もはや新車で装備されていないクルマはないのではないか?というくらいに普及したアイドリングストップ。カーリースでクルマを選ぶ際にも、有無を言わさずほとんどのクルマにアイドリングストップはついてくるので結局使わないわけにもいきません。

とはいえそれで価格が極端に上がるわけでもないし、燃費も向上して、環境にもやさしいなら別にいいかな、と考えている方もおそらく多いはずです。

でも、実はこのアイドリングストップがバッテリーを消耗させ、寿命を極端に縮めてしまう原因になっていると言ったらどうでしょう。結果的にアイドリングストップで節約できたガソリン代よりもバッテリー交換費用の方がうわまわってしまうというのです。それって本当なのでしょうか。

新型ヤリスのガソリンエンジン車には
アイドリングストップがない


(引用:トヨタ公式HP)

2020年2月にトヨタが発売した新型車「ヤリス」。ヴィッツの後継となるスタイリッシュなコンパクトカーで、実用性も高く、かつ経済性にも優れているということから現在大ヒットとなっています。またターボ+4WDという今では珍しい本格的なハイパワースポーツモデル「GRヤリス」が設定されたことでも大きな話題になりました。

そんなヤリスですが、車名やデザイン、パワートレーン以外にもヴィッツから大きく変更された見逃せない点があったことをご存じでしょうか。それはアイドリングストップ機構が非搭載(ハイブリッド車は別です)となったことです。

国産自動車メーカーとしていち早くアイドリングストップを導入したトヨタが、量販モデルである新型ヤリスでその肝心のアイドリングストップの搭載をやめたのです。これって結構すごいこと。今どきの新型車でアイドリングストップがないなんてなかなか珍しいと思いませんか。

でもよく調べてみると、トヨタは新たに投入する新型車両に関してアイドリングストップの搭載をやめる傾向にあるようです。例えばRAV4やカローラなど近年フルモデルチェンジした新型車両のガソリンエンジン車では、アイドリングストップの搭載をやめているのです。

でも、なぜあれだけエコドライブにはアイドリングストップが必須!と言ってきたのに、今になってそれをやめるのでしょう。エコにはアイドリングストップこそ正義!と信じてきたのに。

正直アイドリングストップはその挙動が鬱陶しいけどエコだし我慢するかと受け入れてきた人にとってはなんだか裏切られた気もしますよね。でも、あれだけ本気で取り組んできたアイドリングストップをトヨタがやめるには、それだけの理由があるはずです。では、いったいそれはなんなのか?

燃費の向上と環境負荷の低減のために
アイドリングストップが普及

まず先にアイドリングストップが普及した理由を考えてみましょう。それは単純なことです。無駄なアイドリングをこまめに停止することは燃費の改善につながるからです。アイドリングストップ自体は新しいものではなく結構昔からあったもので国産車では1970年代、トヨタのクラウンにはじめて搭載されています。また、手動でアイドリングストップを行ってきたという方もいました。

でも、今ほど制御が緻密なわけでもないし、手動では面倒なうえスターターに負担がかかる。それでいて効果もそれほど高くなかったことからさほど普及せず、しばらく忘れられた存在になりました。その後一般的に広く知られるようになったきっかけはハイブリッドカーの初代プリウス(1997年発売)からではないでしょうか。

そして、ハイブリッドカー以外のガソリン車にアイドリングストップが本格的に搭載されはじめたのは2003年発売のトヨタのヴィッツからでしょう。20世紀末ごろからクルマの排出ガスによる環境への影響が問題視されるようになっり、CO2の削減には燃費を向上させるのが一番!ということから、アイドリングストップが注目されるようになったのです。どちらにせよアイドリングストップに先鞭をつけたのはやはりトヨタだったわけです。でも、そのトヨタがアイドリングストップを搭載しないクルマを次々と搭載し始めているのです。

なぜなのか?それはアイドリングストップを使わなくても十分燃費に優れたクルマを作ることができたから。技術が進み、低燃費性能がさらに進化したことでアイドリングストップ使う必要がなくなったというのです。もちろんアイドリングストップをした方が燃費は向上するはずですが、その効果が以前ほど期待できないというのです。アイドリングストップを使用するとガソリンエンジン車の燃費は5~10%向上するとされてきましたが、最新のヴィッツの場合、それほどの燃費向上が期待できないらしいのです。

確かにアイドリングストップ機能は今までも期待したほど燃費が向上しなかったという話もききます。クルマによって違うでしょうが最大でも10%ほど。平均では7~8%程度でしょうか。でもこれが大きいのか小さいのか難しいところです。

アイドリングストップで
燃料費はどれだけ節約になる?

燃料にかかる費用の節約としてはどうなのでしょう。例えば13㎞/Lのクルマにアイドリングストップを搭載して8%燃費が向上するとなると、14㎞/Lほどになります。では燃料費がどれほど節約できるのか計算してみましょう。

例えば年間1万キロ走行したとします。その場合13㎞/Lなら1万キロ走行に769Lのガソリンが必要となります。ガソリンの1Lあたりの値段をざっくり120円で計算すると費用は9万2,280円となります。

では、アイドリングストップで8%燃費が向上し、14㎞/Lとなった場合はどうなるか。14㎞/L のクルマで1万キロの走行するには714Lのガソリンが必要となります。これを同じ1Lあたり 120円で計算するといくらになるか。計算では8万5,680円となりました。その差額を比べてみると6,600円です。満タン一回分+αぐらいの節約できることになります。具体的に数字にしてみるとどうでしょうか。

「これなら十分効果的だ!」となりますか?燃費の厳しい大型車であれば、その差額はさらに開くはずですが、年間走行距離がもっと少ない方であればどうでしょう。

「これくらいなら。アイドリングストップ別になくてもよいかも」と思う方の方が多いかもしれませんね。筆者的にはもうちょっとなんとかならないのかなと思ってしまいます。ランニングコストの節約に効果的なのかというと、正直微妙なところですね。

でも、もともと“エコ”への取り組みとは、“エコノミー(経済的なメリット)”のためだけではなく “エコロジー”、つまりは地球環境への取り組みの一環でもあります。少しでも燃費が向上すれば、排出ガスが減らせ環境への負荷も減ることになるわけです。

「たいして得にならないなら、アイドリングストップなんてないほうがいいや!」ではなく、アイドリングストップという一人一人の小さな積み重ねが結果的に地球環境を守ることにもつながると考えればとても有意義なことともいえるのではないでしょうか。

ただ、近年問題になっているのは、このアイドリングストップによって、クルマに対してちょっとしたネガティブな影響も出ているということ。いったいそれはなんなのか…。

アイドリングストップ搭載車は
バッテリーの寿命がたった1年半?

そのネガティブな影響とは、バッテリーの寿命が極端に短くなってしまうというもの。クルマのバッテリーは、年々性能が向上しているので、昔よりもむしろ長持ちするようになっているはずではないのか。

以前はバッテリーの寿命は普通に使用して3年程度とされていましたが、それが今では4~5年たっても問題なく使えてしまうケースも珍しくなくなっています。それなのにアイドリングストップ機能が搭載されていると、そのバッテリーの寿命が極端に短くなってしまうというのです。なんと1年半程度でバッテリーが寿命を迎えてしまうケースも珍しくないといいますから非常に大きな問題です。

なぜそうなってしまうのか? それはアイドリングストップや頻繁な充電制御によってバッテリーの使用頻度が高くなり結果的に負荷が増大して寿命を縮めてしまっているのだといいます。

確かにアイドリングストップは信号待ちのたびにエンジンを停止し、信号が青に変われば即始動し走り始めます。エンジンの始動時には大きな電力が必要となるので、そのたびにバッテリーに負荷がかかります。エンジン始動を繰り返せばバッテリーから電気はどんどん減ってしまいますから、その分の電気を補うたびに急速充電が行われます。急速充電がバッテリーを痛めることは、スマホなどでも経験があるでしょう。皆さんご存じですよね。そしてそれを頻繁に繰り返すのですから、かなりの酷使となるわけです。

一日に何十回とエンジン停止→エンジン始動を繰り返せばいくらアイドリングストップ車用のバッテリーがそのために最適化された高性能タイプであってもダメージを受けないわけはありません。

アイドリングストップ車
専用バッテリーの保証は18ヶ月

さらにアイドリングストップだけでなく最近のアイドリングストップ車は充電に関しても緻密な制御が行われています。クルマの走行状況や電気の使用環境、バッテリーが蓄えている充電の状態に合わせて発電機であるオルタネーターを停止させるなどしてエンジンの負荷を小さくしているのです。オルタネーターはエンジンにとっては抵抗なので、こうすることで燃費の向上が期待できるからです。

このように、電気の充電、放電を細かく繰り返していればバッテリーの消耗が激しくなるのは仕方がないといえるかもしれません。でも、それでも最新のクルマはそのような使い方を想定して最適化されているはず。バッテリーも従来通りの寿命があるはずだと誰もが思っていました。

でも、残念ながらアイドリングストップ車のバッテリーの寿命はかなりの確率で従来のものよりも短いということがわかってきたのです。よくよく調べてみるとアイドリングストップを搭載していない車用のバッテリーは、メーカー保証が5年または5万kmとなっています。それに対して、アイドリングストップ車用のバッテリーの保証は18カ月または3万kmと大幅に短い。つまりはバッテリーメーカー自身が、アイドリングストップ車はバッテリーへの負荷が極端に高く、専用バッテリーの寿命も短くなる、ということをわかっているのです。

18ヶ月というとたったの1年半です。新車で購入したクルマが次の車検を受ける前にバッテリーが寿命を迎えてしまう可能性があるということ。もちろん絶対にそのようになるとは限りません。ただ、1年ちょっとで実際に新車のバッテリーがダメになったというケースもあるので十分に気を付ける必要があるのです。

アイドリングストップ専用バッテリーは
従来型の3倍~5倍も高価

それにアイドリングストップ車専用のバッテリーは高価です。どうクラスのものでも、通常のバッテリーなら5,000円程度で購入できるのに対してアイドリングストップ車専用バッテリーは安いものでも15,000円、車種によっては50,000円なんてことも。3倍から5倍は高いのです。それなのに1年半で交換が必要となればアイドリングストップで節約できた分の燃料代など簡単に吹っ飛んでしまいます。というか、逆にマイナスですね。

もしそれがカーリース車だった場合、毎月の出費が定額で済むはずなのに別途それ以外に余計なバッテリー交換費かかってしまうことになります。もし5年リースならその間に3回のバッテリー交換が必要となるかもしれません。メンテナンスリースであればバッテリーの交換も無料で行ってもらえるのですが、それも無制限ではありません。

リース会社によって違いますが、だいたい5年リースの場合でリース期間中1回。7年リースで2回ほど。車検の際に交換するというプランとなっているはず。でも、それでは間に合わないことになるわけです。

燃費も期待ほど向上しない、バッテリーの寿命は短くなる、いくら環境にやさしい(バッテリーの廃棄物が増えるので、実はそうでもない?)といってもそれではアイドリングストップを利用する意味はあるのか疑問ですよね。

おそらくこのような実態がわかってきたからこそ、トヨタもハイブリッド車を除いて、アイドリングストップを搭載しない方向へと方針を転換してきたのではないでしょうか。

こまめにOFFにすれば
バッテリー寿命を伸ばせる可能性大

ただ誤解してもらっては困るのですがすべてのアイドリングストップ車のバッテリーが、必ず寿命が短くなってしまうというわけではありません。アイドリングストップを頻繁に行う環境でなければ、そこまで負荷はかからず極端に寿命が短くなることもないのです。実際アイドリングストップ車のオーナーにはこのように思っている方もいるはず。

「うちのクルマはアイドリングストップついているけどバッテリーは普通に3年以上もっているけどね」

たしかにそのようなケースも少なくありません。おそらくですがそういった方が普段運転する環境ではアイドリングストップが作動する機会が少ないのではないでしょうか。

前述したように、エンジンの停止→始動のサイクルが増えれば増えるほどバッテリーの負荷は増加します。ですから渋滞路で頻繁にゴーストップを繰り返すような都市部でなければ、そのサイクルの頻度も低くなりそこまで極端に寿命が短くなるわけではないのでしょう。

また、手動でこまめにアイドリングストップ機能をOFFにしても同じように負荷を減らせるはずです。ただせっかくついているのにアイドリングストップ機能を使わないのはもったいない気もします。

そこで、アイドリングストップが効果的に働く郊外の道や、夜間などは使用しつつ、真夏や真冬などエアコン使用頻度が上がる季節や、渋滞路や短距離の移動の時は機能をOFFにする。このように適切に切り替えて使えばいいのです。燃費もある程度向上し、バッテリーの負荷も減らしつつ寿命も伸ばすことができるはずです。こうすればアイドリングストップ機能が無駄になることもないはずです。

リース車選びの際にはアイドリング
ストップの有無にも目を向けよう

バッテリーの寿命が短くなる可能性がある。アイドリングストップにはそのようなウイークポイントがあるということが徐々に明らかになってきました。まだまだ完璧なものではないので、トヨタの判断はきっと懸命なのでしょう。

しかし、その機能が今後完全になくなるものではきっとないでしょう。EVが全面的に普及するまではガソリンエンジン車、ハイブリッドカーの燃費向上のためには有効なものですし、採用は続くはずです。それに、まだまだ進化の可能性もあるはずです。

できれば、今後はグレードでその有無を選べたり、オプションで装着できるなどの選択肢があるとうれしいですね。皆さんがこれからカーリース車両を選ぶ際には、自分の運転環境でアイドリングストップがあった方がいいのか、それともなくて構わないのか、そういったこともあらためて考えてみる必要があるかもしれません。