ホンダのベストセラーコンパクトカー「フィット(FIT)」。スタイリッシュなデザインにセンタータンクレイアウトによる広々とした室内、さらにスポーティな走りを持つグレードも設定され、経済性の高いハイブリッドモデルもラインナップするなど全方位にスキのない、コンパクトカーの優等生です。国内市場におけるホンダの主力車種と言っていいでしょう。

歴代モデルは、ホンダの持つ最先端のテクノロジーなどもいち早く投入されており、幅広い層から人気を集めてきました。かつてはホンダの顔と言えばシビックでしたが、今はこのフィットがホンダの顔と言っていいかもしれません。

そして、現行モデルの4代目フィットですが、2020年に登場したばかりの最新モデルです。がらりとイメージチェンジを図ったそんな新型フィットですが先日、マイナーチェンジが実施されました。歴代モデルに比べるとちょっと存在感が薄いといわれている現行のフィットなので一体どのようなテコ入れが行われたのか気になる人も多いはず。あの、賛否両論の顔にも何らかの変化があったのか、詳しくチェックしてみましょう。

フィット誕生20周年
今やホンダを代表するクルマに


(引用:ホンダ公式HP)

初代ホンダフィットが登場したのは2001年6月。今年でなんと20周年です。先代にあたるのはハッチバックのコンパクトカーロゴですが。ロゴは、大ヒット車CITYの後を継ぐ形で登場したのですが、非常に地味で性能的にも特筆するもののない存在感が正直あまりないクルマでした。

特にそのデザインは化もなく不可もなくというか、ホンダ車らしくはあったのですがとにかく没個性。
筆者も当時取材で地方に出かけた際に、安いからという理由でこのロゴをレンタカーで借りてみたのですが、まるで商用車のようなインテリアがとにかく質素で、走りにも特徴がなく、外観もシンプルすぎて正直印象がまるで残らない、そんなクルマでした。

さすがにあまりにも地味すぎたせいか、結果的にロゴは1代限りで消滅してしまったのですから、やはりよほど売れなかったのでしょう。

ですが、そんなロゴの反省からうまれたのがフィット(FIT)です。2001年6月、ロゴとはまるで一線を画す、まったく新しいクルマとして登場したのです。登場直後からその注目度も相当に高いものでした。

とにかくロゴとはまるで違ってスタイリッシュでスポーティ。さらにライバルと比べて圧倒的な低燃費性能を実現し、インテリアも質感も高くセンタータンクレイアウトで室内も荷室も広いなど実用性は満点。内装の質感もロゴと比べると格段に向上していてそれでいて価格も割安だったのですから当然のごとく瞬く間に大ヒットとなりました。

どれくらいヒットしたのかというと、登場の翌年、2002年には年間販売台数で、あの、世界の自動車史上最も売れたクルマであるトヨタカローラを上回り、なんとトップを記録! とんでもない記録を打ち立ててしまったのです。以後フィットはホンダを代表するクルマとなり現在に至ります。

そんなホンダの屋台骨ともいうべきフィットの現行モデルが2020年に登場した4代目モデルです。そんな期待を背負う4代目フィットが先日マイナーチェンジを実施しました。いろいろな意味でこのマイナーチェンジが注目されています。

シンプルでスマートなデザイン
機能優れているのに注目度が低い


(引用:ホンダ公式HP)

なぜ、たかがマイナーチェンジがそれほど注目されているのか。それはホンダを代表するフィットだからというのもありますが、もう一つ、歴代大ヒットを記録してきたフィットなのに4代目モデルでちょっと売り上げがトーンダウンしているからです。

コンパクトで広くて、燃費の良いハイブリッドも設定。インテリアの質感なども向上しているし、価格もベーシックモデルなら150万円台と、歴代フィットと比べて特別何かが劣っているわけではありません。それなのに、いまいちヒットとなっていないのです。

その理由は何なのでしょう。一部には、同じホンダの軽自動車N-BOXが売れすぎて、フィットからの乗り換え需要さえもN-BOXに奪われてしまっているという意見もあります。

確かにそれも否めません。N-BOXはコンパクトカーに劣らないほどの広々としたスペースがありますし、外観も堂々とした存在感があってインテリアなどもゴージャス。軽とは思えないほどの完成度を持っています。

さらに、車両価格面ではフィットとさほど変わりませんが、ランニングコストでは軽自動車ですから格段に安い。売れるのも当然。むしろ売れすぎてホンダとしても他の車種のユーザーまで奪ってしまって困っているなどという話も聞きます。
しかし、それだけが理由でフィットの人気が落ちているというわけではないでしょう。

グリルレスは売れない!
セオリー通りになってしまった


(引用:ホンダ公式HP)

多くのメディアが指摘しているのは、現行のモデルの4代目フィットのデザインの問題です。歴代モデルほど人気が盛り上がらないのはその地味な「デザイン」にあるというのです。

特に顔。フィットのフロントには、クロスターを除いてグリルが配置されていない。そのためシンプルで上質な印象にはなっているのですが、いまいち存在感が薄いのです。これぞフィットというような個性があまり感じられないのです。

昔からグリルレスのクルマは売れない、とされてきました。実際にはグリルがなくても売れたクルマもあるのですが、果敢にグリルレスデザインに挑戦し不人気車のレッテルを貼られてきた例は少なくありません。

やはりクルマの表情を印象付けるフロントグリルは多くの人にとってあってほしいものなのでしょう。フィットはその“グリルレスは売れない”のセオリー通りになってしまっているようなのです。

フィットも初代から3代目までは、小さいながらもアクセントとなるフロントグリルがあり、統一感のあるシャープでスポーティな印象が強い、ホンダ車らしいデザインでまとめられていました。

それが一変。グリルレスとなってしまったのです。上質で品のある都会的なイメージで余計な装飾を排したミニマルでおしゃれなデザインとも言えますが、実際のところ売り上げがイマイチ伸びていないところを見るとやはり多くの方が「フィットはこれじゃない!」と思っているということなのではないでしょうか。

そんなフィットがマイナーチェンジを実施するとなれば、さあデザインはどうなるのか、おのずと期待が高まるのは当然ですね。結果はどうだったのか。

専用車載通信モジュール搭載と
Honda CONNECTが最大のトピック


(引用:ホンダ公式HP)

答えをいってしまうと、エクステリアデザインに変更はありませんでした。フロントグリルも採用されず、印象の薄いゆるめの顔はそのままです。ちょっと残念ですね。

じゃ期待外れなのか。そんなことはありません。ちゃんと機能面はブラッシュアップされています。ではどの辺が変わったのか。

一番の注目ポイントは、車載通信モジュール「Honda CONNECT(ホンダコネクト)」が搭載されたということでしょう。先日発売された最新のヴェゼルにも装備されている最新の機能です。Honda車専用車載通信モジュールで、対応の端末を搭載したホンダ車なら利用できるというもの。

これがあれば、事故にあった際にボタン一つで緊急サポートセンターにつながり警察や消防に連絡をしてもらえるほかサポートを受けることができます。

さらに、クルマが衝突してエアバッグが展開した場合にはボタンを押さなくても自動で通報。クルマの状況がオペレーターに共有されて、迅速なサポートが受けることが可能。これはありがたいですね。

また、「Honda リモート操作」なる機能も利用可能です。これは離れた場所からでもスマートフォンでクルマを操作できるというハイテク機能。

例えば暑い日や寒い日など車外から車のエアコンを始動が可能です。いわゆるリモコンエンジンスターターですが、無線ではなく、通信回線を使用するので動作は確実ですし、距離があっても大丈夫。

また、ドアのロックを忘れたという時にはクルマからスマホに通知が届き、そのままスマホでドアをロックすることも可能です。

さらに、大型のショッピングモールや、ホームセンターなどの巨大な駐車場で、自分のクルマをどこに停めたのか見失ってしまった場合にはスマホの地図上でクルマの位置を把握するということもできます。これは地味に役立つ機能ですね。

それ以外にも、通信機能を使ってナビゲーションシステムの地図を最新に自動更新できたり、車内の端末に多彩なアプリをインストールできる「Honda アプリセンター」なども利用可能です。

そして、ドライブ中でもスマホやゲーム機などが手放せない子供たちに喜ばれそうなのがクルマをWi-Fiスポットにできる「車内Wi-Fi」機能ですね。お父さん的にはおしゃべりしてほしいので、微妙ですが、子供たちはスマホの通信容量が節約できますし便利。間違いなく喜ばれるでしょう。

利用にはサブスクサービス
Honda Total Care プレミアム加入が必須

ただし、注意が必要なのがこれらのコネクテッドサービスを利用するには、対応の端末が搭載されていることに加えて、「Honda Total Care プレミアム」サービスへの加入が必要だということ。

さらに、このHonda Total Care プレミアムには基本パックと追加オプションサービスがあって、基本パックは緊急サポートセンターやHondaリモート操作、自動地図更新サービスが利用できて550円/月です。ただし初回申し込みから12か月間は無料で利用できます。

それ以外のサービスはオプションで、例えばHonda ALSOK駆けつけサービスと、Hondaアプリセンターはともに330円/月。こちらも初回申し込みから12カ月は無料。

気になる車内Wi-Fiに関しては330円/1GBで、初回申し込みから12か月間は1GB分無料となっています。今どき1GBはちょっと通信容量少ない気もしますがクルマを毎日乗るわけではないのでなければ1GBでも十分なのかもしれません。

ということで今回のマイナーチェンジに関してはこの通信モジュールとコネクテッドサービスの進化が最大のトピックです。確かにすごいですが、いわゆるサブスクで2年目からは有料という点や、オプションサービスを追加するとそれなりの費用となってしまうこと、そしてヴェゼルには搭載された、スマホをクルマのキーとして利用できる「Honda デジタルキー」機能が採用されなかったのはちょっと残念という気もします。

インテリアが魅力の2台の
20周年特別仕様車も設定


(引用:ホンダ公式HP)

ほかにも、フィット登場20周年を記念した特別仕様車「Casa」、「Maison」の2タイプが設定されたというのも注目点です。どちらの特別仕様車も主直グレードであるハイブリッドの「e:HEV HOME」とガソリンエンジンの「HOME」をベースとしていて、インテリアを中心に専用装備が与えられています。

Casaはレッドステッチをアクセントとした専用シートやフロアカーペット、ブラウンのカラードシートベルトにアームレスト付センターコンソールボックスが装備され、これまでHOMEに設定がなかった運転席&助手席シートヒーターも搭載されています。

そしてもう一方のMaisonには上品さとしなやかさを感じさせるグレー×ベージュの専用シートを採用したほか、Casaと同様、シートとデザインをコーディネートした専用フロアカーペット、ブラウンのカラードシートベルトにアームレスト付センターコンソールボックスを装備。また運転席&助手席シートヒーターも同じく搭載。また、外観では両特別仕様車ともブラッククリア塗装の16インチアルミホイールと、ブラック塗装の電動格納式リモコンドアミラーを採用しています。

価格は同じで、ハイブリッドのe:HEV HOME Casaとe:HEV HOME Maisonが226万7,100円(2WD)、246万5,100円(4WD)。そしてガソリンのHOME CasaとHOME Maisonが191万7,300円(2WD)、211万5,300円(4WD)となっています。

20周年記念という割にはちょっとインパクトに欠けている気もしますがなかなか魅力的な特別仕様車となっています。また、実はこっちの方が筆者的には注目しているのですが、これ以外にも一台特別なフィットが追加となりました。

モデューロ エックスが
フィットの完成形?


(引用:ホンダ公式HP)

それがメーカー純正のカスタムコンプリートカー「フィット e:HEV Modulo X(モデューロ エックス)」です。モデューロ エックスXといえば純正アクセサリーメーカーであるホンダアクセスが、空力性能や足回りをカスタム&チューニングを施し、独自のエアロパーツなどを装備した特別な車。いちグレードや特別仕様車とはとはちょっと違って特別なカスタマイズカーという位置づけです。

今回のフィットのモデューロ エックスはエンジンなどには特に手を加えられていませんが、足回りや外観はモデューロ エックスならではの仕立てになっています。そして特に目を引くのがフロントグリル。そう、モデューロ エックスにはノーマルのフィットにはないフロントグリルがあるのです。

これが実にフィットにフィット? しているのです。正直、はじめからこれで出した方がよかったのでは? と思わせるくらいに似合っています。カスタマイズカーなので価格は286万6,600円とフィットとしては高価ですが、これは注目に値するでしょう。

また、これは希望でしかないのですがこのフィットのモデューロ エックスのデザインが好評となれば、次回のマイナーチェンジで、ベースのフィットにも同じようなグリルが採用となる可能性があります。あくまで希望ですが、可能性としては決して低くはないでしょう。マイチェン直後にいうことではないですが、是非次回のマイナーチェンジに期待したいところです。