるでしょう。

またマルチボードを立てた状態で荷室にセットすることも可能で、こうすれば、荷物が整理しやすい荷室にアレンジ可能ですし、ペットとのドライブなどでは、ケージを安全に載せるためのスペースとしても活用ができるでしょう。

他にも、荷室の左右側面に合計10ヶ所のユーティリティーナットが装備され、標準的なM6サイズのボルトを使えば様々なカスタマイズが可能です。さらに、リアクォーターポケットや助手席シートアンダーボックス、オーバーヘッドシェルフや大型のドアポケットなど、とても考えられた便利な機能が標準装備となっています。

これならアウトドアグッズやスポーツギアを満載できますし、キャンプや車中泊にもピッタリですね。レジャー用に軽商用車が欲しいという方には実に魅力的です。

見た目はスペーシアカスタム
ドレスアップベースにも魅力的

見た目はスペーシアカスタム
(引用:スズキ公式HP)

また、見た目の良さもスペーシア ベースの魅力です。ベースとなったのがスペーシアであり、外観はスペーシア カスタムのマイナーチェンジ前とほぼ同じデザインとなっています。商用車っぽさは一切なく、非常にクールでスタイリッシュ。

また、ブラックアウトされた大型フロントグリルは質感も高く、これにアルミホイールを履かせれば相当格好よくなるでしょう。カスタマイズやドレスアップのベースとしてもとても魅力的なのではないでしょうか。インテリアも乗用車であるスペーシアがベースなので、商用車っぽいチープさはありません。

シートヒーターを搭載したフロントシートには撥水加工のファブリック、リヤシートには防水性を備えたPVCを採用しており。水辺でも雨の日でもアクティブに使えるほか、水にぬれたアウトドアギアも汚れを気にせずに積むことが可能です。

商用車ですが、FFの乗用車モデルがベースなので、前席の静粛性や乗り心地もスペーシアと変わりません。乗り心地も快適ですし、CVTなので変速もスムーズで加速性能なども十分実用的です。

価格は元になった乗用車のスペーシアと
ほぼ同じ。燃費性能も非常に優秀

燃費性能も非常に優秀
(引用:スズキ公式HP)

価格に関してもお手頃です。元となったスペーシアとほぼ同じ139万4,800円~166万7,600円です。ライバルであるホンダのN-VANが127万6,000円~176万2,200円なので、同等といっていいでしょう。違いはN-VANにはターボが設定されていることでしょう。

元となったスペーシアと比べると、スペーシアの価格が131万2,300円~1,656,600円とスタート価格が安くなっていますがこれはスペーシアのエントリーグレードにスズキ セーフティ サポート非装着車が設定されている(スペーシア ベースはエントリーグレードでも標準装備)のでこの低価格となっているのです。

スペーシアでもスズキ セーフティ サポートを装着したエントリーグレードのHYBRID Gは139万4,800円なのでスペーシア ベースと比べると違いはほぼありません。スペーシア ベースは軽商用車だから安い、というわけではありませんが、荷室のアレンジ機能や撥水利用のインテリアなどの便利装備を考えるとコスパ的には非常に魅力的でしょう。

また、スペーシア ベースは軽商用車なので税金が安いというメリットもあります。スペーシアなどの軽乗用車の軽自動車税は年額1万800円ですが、スペーシア ベースは4ナンバーの軽商用車なのでその半額以下の5,000円です。つまり、毎年5,800円スペーシア ベースのほうがお得なのです。これはうれしい。

気になる燃費に関してはスペーシア ベースのWLTCモード燃費21.2㎞/Lとなっています。これは軽商用車としてはナンバー1の高燃費。ちなみにライバルのホンダN-VANのWLTCモード燃費は19.2㎞/Lです。ただ乗用車のスペーシアのWLTCモード燃費は22.2㎞/Lで比べるとちょっとだけスペーシア ベースのほうが悪いです。でも、その差は1㎞/Lとわずか。

これはスペーシアのパワーユニットがマイルドハイブリッド(スペーシアは全グレードマイルドハイブリッド)なのに対してスペーシア ベースは通常のガソリンエンジンだからなのでしょう。とはいえ、マイルとハイブリッドと比べてわずか1㎞/Lの差であれば非常に優秀です。

このようにスペーシア ベースはライバルであるN-VANをしっかり研究しているのでしょう非常に魅力的な一台となっています。人気となっている理由も理解できます。ただし、気になる点もないわけではありません。

ライバルと比べると
ちょっと気になるところも

ライバルと比べて気になるところ
(引用:スズキ公式HP)

まず、最大積載量が200kgという点です。ライバルのN-VANの350kgと比べるとやはり見劣りします。これは元となったスペーシアのプラットフォームをほぼそのまま使っているため、サスペンションやサブフレームなど足回りが本格的な貨物用商用車のような頑丈な作りになっていないためでしょう。そのため、荷物を運ぶための仕事車にも使いたい、という場合は積載性能的にちょっと厳しいかもしれません。

また、ターボの設定がないというのも気になります。車重は870kgとスーパーハイトワゴンベースの商用車と考えるとそれほど重量級ではないですが、ノンターボのエンジンの最高出力は52PS(38kW)/6500rpmで決して余裕はありません。試乗記などを見てみても高速道路でもさほどストレスなく走ることができるけれど、余裕はそれほどない、という評価となっているようです。

スペーシア ベースをアウトドアレジャーに使うなら、高速道路を使った長距離ドライブもあるでしょうから、やはりN-VANのようなターボエンジンの設定が欲しいところです。

また、アレンジ自在の荷室はとても便利で魅力的ですが、完全なフラットスペースにならないという点も気になります。公式サイトを見ると大人2人でも車中泊ができるとなっていますが、それにはフロントシートの背もたれを後方に倒して荷室とつなげ就寝スペースにすればいいという例が掲載されています。

しかし、凹凸のあるシートの背もたれの上に寝るのはちょっと無理があります。厚めのベッドマットを敷いてそこに寝ればいいのでしょうが、そのような工夫をしないといけないというのは車中泊用と考えるとちょっと不便。

N-VANなら、助手席側だけですがフロントシートを収納することができ完全にフラットな床を作り出すことができます。スペーシア ベースも同じようにシートアレンジだけで完全にフラットな床が作り出れば理想的ですね。

そして後席です。軽商用車なのでリヤシートが狭いのは仕方がありません。とはいえリクライニングもスライドもできず、背もたれは腰部分までしか高さがないうえ、ヘッドレストもありません。

基本は折りたたんでおき、リアスペースは荷室に使うということになるのでしょう。もう少し実用的に使えるといいのですが。ただ、これはライバルのN-VANも変わらないのでそこまで軽商用車に望むのは贅沢なのかもしれません。

このようにスペーシア ギアにはちょっと気になる点もないわけではないですが、上記のような点がもし気になるなら、軽商用車のスペーシア ベースではなく、軽乗用車のスペーシアや、スペーシアギアなど別のスペーシアを選べばいいのですからその点スズキに抜かりはないのです。

ターボモデルが追加されれば
さらなる大ヒットの可能性もあり

さらなる大ヒットの可能性
(引用:スズキ公式HP)

おそらくスズキはスペーシア ベースに関してそれほど売れるとは思っていなかったのではないでしょうか。ただ、ホンダのN-VANが想像以上に大ヒットとなり、スーパーハイトワゴンベースの軽商用車という新たなマーケットがあるということがわかって、そこに手持ちの車を使ってうまく新型車を仕立ててライバル車として投入したということなのではないでしょうか。

さすがに大ヒットとまではいえませんが、それでも2022年の8月末にリリースされて、昨年度だけで6,255台も売り上げたのですからスペーシア ベースの実力はたいしたものです。これでターボエンジングレードなどがさらに追加されれば、もっと売り上げが伸びるのはほぼ間違いないでしょう。

今、次期マイカーとしてスペーシアやスペーシアギアをかんがえているという方も、普段1人もしくは2人でしか乗ることがないのであれば、あえてこの軽商用車のスペーシア ベースを狙ってみても面白いのではないでしょうか。税金も安いですし、そのアレンジ自在の荷室を存分に活かせば、あなたの趣味の世界がもっと広がるかもしれません。なかなか魅力的な提案ではないでしょうか。