先日トヨタがこのようなプレスリリースを発信しました。それがこちらです。

https://toyota.jp/pages/contents/top/pdf/news_smart_key.pdf

新車の納車時、本来は2個もらえるはずのスマートキーが半導体不足の影響で現状では1つしかつけられないというものです。半導体不足が解消すればもう1つを後日もらえるということですが、新型コロナの影響がこのようなところにまで及んでいるということに驚きを禁じ得ません。でもスマートキーが当たり前の今どきのクルマでキーが1つだけではやっぱり不安ですよね。もちろんメカニカルキーも1つついてくるというので、無くしてしまっても最悪の事態にはならないのでしょうが。

今や軽自動車にも標準装備されるのが当たり前となりつつあるスマートキーですが、半導体不足が影響するくらいそんなにも高度な電子機器なのかとあらためて驚きます。よくよく調べてみるとスペアキーを作るだけでも時間がかかり、作るとしても金額もかなりかかるといいます。そもそも付属のスマートキーが足りていないので自動車メーカーにスマートキーのスペア購入を依頼してもすぐに買えるのかどうかも難しいところです。

そのような問題だけでなく、スマートキーは使ってみるとたしかにとても便利なのですが、スマートキーゆえのリスクもあるといいます。そこで今回はそんなスマートキーについて使用するうえでの注意点や、スペアキーはどこで作ることができるのか。また、いざロックを解除しようとしたとき反応しない場合にはどうすればいいのかなど、スマートキーについて解説していきます。

国産車のスマートキー初採用はトヨタのセルシオ

国産車のスマートキー初採用はトヨタのセルシオ

スマートキーが初めて採用されたクルマはGMのシボレーコルベットとされています。その後ベンツが採用し、国産車ではトヨタの3代目セルシオ(当時はまだ国内にはレクサスチャネルがありませんでした)が2000年に初採用しています。当初こそ高級車のための装備でしたが、今は軽自動車にまで普及した当たり前のものとなりつつあります。

その便利さは使ったことがあればご存じだと思いますが、スマートキーを持った状態でドアノブにタッチすると、キーを差し込むこともボタン操作することも不要でドアの施錠や開錠ができるというもの。そして、クルマにそのまま乗りこんでスタートボタンを押せばハイブリッドならシステムがオンになり、エンジン車ならエンジンが始動しそのまま走行が可能となるというものです。一度もキーに触れることなくクルマを使うことができる。その便利さを味わってしまえば、旧来のメカニカルキーやリモコン式のキーレスが、とても不便なものに感じてしまうことでしょう。

ただ、電子機器に慣れた今どきのドライバーにとっては、その使用感に特に違和感はありませんが、ベテランドライバーの中にはどうしても慣れない、ちゃんとロックされているのか不安だ、という方もいるようです。また、セキュリティに関しても従来のキー以上に優れているとされているのですが、逆にスマートキーならではのトラブルなども一部では起きているといいます。

例えば「リレーアタック」です。リレーアタックはスマートキーを装備したクルマを狙った盗難方法で、その対策方法などが広まったことでその被害は徐々に減ってきている(新たにCANインベーダーという車両盗難手口が増えているとも)といいますが、いまだになくなっていません。スマートキーだから安全だなどと油断していると、車両盗難の被害にあう可能性もあります。

スマートキーは確かに便利ですが、電波を使ったその仕組みは目に見えるものではないので、トラブルが起きた際にどう対処すればいいのかわかりにくいという問題もあります。そもそもどのような仕組みとなっているのかまずかそこから解説していきましょう。

スマートキーはなぜ持っているだけでドアの施錠や開錠ができる?

スマートキーはなぜ持っているだけでドアの施錠や開錠ができるのか

スマートキーはなぜドアノブに触れるだけで開錠や施錠が可能なのかご存じですか。その仕組みをちゃんとわかっているという方は決して多くはないはずです。簡単に説明します。スマートキーはその小さなリモコン状の端末の中に電波を送受信するための装置が内蔵されています。また、車体側にもおなじように電波をやり取りする送受信機が備わっています。

スマートキー機能を搭載したクルマはエンジンが停止した状態でもそれぞれの送信機から常に微弱な電波を送信し続けています。そしてスマートキーを持ったドライバーがクルマに近づくと、スマートキーとクルマの送受信機が互い電波を送信、受信しあって、それぞれの電子IDを照合します。

そしてそのIDと暗号が合うことでようやくドアロックが解除となります。ロック開錠後スマートキーを持ったドライバーが車内に乗り込んで、スタートボタンを押すとシステムがONになり、エンジン(エンジン車なら)がかかってクルマを発進することが可能となります。スマートキーはその間ポケットやバッグなどから取り出す必要はありません。もちろんキーをクルマのキーシリンダーに差し込んで回す必要もありません。キーを意識することなく安全かつスムーズにクルマに乗ることができるというわけです。

一般的なメカニカルキーよりもスマートキーは安全性が高いとされています。その理由はスマートキーと車体双方から送信される電波によって高度に暗号化されたIDや暗号情報をやりとりして照合するため、不正な開錠やエンジンスタートが難しいためです。スマートキーはそれ自体が安全性の非常に高いものですが、さらにスマートキーにコピーなどが困難なイモビライザー機能も内蔵されていれば、その安全性はさらに高まることになります。そのため最新のクルマの多くがスマートキーを採用しているのです。

スマートキーと似ているものにいわゆるキーレスエントリーシステム(キーレス)があります。キーレスはその名前の通り、キー(鍵)を使わずに電波でクルマのドアロックが施錠・開錠できるというもの。あくまで鍵の進化系です。そのため、クルマのエンジンをかけるには通常のメカニカルキーを使ってキーシリンダーにキーを差し込んでエンジンを始動させる必要があります。

キーレスはスマートキーと違ってドライバーがドアロック開場のためのボタン操作や、エンジン始動のための手動操作が必要です。スマートキーはドライバーが特に意識せずにクルマに近づくだけでドアロックの開錠ができ、エンジンスタートにキーを使う必要もあります。キーレスよりもさらに高度に進化したキーがスマートキーと考えればいいでしょう。

スマートキーのメリットとはなんなのか

スマートキーのメリットとは

スマートキーは前述のように操作が不要でとても便利だということはなんとなくお分かりでしょうが他にはどんなメリットがあるのでしょうか。例えばキーの紛失リスクが減るというのもあります。

スマートキーは、クルマに乗る際に特にポケットやバッグからキーを取り出す必要がありません。つまりキーをしまった場所から出し入れする機会が各段に少ない。そのため、キーを落として紛失するなどといったリスクが減るのです。

また、リスクということでは、ピッキングなどによる車上荒らしに合う危険も減ると考えられます。なぜならスマートキー搭載車にはドアに鍵穴がないものもあり、物理的にピッキングが難しいからです。そのため車上荒らしや車両盗難などを防ぐ効果も期待できるのです。

逆にスマートキーならではのデメリットはないのか

スマートキーならではのデメリット

通常のキーに比べると防犯性が高いとされているスマートキーですが、決して盗難の危険がないわけではありません。ニュースなどでご覧になったことがあるかもしれませんが、スマートキー搭載車をターゲットにした車両盗難の被害も実は少なくないのです。そんなスマートキー搭載車を狙った盗難の手段として使われているのが「リレーアタック」です。

リレーアタックは、スマートキーの特徴をついた卑劣な犯罪です。スマートキー搭載車は、前述のとおりエンジンを停止してドアをロックした状態でも常に車両とスマートキー双方から微弱な電波が発信されています。その常に発信されている電波を利用した犯罪なのです。

ではどのように行うのか。まず、スマートキー搭載車に狙いをつけた車両窃盗犯はスマートキー搭載車が駐車するところまで見張ります。そして、オーナーがそのクルマを降りるのを待ち、クルマから離れたところを見計らって、窃盗犯の1人がスマートキー(を持っているオーナー)に近づきます。レストランなど一定時間滞在するだろう場所が狙われやすいようです。また、クルマを降りたのがオーナーの自宅駐車場だと思われる場合はスマートキーを保管しているだろうと思われる玄関に近づきます。

そして、スマートキーから発信されている電波を特殊な機器を使って受信します。そのためある程度接近しなくてはなりません。そして、受信したその電波を特殊な装置を使って増幅したうえで、その電波をターゲットであるクルマの近くに待機した、もう1人の窃盗犯に送信します。スマートキーからの微弱な電波を特殊な装置でリレーして送信する、だからリレーアタックと呼ばれているのです。

増幅されたスマートキーからの電波を受信した、クルマ付近で待機していたもう1人の窃盗犯がドアノブに触れると、クルマは本来のスマートキーを持ったオーナーがクルマに近づき、ドアノブに触れたと誤認識します。そしてドアを解錠され、あとは窃盗犯がクルマに乗り込みエンジンを始動して盗んでしまうというわけです。スマートキー搭載車は一旦エンジンがかかると事故などの危険がないようスマートキーがなくてもエンジンは停止しません。そのまま窃盗犯のヤードまでクルマを運び、そこでバラバラにされどこかに輸出されてしまうということになるのです。

こういった手口は一時期ニュースなどでも頻繁に報道されました。そのため、最新のクルマではこのリレーアタックを防ぐために手動でキーから発信される電波をオフにできるものもあるようです。また、リレーアタックを防ぐ手段として物理的電波を遮断すればいいという情報も出回ったことで、徐々にリレーアタックによる車両窃盗の被害は減ってきてはいるようです。

ちなみにリレーアタックを防ぐための方法は非常に簡単です。ようはスマートキーから発信されている電波を物理的に遮断してしまえばいいので、自宅などならスマートキーを常に金属でできた缶などに保管しておくだけで大丈夫です。出先であればリレーアタックを防ぐための電波遮断ポーチなどを使うといいでしょう。電波遮断ポーチは通販や100均などでも簡単に手に入るのでスマートキーを利用されている方は是非手に入れておくことをおすすめします。

紛失や盗難だけでないスマートキーのリスクとは

紛失や盗難だけでないスマートキーのリスク

スマートキーは電子機器のため水には強くありません。誤って水没させてしまった場合、故障するリスクもあります。ほとんどのスマートキーには簡易防水機能があるので、雨に当たって程度では水没となることはありませんが、例えばポケットにスマートキーを入れたまま洗濯してしまえば、故障する可能性があります。そのようなケースでスマートキーが反応しなくなった場合はすぐにディーラーなどに持ち込み点検してもらいましょう。洗浄や乾燥などで直る可能性もあります。ただ、完全に壊れてしまった場合は新しいスマートキーを注文するしかありません。しかし、現在は半導体不足でスマートキーの生産が間に合っていないのですぐに手に入るとは限りません。

もし、スマートキーが使えなくなってしまった場合はクルマが使えなくなるのか、というとそんなことはありません。スマートキーにはメカニカルキーが内蔵されています。説明書を読むとどのように取り出すのか、どう使うのかも説明されているので、そちらを使えば、スマートキーが使えなくてもクルマそのものが使えなくなるなどということはありません。エンジンスタートの方法もクルマの説明書に書かれているのでそちらを参考にすればいいでしょう。

スマートキーのスペアキーを作ることは可能だけど高額なので注意を

スマートキーのスペアキーは高額

スマートキーのスペアキーですが、こちらはそのクルマの正規ディーラーに依頼することが可能です。また、一部のカギ専門店でもスペアキーの製作は可能です。ただし、その金額は非常に高額です。また注文しても即日手に入るわけではありません。1週間程度(今ならもっとかかる可能性が高い)かかるでしょう。セキュリティにかかわるものなので時間もかかるのです。

金額に関しては車種によって違いますが、スマートキーにイモビライザーが内蔵されているようなものの場合、スペアキーの製作金額はメーカーの純正品で15,000円から50,000円ほど。すぐにスペアキーが欲しいからと、メーカー純正ではなく、鍵の専門店にスペアキーの製作を注文した場合ですが、純正のスペアキーよりもさらに高額なことも多いようです。その相場ですが調べてみた限りだいたい40,000円~100,000円ほどとなっていました。

たかがスペアキーがそんなに高額だとは驚きですね。スマートキーがいかに高度な電子機器なのかがこの値段からもわかります。このようにもし無くしてしまったり壊したりしてしまうと、スペアキーの入手に多額の費用がかかるということを覚えておきましょう。

今回はクルマのスマートキーがどのような仕組みとなっているのか、スマートキー搭載車を狙った車両盗難を防ぐにはどうしたらいいのか、また、管理の注意点などについてご紹介しました。スマートキーは思いのほか高価なアイテムであり、今は入手も大変だということも分かったのではないでしょうか。普段、スマートキーをクルマのカギだからと乱暴に扱ってしまっているかたもきっといるでしょう。でも、スマートキーが原因のトラブルが発生すると意外にやっかいなので、その管理にはくれぐれも注意するようにしてください。