クルマどうしをロープでつなぎけん引をしているシーン。最近はあまり見かけなくなりましたね。クルマも壊れにくくなりましたし、自動車保険やカーリース会社などのロードサービスが充実しているので、わざわざけん引ロープを使ったけん引をする必要などほとんどないのかもしれません。

もし、クルマに何かトラブルがあったら電話一本で救助を依頼することができます。よほどの緊急事態でないとけん引なんてやる機会もありません。それに、そもそもけん引の正しいやり方を知っている人も少ないでしょう。

でも、すぐに救助車に来てもらえないなど、今後、緊急事態がないとは限りません。また、側溝に脱輪したクルマや雪に埋もれて動けなくなったクルマを、けん引で救助する(もしくはされる)機会もないとは限りません。けん引のやり方知っておいて損はないのではないでしょうか。

それにけん引は単純なようでいて意外に難しいもの。単にロープをつないで引っ張ればいいわけではありません。いろいろと注意すべきこともあります。そこで、今回はそんなけん引について正しいやり方、また注意点などについて解説していきましょう。

そもそもけん引は資格がなくても
かってにやって構わないのか?

けん引には特別な免許がいる。そんなこと、どこかで聞いたことはありませんか?確かにレッカー車などけん引装置のない普通のクルマで、ほかのクルマをけん引することは原則禁止されています。そしてけん引には、基本的にけん引免許が必要というのもまちがいではありません。

ただ、条件によっては、けん引免許不要(けん引装置は必要)で、けん引することも可能となっています。ではその条件とはどんなものなのか。それがこちらです。

  1. トレーラーとけん引車を連結した全長が12m以下であること。
  2. トレーラーの総重量(トレーラー本体の重量+積載できる最大重量)が750kg以下であること。
  3. 幅が2.5m未満または高さ3.8m未満。

つまり、この条件を満たしていれば特にけん引免許がなくても、(クルマやトレーラーを)けん引してかまわないのです。

例えば、最近のキャンプブームを受けて、キャンピグトレーラーというものが徐々に流行りだしています。中でも人気なのが総重量750kg以下のキャンピングトレーラー。その理由は重量が750kg以下でけん引免許不要でけん引が可能だからです。キャンピングトレーラーでなくても、汎用のトレーラーを使えば例えばボートやジェットスキー、バイクなども総重量750kg以下ならばけん引が可能ということになります。

でも、けん引免許不要でけん引できるのはあくまで総重量750kg以下。それだとクルマのけん引できないのではないのか。そう思いますよね。確かに今どき750kg以下のクルマなんでかろうじてスズキのアルトやミライースがあるくらい。軽自動車でも人気のN-BOXなどは900kgオーバーです。

当然普通車ならコンパクトカーでも1.2tオーバー。ということは、結局普通免許しか持っていない一般のドライバーは、故障車のけん引をしてはいけないということになるのでしょうか。でも、街中でみかける故障車を牽引しているクルマ(普通車)のドライバーはみんなちゃんとけん引免許を持っていたのか。おそらくそうではないでしょう。

実は、けん引に関して、例外となるケースがあるのです。それは故障車を修理工場まで運ばなければならないなど、やむを得ない場合はけん引免許がなくても車両をけん引することが許されているのです。つまり、街中で見かけたけん引シーンはそのような、やむを得ないケースに当たるというわけですね。

事故や故障などやむを得ない場合は
けん引免許なしでもけん引は可能

じゃあ、事故や故障などやむを得ないケースで、手元にロープなどがあれば自由にけん引をしてもOKということなのか。基本的にはそうです。でも、もちろん適当なロープで勝手にけん引していい、なんてそんな簡単ではありません。

まずけん引するクルマと故障したけん引される側のクルマの車間は「5m以内」に保たなくてはいけません。そして十分に頑丈なロープなどを使って2台を繋ぎ、そのロープには「0.3m平方以上の白い布」を付けなくてはならないということが決められています。

さらに、故障したクルマ側に乗るドライバーも、その故障車を運転できる免許がなくてはなりません。例えば自分のクルマが故障したから別のクルマを借りてきて、故障した、けん引される側のマイカーに免許を持たない家族や友人を乗せる、それはNGです。引っ張られるだけだからいいんじゃないかと考えるかもしれませんが、けん引は引っ張る側よりも引っ張られる側の方がむしろ操作が難しい。慣れていない人だとけん引車に追突してしまう危険があります。

けん引される側のクルマを運転するドライバーは、けん引車の動きに合わせてブレーキ操作を丁寧に行い、両車をつないでいるロープのたるみをなくすような慎重な運転が必要です。

けん引ロープに過度な荷重がかかればロープが切れてしまうかもしれませんし、車体に無理な力が加わり、車体やサブフレームが歪んでしまったり、駆動系を損傷させてしまう可能性があります。想像以上に難しいのです。

できれば、よほどの緊急事態でない限り、けん引はやらない方が良いといってもいいでしょう。でも、よほどのことがないとは限りません。そういった万が一の事態に遭遇しても、正しくけん引ができるだけの知識は持っておいた方が良いはずです。ではどのように行うのが良いのか、次のパートで詳しく紹介します。

けん引ロープの選び方と
けん引ロープのつなぎ方

まず、けん引用のロープですが、頑丈なロープならなんでもいいというわけではありません。けん引用の、専用のロープを必ず使うようにしてください。車載工具には含まれていませんのでこれは別途用意しなくてはいけません。カー用品店や通販などで「けん引ロープ」として販売されているので、そちらで入手すればいいでしょう。

けん引ロープには伸縮するものとそうでないものがあります。頑丈な伸びないワイヤーロープタイプは主に脱輪車などの救出用です。いわゆるけん引に使用するものの主流は繊維素材の伸縮タイプです。伸縮タイプの特徴は、伸縮しないワイヤーロープと違って、伸縮するロープがけん引時のショックをある程度吸収してくれるということ。

つまり、けん引時に起こりがちな「ガツン」といったショックを軽減してクルマへの負担を軽くしてくれるのです。また、けん引時に車間が詰まっても、けん引ロープが縮んでくれるためロープが地面に接地しにくいというのもメリットです。けん引時に路面にロープが引きずられて切れてしまうというリスクを避けることができます。

さらに、伸縮性があるので、けん引フックに接続する際も引っ張ればある程度伸びてくれるので作業もやりやすい。加えて収納の際もコンパクトになるのでトランクでじゃまにならないというのもメリットでしょう。

ですのでおススメは伸縮タイプです。では伸縮タイプならどれでもいいのか。もちろんそんなことはありません。ちゃんと対応トン数を確認してください。対応トン数とは、そのけん引ロープが、けん引することのできる重量のこと。パッケージなどに対応のトン数が記載されているはずです。

基本的には自分のクルマの車両総重量(車検証に記載されています)をカバーできる物を選んでください。では、それよりも対応トン数がとにかく大きければいいのかというと、その分けん引ロープ自体がかさばりますし、重量も重くなってしまいます。さらにスペースも取りますので適切なものを選ぶのが間違いないでしょう。

そして、もう一つ注意が必要なのが、伸縮式のけん引ロープはクルマのけん引専用だということです。側溝に脱輪したクルマや、雪道や泥道でスタックしたクルマの脱出には使えないということはくれぐれも忘れないでください。クルマを引っ張り出すような場合、けん引ロープに車両総重量の数倍の力がかかるので、ロープが切れたり、けん引フックを破損させてしまう可能性があります。必要であれば緊急脱出用の、けん引ワイヤーロープを別途用意するべきです。

けん引ロープは用意できた
ではどのようにしてけん引すればいい?

けん引するクルマはリア側、けん引されるクルマはフロント側にけん引ロープを繋げます。そのためには、まず、けん引ロープを引っ掛けるためのけん引フックを車体に取り付けなくてはいけません。

クルマによって多少の違いはありますが多くの場合、前後のバンパーに四角いフタ状のものがあるはずです。そちらを、布を巻いたドライバーなどでバンパーに傷をつけないよう注意しながら開けると、けん引フックの挿し込み口があらわれます。そちらにフックをねじ込みましょう。

けん引フックは車載工具などと一緒にトランクの底などに収納されているはずです。リア側のバンパーにフタがない場合は車体の裏側にフックがかけられるようなリング状のでっぱりがあるはずです。どれかわからない場合はクルマの説明書を確認してください。

それぞれのけん引フックにけん引ロープを引っ掛けたらけん引ロープの中間くらいの位置に30センチ四方の白い布を付けましょう。けん引でクルマをある程度の距離を移動させる場合には必要です。単に脱出の場合はいりません。

運転は前方、後方、
双方のクルマとも慎重に

救出する側、される側双方のクルマには必ずそのクルマを運転できる運転免許を持ったドライバーが乗り、そして救出される側のクルマのエンジンが始動できるなら始動してください。ギアはニュートラルに入れます。

もし、エンジンが動けば、ハンドルのパワーアシストやブレーキのブースター(倍力装置)が働くので操作がしやすくなります。反対にエンジンがかからないと、ハンドルが重くなりブレーキも効きにくくなるので操作に注意が必要となります。

エンジンがかからなくてもキーやパワースイッチは必ずONにしてください。OFFの状態だとハンドルがロックされてしまうことがあります。その状態でけん引されると後方のクルマのハンドル操作ができなくなるので危険です。

けん引の際は双方のドライバーとも運転操作に細心の注意を払いましょう。救助する側のクルマはゆっくりとアクセルをあけながら発進します。急発進は厳禁です。そして、車間距離や速度を一定に保って運転します。

けん引中にけん引ロープを伸縮させてしまうとロープに負荷がかかり切れやすくなるのでけん引ロープはできるだけ弛まないように、一定の距離を保ちながらアクセルやブレーキをコントロールし運転します。後方のクルマもブレーキをうまく使ってください。

カーブも注意が必要です。後ろのクルマは基本的に引っ張られているだけなのでけん引する側が、ロープが障害物に引っ掛からないか、内輪差にも問題がないか、しっかりと曲がりきれるかその都度確認しながら運転する必要があります。

そしてそれに合わせで後ろのクルマもハンドルやブレーキを調整しましょう。スピードはとにかくゆっくりとです。時速30km以下を保つようにしてください。

ハイブリッドカーは
けん引ロープによるけん引ができない!?

けん引に関して一つ注意点があります。それは、基本的にハイブリッドカーはけん引ロープを使ったけん引がNGということ。なぜならばハイブリッド車を駆動輪が設置した状態でけん引してしまうと、駆動輪につながったモーターも同時に駆動してしまうことになるからです。

そのことによってモーターが発電し、ハイブリッドシステムやバッテリーを故障させたり、破損してしまう恐れがあるからです。最悪の場合は火災にまで及ぶ可能性もあります。そのためハイブリッドカーをレッカーする時は駆動輪が接地していない状態でないといけないのです。

ハイブリッドカーが動かなくなりレッカーが必要となったら、素直にロードサービスを手配するのが間違いありません。レッカーする場合もハイブリッドカーは車体ごとレッカー車に乗せてけん引する方法がベストとなります。ロードサービスを手配する際にも自分のクルマがハイブリッドカーであることをちゃんと伝えた方が良いでしょう。

あくまで緊急事態の際の
例外ケースであることを覚えておこう

ご紹介したように事故や故障などの緊急事態には、けん引免許が持っていなくてもクルマをけん引することが可能だということがご理解いただけたでしょうか。そんな、いざというときのためにトランクに一つけん引ロープを常備しておいてもいいかもしれません。

ただし、けん引ロープを使ったけん引はあくまで例外的なケースとして許されているだけだ、ということは覚えておきましょう。そもそもクルマに装備されているけん引フックは、長距離のけん引に対応していません。スタック時など脱出の際に一時的に使用するためのものなのです。

そのためけん引ロープを使用して長距離のけん引を行うと、クルマのけん引フックにダメージを与える可能性があります。

また、頑丈なフレームを持つランクルなどは別ですが、モノコック構造の乗用車の場合、けん引によって車体自体が歪んでしまうこともありえなくはありません。もしけん引を行う場合は、あくまで緊急的に、クルマを数十メートル移動させるなどの用途にのみ使用するようにくれぐれも気を付けてください。