2018年の7月に発売されると、わずか3か月2万4,000台を超える受注台数を記録したホンダの軽商用車N-VAN。乗用車ではなく、貨物車、商用車として考えると異例の大ヒットです。そしてその人気や実力が評価されて第28回(2019年次)RJCカーオブザイヤーでは特別賞を受賞するなど注目度はますます高まっています。

東京オートサロンやキャンピングカーショーなどでも、早速N-VANをベースとした様々なカスタムカーが出典され来場者から人気を集めていました。筆者も取材でオートサロンを訪れ、実際に数々のN-VANのデモカー見に来た来場者にお話を聞くことができましたが、マイカーとして本気で購入を考えているという方も少なくありませんでした。

確かに商用車とは思えないオシャレなデザインに、FFならではの静粛性の高さや乗り心地の良さオプションも多彩で従来の軽商用車とは一味違った魅力を備えています。

ベースとなったのは軽スーパーハイトワゴンの大ヒットモデルN-BOXですが、価格も最廉価グレードを比べるとN-VANほうが12万円も安く、毎年払う軽自動車税は半額以下。こういった点を考えてもN-VANを次期マイカーとして検討する方がいるのも当然かもしれません。

でも、本当にN-VANは、シンプルでミニマルなN-BOXというようなイメージで使えるのでしょうか。ファミリーユースにもふさわしいクルマなのでしょうか。

ベースはFFプラットフォームのN-BOX
乗用車的な使い方も出来る軽商用車

あらためてN-VANがどのようなクルマなのか整理してみましょう。まず、N-VANの前身となるのは同じく軽商用車であったアクティバンです。アクティはライバルであったスズキのエブリィやダイハツのハイゼット同様兄弟車として軽トラックを持ち、荷室スペースを最大限に取ったセミキャブオーバースタイル(短いボンネットを持つワンボックス)のクルマでした。

アクティはエンジンの搭載位置こそセミキャブオーバー(ボンネット内の搭載されたエンジンなどパワートレーンに、運転席やや被さる形の形態)ではなく、アンダーフロアミッドシップ(エンジンを前車軸と後車軸の間の床下に搭載する形態)でしたが、後輪駆動なのは同じです。

運転席の下にエンジンがあるので静粛性はあまり高くなく振動なども伝わってくる。でも、商用車なので、快適性よりも積載能力の方が重要。それでよかったのですね。

貨物を運ぶ車としての実用性は高いですが、乗用車代わりに使うというのはあまり考慮されていません。別にバモスという基本は同じボディを持つ乗用モデルの軽ワンボックスワゴンが用意されていましたが、軽スーパーハイトワゴンのような快適性はありませんでした。

しかしN-VANは軽スーパーハイトワゴンであるN-BOXをベースとした商用車です。全高はN-BOXよりも高い1945mm(ロールーフも設定)で、荷室高は1,365㎜と高くなっていますが、軽トラではなく元は軽乗用車なのです。そのため駆動方式にもN-BOXと同じく乗用車では主流のFFが採用されています。

そのため乗り心地もよく、運転席とエンジンルームが完全に隔離されているので静粛性も高くなっていいます。快適さという意味では確実に向上しています。見た目もシンプルなスーパーハイトワゴンで、ボディカラーに社用車のようなホワイトを選らなければ、仕事車にも決して見えないでしょう。

荷室長は旧アクティよりも短い
しかし助手席側の大きな開口部が便利


(引用:ホンダ公式HP)

ただし、引き替えに二名乗車時の荷室フロア長は1,585㎜ライバルよりも随分と短くなってしまいました。従来のアクティバンの荷室フロア長が1,940㎜でしたので355㎜も短くなっています。貨物車として考えると、このことは大きな欠点でしょう。しかし、N-VANはライバルと正面から戦うのではなく、独自の個性を持たせることでライバルにはない新たな魅力を際立たせたのです。

乗用モデルであるN-BOXをベースとしたことでセンタータンクレイアウトによる低く使いやすい荷室が実現できました。また、助手席側センターピラーレス構造による大開口部(幅1580mm、高さ1230mm!)を備え大きな荷物の積みやすくしています。

さらに、後席に加え助手席もダイブダウンで格納可能なので、運転席の横まで繋がる長くフラットなスペースが確保でき約2.6mの長い荷物も積み込むことも可能です。WEBなどで実験しているバイク専門誌もありましたが大型のリッターバイクまで軽々と積載できてしまうというから驚きです。

そのため、バイク好きにもトランスポーターとしても使えるということで注目を集めているようです。確かに仕事用の貨物車としてはライバルに見劣りする部分もありますが、レジャー用のバンとしては、見た目もスタイリッシュでむしろ魅力的です。そのことから、パーソナルユースのファミリーカーとしてN-VANへの注目度が高まっているのです。

動力性に優れ燃費も優秀
さらに先進の安全支援機能も充実

動力性能に関してもN-VANは乗用車的なポテンシャルを実現しています。N-BOX用のエンジンをベースに、重い荷物を積載しても十分な走行性能を保てるように低速トルクが強化されています。さらにCVTも積載時の負荷に耐えられるように強化されているのだそうです。

そのため、発進からスムーズに加速し力強くきびきびと走ることが可能です。いくつかの試乗レポートを読みましたがパワフルなターボでなくでも坂道も快適に走れるパワーがあるようです。それでいてFFなのでライバルよりも静粛性は高く、ハンドリングも重心が高いということをのぞけば乗用車的な上質なものとなっています。

もちろん基本は貨物車なのでサスペンションなどもかたく、乗り心地はN-BOXと同様というわけにはいきませんが。ホイールベースも長く、高速道路での安定性もこのクラスとしてはかなり優秀なようです。

ターボモデルを選べばさらに力強い走りが味わえ、荷物を満載しても不満なく走行ができるでしょう。燃費はターボなしで23.8km/L、ターボモデルで23.6km/Lです。ターボでもほとんど燃費が変わらないというのはうれしい所。

さらにN-BOXと同等の先進の安全支援機能Honda SENSINGが全グレードに標準で装備されているというのもN-VNAの魅力です。衝突軽減ブレーキ誤発進抑制機能、車線を検知してはみ出しを抑制する路外逸脱抑制機能に高速走行で前車に追従してくれるアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)なども装備されています。軽バンとして考えるとかなり充実しています。

貨物車だから安全性は乗用車よりも劣っているということがないのもN-VANが注目される理由なのではないでしょうか。

N-VANはあくまで貨物車。だから
助手席と後席の作りは驚くほど簡素

紹介したような従来の軽ワンボックスバンとは違ったオシャレで快適そうなイメージから、N-VANを仕事用の貨物車としてではなく、ファミリーユースの乗用車として購入を検討する方が増えています。

同じホンダのN-BOXと比較してどちらにするか本気で悩む人も少なくないと言います。ホンダもそのようなニーズを見込んでN-VANにホビーユーザーにぴったりなオシャレなモデル、+STYLE FUN、やルーフの低い+STYLE COOLをラインナップしているのでしょう。

ではN-VANは本当にファミリーカーとしてふさわしいのでしょうか?確かに魅力は満載ですが、残念ながら現実は少し厳しいようです。ソロキャンプでの車中泊やサーフィンやスキーなどのアウトドアスポーツの足、バイクレースなどのトランスポーターなどに使用するというのであれば間違いなくN-VANはぴったりのクルマです。

しかし、家族を乗せてドライブやレジャーに使うという用途にはいささか厳しいようです。一番の違いはシートです。N-VANは商用車であり貨物車。見た目はN-BOXに似ていますがあくまで荷物を運ぶためのクルマです。そのため運転席以外のシートの作りは驚くほど簡素。運転席こそN-BOXのシートをベースとしたしっかりとしたものが備えられていますが他はあくまで緊急用です。

ダイブダウンによって、荷室とフラットになるということを重視しているので座面も背もたれも非常に薄くクッション性は最低限しかありません。後席の背もたれなど肩甲骨の下までしか支えてくれません。

さらに、リクライニングどころか助手席スライド機能さえないのです。簡素化したからこそワンタッチでシートが畳め、広くフラットなスペースを作ることができるのですから仕方ありません。すぐ近所のスーパーにお買い物、という程度であれば我慢出来るかもしれませんが長距離の移動は間違いなく厳しいはずです。

ファミリーユースが目的なら
N-VANよりもN-BOXがおススメ

もし購入を検討中なら、試乗の際には運転席だけではなく助手席や後席にも必ず座ってみてください。まるで公園のベンチのような平らで掛け心地の悪いシートにきっと驚くはずです。そんなシートに家族を座らせたら苦情を言われることは間違いありません。

価格は確かに安いですが、ホビー向けで装備の充実したN-VAN +STYLE COOL Honda SENSINGのFFノンターボ、CVT車の価格は156万600円です。それに対してN-BOXの同じく装備が充実したFFノンターボCVT車G EX Honda SENSINGは159万6240円です。その差はわずか3万5,640円。それほど変わりませんね。

スポーツやキャンプ用など明確な目的があって、クルマを仕事にも遊びにも使いたいというのであれば、N-VANは最高の相棒になってくれるでしょう。また、別に家族用のクルマがあって、自分の趣味のためのセカンドカーとして入手するというのならおススメします。

しかしこれ一台で、なおかつファミリーユースをメインと考えるならばけってふさわしいクルマとは言い切れません。確かにN-VANは魅力的なクルマですが、よく検討して冷静に判断し、出来ればキチンと家族の意見を仰ぐべきです。そうでないと手に入れた後で家族に恨まれることになるかもしれません。

そもそもそのような目的のクルマとしてN-BOXが用意されているのですから、ファミリーユースなら素直にN-BOXを選ぶ方が間違いないはずです。