ホンダのベストセラーコンパクトカー、フィットがマイナーチェンジを実施してついに待望のグレード「RS」が追加となりました。RSといえばホンダにとって伝統の名前ですが、先代フィットにはあったのに、現行型フィットが登場した際、なぜかRSがラインナップされず期待していたファンから落胆の声が聴かれました。

しかし、その現行型フィットが2022年10月にビッグマイナーチェンジを実施して、ついに「フィット RS」が再登場となったのです。フィット RSですが、興味のない方にとっては大衆車フィットの1グレードでしかありません。そもそも「RS」が何なのかもご存じないかたも多いでしょう。

そこで、今回は新たに登場したフィット RSについて、深掘りします。そもそもRSとは何なのか、なぜ特別なのか。また、新しいフィット RSは果たしてファンの期待通りの出来なのか検証してみましょう。

親しみやすい、子犬を思い起こさせる
愛らしいデザインは受けが悪かった?

フィットがマイナーチェンジを実施
(引用:ホンダ公式HP)

ホンダフィットといえば、クオリティの高い上質なデザインにセンタータンクレイアウトの採用による広々とした室内、きびきびとした走りとハイブリッドによる優れた経済性を持つコンパクトカーとして、長らくホンダを支えてきたベストセラーカーです。初代モデルが登場したのは2001年6月。つまり誕生から20年以上経過したもはや伝統のブランドです。

フィットは現在まで3度のフルモデルチェンジを実施しており、現行モデルは4代目にあたります。その4代目の登場は、2020年2月ですでに3年(2023年1月現在)が経過しています。東京モーターショーのプレスデーで4代目のフィットが発表された際(筆者もその会場にいました)、来場者が驚いたのはそれまでのフィットからがらりとイメージチェンジを図った、ソフトな印象の上質なデザインでした。

それまでの、ライバルに比べるとフィットはシャープでスポーティな印象もあったのですが、それがいきなり非常にソフトで親しみやすい、どことなく子犬を思い起こさせるような愛らしいデザインに変わっていただからです。

ここまで印象を大きく変えると、それまでのフィットオーナーはどんな印象を持つのか。これまで通りフィットファンから支持されるのか、売り上げはどうなるのかなど色々と疑問があったのですが、クルマ自体は非常に完成度が高く、インテリアの質感もアップし燃費も向上、売れて当然の内容となっていました。

しかし、発売されてみると売れたのは売れたのですがそれまでのフィットのような大ヒットとはならず、どうも、いいクルマなのだけど印象が薄い、そんなコンパクトカーとなってしまいました。もちろん手に入れた方からの評価はとても高く、クルマとして十分魅力的なのはまちがいありません。ただ、インパクトが弱かったのです。

そして、もう一つ評判を下げたのが伝統のスポーティグレードRSが廃止となり、新しいスポーティグレード「NESS(ネス)」が設定されたこと。ダジャレではないですが「フィットネス(フィットNESS)」と掛けたその名はイマイチピンとこず。また、特に動力性能や足回りが差別化されているわけでもなく、ボディカラーにビビットな差し色(フィットネスウェアがモチーフ?)が入っているくらいで、街中で見かけることもほとんどなく、どうも、RSのかわりにはならなかったようです。

そんな声もあってか、ようやくフィットにRSが復活しました。伝統のスポーティグレードの復活であり、当然これを待っていたというフィットオーナーも多かったでしょう。ネットの自動車系ニュースサイトでも、フィットのマイナーチェンジの話題以上にこのRSの復活が大きく伝えられました。では、復活した待望のフィット RSですが、期待通りのものとなっているのでしょうか。それとも期待外れに終わっているのでしょうか。

RSに求められるのは
スポーティな走りとクールなデザイン

スポーティな走りとクールなデザイン
(引用:ホンダ公式HP)

そもそも「RS」がなぜ伝統の名前となったのか。じつはこのRSですが、初代シビックの高性能モデルで初めて設定されたスポーティ・モデルであり、このRSは「ロード・セーリング」を意味するものでした。RだからレースとかSならスポーツとか、シャープな走りに直結するような名前ではなかったのですね。

初代シビックにRSが追加されたのは1974年10月です。大衆車であるシビックの1.2L・66psエンジンに高性能なキャブレターなどを装着し76psまでパワーアップ。さらに、トランスミッションも1速多い5速MTとして動力性能を高めた上、サスペンションも専用チューニングでスポーティも締め上げ、小粒ながらスポーティな走りが楽しめる特別な一台と仕立てたのです。

その走りは世界中から高く評価され国産ホットハッチを代表するモデルとして大ヒットしました。そして、それ以来シビックRSは多くのドライバーの憧れとなったのです。

ホンダにとってRSという名は、そのような特別なものなのです。そして、シビック以外の車種にもスポーティグレードにはRSの名をつける伝統ができました、パワーユニットや足回り、外観に手を入れ特別な一台に仕立てられるなど、ホンダファンにとっては、RSは他のグレードとは違うスポーティで特別なモデルなのだというイメージが定着したのです。

TypeRほど本格スポーツグレードではない
手軽に楽しめる身近なスポーティグレード

手軽に楽しめる身近なスポーティグレード
(引用:ホンダ公式HP)

RSというモデルが人気なのは身近であるという点にもあります。同じくホンダの特別なスポーツグレード、TypeRほど本格的なスポーツモデルではなく、あくまで手の届く手ごろなスポーティグレードという位置づけです。

正直ホンダのTypeRシリーズはもはや簡単には手の出せないハードなレーシングカーに準ずる走りの高額車で、発売されれば世界中で争奪戦となり入手は困難。でもRSなら入手も容易で購入しやすく、ほどほどのチューニングで手軽に走りを楽しむことができるはず、そんな風に期待されるわけです。

そんなRSの名を冠した一台がようやくフィットに追加されたのですから期待しないわけにはいきません。それで実際のところはどうなのでしょうか。まず、エクステリアを見ると専用デザインのフロント・グリルや前後バンパー、リア・スポイラーなどが装着されています。これによって他のグレードよりも全長が85㎜長くなっています。

スポーティになり、賛否両論あった子犬顔の印象は薄められ確かにマイナーチェンジ前のフィットよりはクールに見えます。シャープでスポーツカーのような迫力がある、とはさすがにいいませんが、十分格好よくなっていると思います。正直マイナーチェンジ前の子犬顔フィットは、筆者は受け入れがたいものがありましたがこのフィット RSなら全然悪くないと思います。ではRSにとって肝心の走りのパフォーマンスはどうなのでしょう。

パワーユニットのスペックは
他のグレードと全く同じ

パワーユニットのスペック
(引用:ホンダ公式HP)

マイナーチェンジ後のフィットのパワーユニットですが、まずガソリン車のエンジンが1.3Lから1.5Lに排気量アップしています。これによってトルクも増し、低速域から高速域までトルクフルな余裕ある走りがあじわえるようになりました。スペック的には、マイナーチェンジ前の1.3Lガソリンが最大出力98ps/12.0kgmだったものが、新しい1.5Lガソリンでは118ps/14.5kgmへと20psもパワーアップとなっています。

WLTCモード燃費は、マイチェン前が19.4~20.4㎞/Lだったのが、17.6~18.7km/Lと少し低下しています。しかし、200㏄の排気量アップと、20psのパワーアップを考えれば妥当でしょう。十分に優秀な値です。

そして、こちらが本命の1.5Lエンジン+2モーターハイブリッドシステムのe:HEVモデルですが、モーター出力が14psアップして、123psへと大きく向上しています。より力強くスムーズに走り出しが味わえ、加速感も素晴らしく高速域まで一気に車速が上がります。

e:HEVモデルのWLTCモード燃費は27.2㎞/Lです。マイチェン前は27.4㎞/Lなのでこちらも少し(0.2㎞/L)低下していますが、14psもパワーアップしていることを考えると大した差ではないでしょう。誤差の範囲です。

これらはフィットの基本的なパワーユニットですが、肝心のRSのパワーユニットはどうなっているのか。特別なチューニングが施されパワーアップとなったのでしょうか。残念ながらRSでも他のグレードと同じスペックの1.5Lガソリンエンジンと、ハイブリッドのe:HEVのパワートレインが搭載されています。つまり全く同じ。

ただし、RSには他のグレードにはない走行モードとして「スポーツ」が用意されました。このスポーツに切り替えるとアクセル操作に対する応答性がより早くなり、きびきびとした加速感が味わえるようになっています。

サスペンションを締め上げ
シャープなコーナリングが味わえる

シャープなコーナリング
(引用:ホンダ公式HP)

足回りもRSならではの特別仕様になっています。装着されるアルミホイールは放熱効果の高い5ツインスポークの16インチサイズで、装着されるタイヤはグリップ力に優れたヨコハマブルーアースGT。

さらに、サスペンションは標準比でフロントのバネレートを下げて、リアは逆にアップ。ダンパーの減衰力も変更されておりフロントスタビライザーは捻り剛性を4%ほどハードにするなどしてしっかり締め上げられています。これらによってコーナリングもシャープになっています。

パワーユニットに関しては正直肩透かしでしたが、伝統のRSの名を冠しただけあって、エクステリアや足回りにはきっちり手が入っており、手軽にホットハッチの走りが楽しみたいという方の期待にも十分に応えてくれるはずです。

ただ、残念なのがトランスミッションにマニュアル(MT)が設定されていないということ。やはりスポーティな走りを楽しむならダイレクトな変速操作が可能なMTモデルを期待してしまいますが、新型のフィット RSには設定されませんでした。

先代のフィット RSにはちゃんとMTモデルがあったのでこの点だけは非常に残念です。現在のATはMTよりもスポーティでダイレクトな走りが味わえる上、むしろ速いともいわれていますが、RSならやっぱりMT車は欲しいと思ってしまいます。次回のマイナーチェンジで追加されることを期待しましょう。

このように新しいフィット RSは、昔ながらのホットハッチっぽさはすっかり薄れてしまいましたが上質感のあるスポーティなコンパクトハッチとしてはとても魅力的な一台といえると思います。では肝心の価格はどうなっているのでしょう。

フィット RSの価格は
手ごろ195万9,100円から

フィット RSの価格
(引用:ホンダ公式HP)

新しいフィットの価格ですが、1,592,800円~2,664,200円となっています。そして、RSの価格ですが、ガソリン車が195万9,100円(FF)でハイブリッドのe:HEVモデルは234万6,300円(FF)となっています。廃止となったマイチェン前のスポーティグレードNESSの価格はガソリン車が187万7,700円(FF)でe:HEVモデルは222万7,500円なので少しアップした形です。

ただ、エンジンの排気量はアップしていますし、ハイブリッドもパワーアップしています。それにエアロパーツや16インチアルミホイール装着、足回りの変更されたことを考えれば妥当というかかなりお買い得ではないでしょうか。

果たしてこの新しいフィット RSがファンに受け入れられるのか。もし売れれば次のマイナーチェンジでさらなるパワーユニットの強化やMTの追加が期待できるかもしれません。興味がある方は是非ディーラーなどで試乗してみてはいかがでしょうか。