2021年1月、クルマのカタログ燃費がJC08モード燃費からWLTCモード燃費に移行しました。より実際の走行に即した燃費計測方法であるWLTCモード燃費の導入は、燃費にこだわってクルマ選び、リース車選びをする方にとっては実用的でとてもありがたいものです。

ただ、WLTCモード燃費の導入によって例えば現行プリウスはその燃費の数値が急激に悪化してしまいました。2019年モデルのプリウスEのJC08モード燃費は39.0㎞/L。同じプリウスEの現行モデルのWLTCモード燃費は32.1㎞/Lです。数字だけを見ると2割以上悪化していることに。でも、もちろん単に測定方法が変わっているだけなのでそんなわけはありません。でもなぜそうなってしまうのでしょう。

これからのクルマ選びやリース車?選びにも影響がありそうなこのWLTCモード燃費とは一体何なのか? なぜ変わったのか? 従来といったい何が違っているのか? 調べてみました。

JC08モードからWLTCモードへ移行
燃費計測が世界統一の試験方法に

クルマのWLTCモード燃費の導入や表記の切り替わりは2017年中頃からスタートしています。つまり2021年現在、導入からすでに3年以上経過しているということです。このWLTCモード燃費は、「世界統一試験サイクル」といわれる世界的に統一された試験方法で計測される燃費で日本独自の燃費計測方法だった「JC08モード燃費」に代わるものとして新たに導入されました。

意外ですがクルマの燃費の測定試験の方法は、以前はそれぞれの国や地域の基準ごとに違っていたのですね。それを世界的に統一しようということから日本でも導入されることになったのです。

このWLTCモード燃費によって大きく変わったのが燃費の値の表記。3つの走行モードごとに表示されるように変更されました。その3つとは「市街地モード」「郊外モード」「高速道路モード」です。さらにそれらを総合した「WLTCモード」も表記されるので、合計4つの燃費が表記されるように変わっています。確かに走行条件ごとに細かく表記してくれた方が実用的ですよね。

JC08モード燃費からWLTCモード燃費への切り替わりは一気にすべてが変わったわけではなく、新型車両から導入がはじまってそれ以前から販売されていた継続車は、2021年の1月まではJC08モード燃費のまま生産が可能となっていました。そのためしばらくはJC08モード燃費とWLTCモード燃費の併記やJC08モード燃費のままのクルマも少なくなかったのです。

でも2021年1月からはWLTCモード燃費が義務化となったことで、全車ようやくWLTCモード燃費へ切り替わったことになります。これでやっと同列ですべてのクルマの燃費が比較できるようになったわけですね。

JC08モード燃費導入からわずか6年で
WLTCモード燃費に切り替わった

そもそもJC08モード燃費もそれまでの10・15モードに変わるより実燃費に近い測定方法として2011年に導入されたばかりのもの。それなのにたった数年で新しい燃費の測定方法に切り替わってしまったのですから自動車メーカーとしても対応に苦労したのではないでしょうか。

世界的に統一された基準ができたので仕方がないとは言えますが、新たにWLTCモード燃費の測定に最適化した改良やセッティングが必要になるわけですから自動車メーカーとしてもおそらく大変だったでしょう。

また、車種によってはこのWLTCモード燃費への完全移行のタイミングで販売終了となったモノ(日産のシルフィなど)もありました。人気が低迷している4ドアセダンでしたし、あらためてWLTCモード燃費に対応したセッティングや改良を行ってWLTCモード燃費試験を実施するまでもないという判断だったのかもしれません。

しかし、クルマによっては、10・15モード燃費、JC08モード燃費、WLTCモード燃費の3つの時代を生き抜いてきたものもあります。例えば日産のGT-Rや三菱のデリカD:5、さらにトヨタのプレミオ/アリオンなどは2011年以前の発売なので、その都度新しい燃費測定方法に対応してきました。その分コストもかかっているわけですね。

こういったロングセラーのクルマの場合、基本的には同じクルマ、グレードなのに、表記方法が切り替わるたびにカタログ上は燃費が悪化している(新しい燃費測定方法こそ実走行に即しているため実燃費に近くなる)イメージをもたれてしまうこともあるわけです。こういったことも自動車メーカーとしては悩ましいことなのではないでしょうか。

13年間製造が続いている
プレミオのカタログ燃費変遷


(引用:トヨタ公式HP)

ちなみにちょっと調べてみました。2007年から現在までフルモデルチェンジを実施していない(2021年3月で生産終了)ロングセラーモデル、トヨタプレミオのカタログ燃費を同じ1800㏄のガソリンエンジンを搭載する、2WDの1.8Xグレードで比較してみるとこうなっていました。

  • ●2007年プレミオ1.8X/10・15モード燃費 17.0㎞/L
  • ●2012年プレミオ1.8X/JC08モード燃費 16.4㎞/L
  • ●2019年プレミオ1.8X/WLTCモード燃費 15.0㎞/L

同じ車種、同じグレード、同じ排気量のエンジンながら数字だけを並べてしまうと、年式が新しくなるたびに燃費は徐々に悪化しているように見えてしまいます。

でも、実際にはマイナーチェンジでエンジンの充電制御などの新しい技術が導入されているので実燃費は向上しているはず。それにもかかわらずカタログの数値だけで比較すると旧型の方が、より燃費が良いように見えてしまうのですね。

燃費の測定方法が変わっている、ということを知っていれば、そのようなことはなく新型の方が燃費はよくなっているはずということはわかるはずです。でも一般のドライバーは燃費の測定方法が10・15モードなのか、JC08モードなのか、それともWLTCモードなのかなどほとんど意識していないでしょう。気になるのはリッター当たり何キロ走るのかという数字だけですよね。

そのため、ベテランドライバーの中には「昔のクルマのほうが、ガソリンエンジンでも燃費が良かったんじゃないか?」などと誤解しているかもしれません。

ただ、WLTCモード燃費の導入で、今まで以上に実燃費に近い(同じではありませんが)情報がカタログやメーカーサイトから得られることになったのは間違いありません。では実際どのように従来の測定方法と変わったのか、なぜ実燃費に近くなったのか詳しく解説します。

コールドスタートのみの測定で
より実際の使用条件に近くなった

まず、従来のJC08モードは日本が制定した燃費の測定方法のことです。つまり日本の独自規格。対してWLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)モードは国際基準の燃費測定方法です。つまり世界規格。

そしてこのWLTCモードでは前述したように市街地、郊外、高速道路を想定した走行モードによる測定が行われます。「市街地モード」では、信号や渋滞等の影響を受ける比較的低速な走行を想定しており、「郊外モード」では、信号や渋滞等の影響をあまり受けない走行を想定した試験が行われます。

さらに「高速道路モード」では高速道路等での走行を模した試験を行っています。そして、JC08モードの燃費数値の表記は1つでしたが、WLTCではこの走行条件の3つの燃費と、トータルした「WLTCモード」の計4つの燃費が表記されるようになっています。

また、WLTCモードでは燃費の測定がコールドスタートのみとなったことも大きな違いです。コールドスタートとはエンジンが冷えきった状態からスタートするというもの。エンジンは温まっている状態(ホットスタート)よりも冷え切った状態のほうがオイルなどの粘度も高くなり、抵抗が増えるので燃費には不利です。

しかし、多くのドライバーは暖気をしっかりしてから走りだすということはあまり多くないでしょう。また、排気ガスをなるべく減らすために暖気やアイドリングは極力やめよう! という世界的な風潮もありますし、コールドスタートの方がより実際に即しているわけなのです。

アイドリングストップによる
燃費稼ぎも通用しなくなった

じゃあ従来のJC08モードではどうだったかというと、コールドスタートを25%、ホットスタートは75%の配分で測定されていました。つまり、実際の使用状況よりも燃費には有利な条件で測定されていたのです。これでは実燃費とカタログ燃費の乖離が広がるのは当然ですね。

WLTCモードではホットスタートの測定を撤廃して、コールドスタートのみの測定になったのでより厳格で、実際に即して条件で測定されるわけです。

ほかにも試験の際の最高車速がより高くなっており、加減速も増えています。加えて走行時間や距離も長いというのも特徴でしょう。そして、燃費測定時の設定アイドリング時間も大きく減少しています。

JC08モードの際はアイドリング時間が29.7%となっていましたが、それがほぼ半減し15.4%となっています。アイドリング時間が減るということはアイドリングストップによって計測時の燃費を稼ぐということが難しくなるわけです。

こうなると現在は搭載されていることが当たり前のアイドリングストップ機能も車重が増え、アイドリングストップ対応の高価なバッテリーが必要となるというネガな要素の方が大きくなります。今後はアイドリングストップ機能の搭載車が徐々に減っていくかもしれません。

実際最新のトヨタのヤリスなどはアイドリングストップ機能が搭載されていません。それでいてWLTCモード燃費の数値はプリウス以上です。つまりは、WLTCモード燃費測定では、やはりアイドリングストップ機能はなくても問題ないということなのでしょう。

重量や負荷が増えた厳密な試験で
燃費スペシャルの意味がなくなる?

さらに、WLTCモードではJC08モードよりも検査車両の重量を重くして測定するという特徴もあります。JC08モード燃費の場合は車両重量(走行可能な状態)に乗員2人の重量(110kg)を加算したうえで試験が行われますがWLTCモード燃費の場合は、乗員1名75kg+25kgの重量を加算したうえに、そのほかの乗員or荷物分の重量を加算した状態で試験が行われます。

車種によって乗員定数が変わるためその数値は変わってきますが、JC08モード燃費よりも数十キロは重量が増えることになるようです。そして、より厳密な試験が行われることでカタログ上の燃費をよく見せる裏技的なことがやりにくくなっています。JC08モード燃費試験もWLTCモード燃費試験も、燃費測定はシャシダイナモというタイヤによって回転させる大型のローラーが内蔵された測定用の大型の機械が使われます。そして実走行を想定しこのローラーには負荷がかけられるのですが、WLTCモード燃費では、車重ごとにこの負荷の値がより細かく設定されるようになっています。

JC08モード燃費試験では、燃料タンクの容量を減らし、装備を簡略化した数値をよく見せるためだけの燃費スペシャルグレード設定というのがありましたが、今後はそのようなことが少なくなっていくでしょう。わざわざ設定してもその効果が期待できませんから。ただ、WLTCモードに最適化された燃費スペシャルグレード的なものが今後出てこないとも限りませんが。

WLTCで判明! ハイブリッドカーは
高速道路走行で燃費が伸びない?

このWLTCモード燃費の導入で、大きく影響を受けたのがハイブリッド車やアイドリングストップ機能付の軽自動車です。JC08モード燃費に最適化されたクルマほど、WLTCモード燃費で数値が悪化してしまったのです。JC08モード燃費では30㎞/Lを超える高燃費だったはずなのに、数値的には一気に5㎞/L以上悪化してしまった結果が出ています。

無理やり軽量化された燃費スペシャルの効果が発揮しづらくなったこと、コールドスタート化による抵抗の増加にアイドリングストップによる燃費を稼ぎができなくなったことなどがその要因と考えられます。

また、ハイブリッドカーが高速走行では燃費が伸びないということも明らかになってしまいました。ガソリンエンジン車の場合、信号待ちなどによる停止がなく一定の速度で走行できる高速同行では燃費が向上するというのが常識です。しかし、ハイブリッドカーの場合はそうでもない。例えばプリウスの場合ですが、いわゆる燃費スペシャルであるEグレードの燃費を見てみるとこうなります。

プリウスE WLTCモード燃費

  • ●WLTCモード 32.1㎞/L
  • ●市街地モード 29.9㎞/L
  • ●郊外モード 35.2㎞/L
  • ●高速道路モード 31.2㎞/L

高速道路モードでは、市街地モードに対してわずか1.3㎞/Lしか燃費が向上していません。郊外モードとの比較では逆に4㎞/Lも燃費が悪化しています。対してガソリンエンジンのヤリスの場合はどうなのか?

ヤリスG(ガソリン2WD)  WLTCモード燃費

  • ●WLTCモード 20.2㎞/L
  • ●市街地モード 15.3㎞/L
  • ●郊外モード 21.8㎞/L
  • ●高速道路モード 22.4㎞/L

このように高速道路モードの燃費が他のモードよりも明らかに燃費が良くなっています。もちろんそれでもプリウスの方が間違いなく燃費が良いのですが。

ただプリウスよりもさらに燃費がいいのがヤリスのハイブリッドです。最新のハイブリッドカーなのでWLTCモード燃費を想定して作られてもいます。こちらの燃費はこうなっています。

ヤリスハブリッドX  WLTCモード燃費

  • ●WLTCモード 36.0㎞/L
  • ●市街地モード 37.5㎞/L
  • ●郊外モード 40.2㎞/L
  • ●高速道路モード 33.4㎞/L

全ての燃費がプリウスを大きく超えています。燃費ならプリウス! という常識はもう通用しないのですね。ただハイブリッドは高速道路走行では燃費が伸びないということは同じようにこの数値が示しています。燃費を重視してクルマを選びたいという方も少なくないと思いますが、このハイブリッドカーは燃費がいいけれど、高速道路では思いのほか伸びない、ということは覚えておいた方がいいかもしれません。

このようなことがカタログに表記されるようになったのはWLTCモード燃費の導入のよる大きなメリットいえるのではないでしょうか。

リース車選びの際にもカタログの
WLTCモード燃費をチェックしよう

WLTCモードの導入によって、JC08モードよりも実燃費に近い(とはいえ実燃費との差はまだまだありますが)燃費が明らかになり、またパワーユニットの特性や走行環境による燃費の違いも明らかになりました。メーカーの公式情報として横並びに比較が可能となったことで今後のクルマ選び、リース車選びにも変化をもたらすことになるかもしれません。

今まで、カタログの燃費はあてにならないからあまり気にしていなかった、という方も、このWLTCモード燃費はかなりリアルな数値に近いので、参考にしてみてはいかがでしょう。例えば今狙っているクルマと、比較対象のライバル車のWLTCモード燃費を一度チェックしてみると面白いことが分かるかもしれません。